2008年05月21日

警察庁から来た男


警察庁から来た男
著者名:佐々木譲(著)
出版社:角川春樹事務所
出版年:2008.05
ISBN :9784758433396


 『笑う警官』に続く、北海道警シリーズ第2弾。

 前作で道警の裏金問題について議会で暴露した津久井は、報復人事により北海道警察学校に異動となっている。教官ではなく、専門技能を活かしようのない総務担当(雑務専門)として。

 だが、証言封じのため殺人の濡れ衣を着せられた津久井を助けるために奔走した“佐伯チーム”のメンバーを始め、現場には共感する警官も多く、津久井も自らの正義に何ら恥じることのないことを示すため、不貞腐れることなく仕事に励んでいた。

 ある日、北海道警察本部に警察庁から緊急特別監察が入る。事前予告無し、所轄にまで直接事情聴取を行う異例の監察である。

 道警には裏金以外にも根深い不祥事・不正が蔓延っていると考えた警察庁が特に関心を寄せるのは、弁護士と共に人身売買からの保護を求めてきたタイ人少女が、どうやら警察によって暴力団に引き渡された案件。いま一つは、ぼったくりバーでのトラブルによる客の死に殺害の可能性があるにも関わらず、あっさり事故として処理した案件。

 暴力団との癒着が疑われるものの、個人的なものなのか、組織的なものなのか、そして誰が癒着しているのかが判然としない。実態解明のために派遣されたのは、若きキャリア・藤川警視正。

 警察官としての誇りを持ち、不正を許さない、気骨ある津久井に、藤川は協力を要請する。

 一方、大通署の佐伯は、ホテルの部屋荒らしの捜査を進めていた。被害者は、例のバーで死んだ男性の父親。大通署に再捜査の依頼の為、そのホテルに泊まっていたのだという。佐伯は、部下の新宮と捜査を進めるが・・・。

 やがて、藤川とその部下の種田、津久井と佐伯チームのひとりだった小島などによる監察と佐伯の捜査が絡んでくる。

 扱っている事件は決して派手なものではなく、今野敏氏の『隠蔽捜査』のように強烈無比なキャラクタも登場しない。分量的にも340ページ程度で特別長いわけでもない。

 しかし、前作のエピソードも絶妙に絡み(仮に前作を読んでいなくても楽しめるとは思うが)、読後感は非常に充実。

 前作より良い出来だ(と思う)。

 最後の津久井の心の一言は、どうかと思うが(ちょっとダサイのだ・・・)。

 んで、帯の“キャリアのプライドか、ノンキャリアの意地か。”というキャッチもどうかと思うが。

 ともあれ、第3弾も執筆中とのこと、楽しみである。


 次は、『六月六日生まれの天使』(愛川晶・著/文春文庫)。
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2008年04月16日

震度0


震度0
著者名:横山秀夫(著)
出版社:朝日新聞出版
出版年:2008.04
ISBN :9784022644350


 『クライマーズ・ハイ』が堤真一主演で映画化される横山秀夫氏。

 「横山秀夫の警察小説」といえば、安心のブランドである。何作も読むうちに、初めて出会った頃の「!」という気持ちはどうしても薄らぐが・・・それでも、常に一定以上の水準で楽しませてくれる。

 本作も例外ではない。

 阪神大震災の前日、600km離れたN県警で警務課長・不破義仁が失踪した。仕事は優秀で、県警の内部事情に通じ、上司・同僚・部下のいずれからも人望の厚い不破が、どうして誰にも何も語らずに消えたのか?

 N県警1のキャリアではあるが、出世の行先は見え始めた本部長の椎名(46)。N県警2のキャリアで、こちらは将来の警察庁長官の座を争うと目されるやり手の警務部長・冬木(35)。準キャリアで、不破には個人的に恩義を感じているN県警3=警備部長・堀川(51)。地元の叩き上げ(ノンキャリア)で自分こそが3、どころか冬木にも対抗心を燃やす刑事部長の藤巻(58)。そして、同じくノンキャリアで、次の刑事部長の座を狙う、生活安全部長の倉本(57)と交通部長の間宮(57)。

 主に彼ら、N県警幹部6人の視点から描かれる物語と人物造型には、奥行きがある。

 不破が消えたことによる県警内のパワーバランスの崩壊。彼らの抱える野心・権力欲・競争意識・セクト主義・自己保身・相互不信・過去の傷・裏の顔が交差する。

 部下と妻たちの思惑や人間関係も絡む。

 やがて、辿り着く不破失踪の哀しい真相。

 脇役陣を描き切れていないこと、阪神大震災を絡めた効果がほとんど感じられないことには、やや残念・・・。

 しかし、毎度ワンパターンの感想ながら、組織と人間を書くのが上手いし、読ませる。


 次は、『花まんま』(朱川湊人・著/文春文庫)。
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2008年02月10日

隠蔽捜査


隠蔽捜査
著者名:今野敏(著)
出版社:新潮社
出版年:2008.01
ISBN :9784101321530


 このブログを始める前も含めて、今までいろんな警察小説を読んできたが、この作品はこれまでの1である。

 主人公・竜崎伸也は、東大出身の国家公務員。いわゆるキャリアである。現在は警察庁長官官房の総務課課長として、雑多かつハードな仕事の中、マスコミ対策も担っている。

 竜崎はおよそ主人公らしくない。タフでハードボイルドじゃない。クールといえないこともないが、ヒロイックなカッコよさの漂うそれとは無縁。かといって、ヤクザ真っ青の悪徳警官でもない。見た目も冴えない中年である。


“東大以外は大学ではない。”

“竜崎は、規律と秩序を重んじる。組織のためには個人の思惑を犠牲にせざるを得ないこともあると考えている。”

“官僚の世界は常に四面楚歌だ。竜崎はそう信じているから、自然に疑り深くなり、行動も発言も慎重になる。”

“いいか。俺たちはキャリアの幹部だ。いちいち現場に行く必要はないんだ。”


 物語の序盤は、何でこんな人間が主人公なんだ?と訝しく思う。

 だが、読み進むに連れて、彼が自分の原理・原則=エリートは、警察官僚は、国家と国民を守るため、身を捧げ、時に命を捨てるべきだという考えに、徹底的に拘っていることが理解されてくる。

 例えば、深夜、殺人事件の一報が自宅の竜崎に入る。彼はすぐに警視庁に出向くが、自分の他に警察庁から誰も来ていないことに憤る。

「何やってるんだ・・・国家公務員ともあろうものが・・・」

 捜査本部長である小学校時代の友人で同期のキャリア、警視庁刑事部長の伊丹は言う。

「警察庁の課長職にある者が、夜中に電話一本で飛んでくる。そんなの、おまえくらいのものだ」

 竜崎は応える。

「私はすべきことをしているだけだ」

 “行動も発言も慎重になる”といっても、行動しない・発言しないということではない。自分の保身を図りながら、細心の注意を払いつつ、物事を解決するために最善手を探すのだ。保身を図るのは、上司に嫌われたり、左遷されたり、首になったりすれば、自分の仕事を追究できないからだ。決して理想主義者ではない、むしろ現実主義者だ。出世を望むのは、権限が大きくなることで、やれることが多くなるからである。

 警察組織を揺るがす連続殺人事件の雲行き。警察庁最上層部は、警察の威信低下を防ぐため、真相を揉み消そうとする。だが、完全な揉み消しなど不可能であり、わずかでも露呈すれば警察の一層の信用低下に繋がる。真犯人を逮捕・起訴し、真相を可能な限り早く正確に国民に明らかにすることこそが、組織が被るダメージを最小限に食い止める唯一の方策である。竜崎はそう信じ、上司や伊丹の説得にかかる。

 上層部の指示に従おうとする伊丹と翻意を促す竜崎の、正義とは何かを巡る対話が熱い。 

 家庭内の不祥事にも、悩みぬいた末に真正面から対峙することを決めて、自らの左遷・降格・免職を覚悟しながら事に当たる竜崎と、そのことを知った直属の部下(課長補佐)・広報室室長の谷岡が終盤に交わす会話には、思わず目頭が・・・。

 結末も爽やか。竜崎がもの凄くカッコよく見えてくるから不思議だ。

 続編の文庫化が待ち遠しいで。


 次は、『タカイ×タカイ』(森博嗣・著/講談社ノベルズ)。
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2007年10月02日

臨場


臨場
著者名:横山秀夫(著)
出版社:光文社
出版年:2007.09
ISBN :9784334743031


 倉石義男。52歳。独身。槍のように細い体。オールバックのヘアスタイルに、ヤクザな物腰。

 百戦錬磨の刑事たちが自殺や病死と信じる死体を他殺と見破り、どう見ても殺人としか思えない案件を自殺と見抜く・・・L県警歴代.1の凄腕検視官。

 相手が誰であろうと一切媚びない、組織の問題児だが、その貢献度の高さと余人を以って替えがたい能力ゆえに長年異動することなく、『終身検視官』の異名を取る。疎んじる上司も多いが、慕う部下もまた数多い。

 横山氏には珍しくアウトロータイプの人間を主人公に据えた連作短編集。あまりの彼の眼力に、鼻白む向きもあるかも知れないが、ぶっきらぼうな中にも部下や犯罪者に対する深い洞察や愛情を感じさせるところや、彼を取り巻く人間関係・人生模様の描写は相変わらずの練達ぶりで、安心して読めまんなぁ。


 次は、お気に入りの「ビアバー香菜里屋シリーズ」の第3弾、『蛍坂』(北森鴻・著/講談社文庫)。
posted by ふくちゃん at 23:59| Comment(2) | TrackBack(1) | 警察小説

2007年09月30日

犯人に告ぐ(上・下)


犯人に告ぐ 上
著者名:雫井脩介(著)
出版社:双葉社
出版年:2007.09
ISBN :9784575511550


 下巻の途中までは「面白い!映画も絶対観るぞぉ〜!!」と、ページを繰るのもモドカシイほどの勢いで読んだ。


闇に身を潜め続ける犯人。川崎市で起きた連続児童殺害事件の捜査は行き詰まりを見せ、ついに神奈川県警は現役捜査官をテレビニュースに出演させるという荒技に踏み切る。白羽の矢が立ったのは、6年前に誘拐事件の捜査に失敗、記者会見でも大失態を演じた巻島史彦警視だった ― 史上初の劇場型捜査が幕を開ける。第7回大藪春彦賞を受賞し、「週刊文春ミステリーベストテン」第1位に輝くなど、2004年のミステリーシーンを席巻した警察小説の傑作。
(上巻/「BOOK」データベースより)

犯人=“バッドマン”を名乗る手紙が、捜査本部に届き始めた。巻島史彦は捜査責任者としてニュース番組に定期的に出演し、犯人に「もっと話を聞かせて欲しい」と呼びかけ続ける。その殺人犯寄りの姿勢に、世間および警察内部からも非難の声が上がり、いつしか巻島は孤独な戦いを強いられていた―。犯人に“勝利宣言”するクライマックスは圧巻。「普段ミステリーや警察小説を読まない人をも虜にする」と絶賛された、世紀の快作。
(下巻/「BOOK」データベースより)


 まず、上巻の第1章では、6年前の誘拐事件の顛末が語られるのだが、捜査失敗の責任は決して巻島一人に帰せられるものではないし、彼の抱える家族の問題、正義面したマスコミによる糾弾などと相まって、胸が苦しくなるような、腹の煮え立つような気持ちに・・・読み応えあり。

 組織って、生け贄を必要とするもの。マスコミも、分かりやすい構図を求めるもの。

 ・・・などと思いながら。

 だが、連続児童殺害事件の捜査の停滞を受け、左遷された田舎の署で実績を挙げ続けてきた巻島が呼び戻される。無論、そこには上層部の温情などなく、捜査成功の目算もないが、(表面的には心の傷を隠し)より不敵さを増した巻島は、それを承知で新たな捜査責任者を引き受ける。

 ここで、6年前の巻島の苦渋を知っている読者としては、彼に肩入れしたくなるわけ。

 で、捜査責任者がTVで呼びかけるという異例の捜査方法で、どう真犯人に辿りつくのか・・・俗物年下上司の邪魔だてにイライラ、「巻島がんばれ」とドキドキしながら、先を読んでいく・・・。

 しかし、ある偶然に始まって、地道な方法(ケレン味もあるけどさ)で犯人逮捕へ・・・という結末は、地味過ぎるなぁ。これが最初から(良い意味で)地味な警察小説ならともかく、大きく広げた風呂敷の畳み方としては、やや肩透かし。

 ま、現実にもこういう偶然は起こり得ると思うし、捜査なんて実際地味なもんだろうし、じゃあ他にどんな解決方法があるんや?と言われると困るし、文句言う筋合いもないのだろうが、ちょっとラストの展開は物足りなんなぁ。


 次は、地味な警察小説の第一人者による『臨場』(横山秀夫・著/光文社文庫)。
posted by ふくちゃん at 21:51| Comment(4) | TrackBack(1) | 警察小説

2007年05月28日

深追い


深追い
著者名:横山秀夫(著)
出版社:新潮社
出版年:2007.04
ISBN :9784101316710


 先日読んだ『笑う警官』では、「有給休暇」とすべきところが「有休休暇」になっていた。

 ・・・誤植である。

 僕も仕事柄、よく文章を書いたり校正したりするので(といっても出版・編集関係者じゃない)、ひとつの書物を完璧に仕上げる難しさは身に沁みている。だから、誤植を責めるというより、「見〜つけた♪」という感じで愉しんでいるのだが、最近文庫本で誤植に出会う回数が増えたように思う。

 頑張れ校正マン!(著者も!)

 ・・・閑話休題。


不慮の死を遂げた夫のポケットベルへ、ひたすらメッセージを送信し続ける女。交通課事故係の秋葉は妖しい匂いに惑い、職務を逸脱してゆく(表題作)。鑑識係、泥棒刑事、少年係、会計課長…。三ツ鐘署に勤務する七人の男たちが遭遇した、人生でたった一度の事件。その日、彼らの眼に映る風景は確かに色を変えた。骨太な人間ドラマと美しい謎が胸を揺さぶる、不朽の警察小説集―。
(「BOOK」データベースより)


 1つの警察署を舞台に描かれる、7人の警察官(1人は正確には警察官ではなく警察事務職)が主人公の、独立した7つの物語。「組織」と「個人」を描くにあたって、たまたまその舞台が「警察」であり、主人公が「警察官」であるという、著者お得意のパターンである。

 氏の長編も短編も読んでいる身としては、やはり短編にこそこの人の魅力があると再認識した次第。

 それぞれにほろ苦く、それでいてかすかに爽やかな読後感が残る。愚かで、愛すべき等身大の人間達が織り成す小さな、しかしながら決定的な瞬間を切り取った物語。

 この味は子供には分かるまい・・・(笑)。


 次は『イナイ×イナイ』(森博嗣・著/講談社ノベルズ)。
posted by ふくちゃん at 23:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 警察小説

2007年05月26日

笑う警官


笑う警官
著者名:佐々木譲(著)
出版社:角川春樹事務所
出版年:2007.05
ISBN :9784758432863


 佐々木譲氏は初読み。最近、『制服捜査』や『警察庁から来た男』など、警察小説の評判が良いようなので買ってみた。『笑う警官』といえば、海外モノに同名の有名先行作品があるが、読んだことはない。

 物語は、実際に数年前大騒ぎになった(はずなのにもう忘れている)北海道警察の不祥事 ― 現職警部による拳銃摘発実績の捏造と覚せい剤取締法違反容疑(使用と販売)での逮捕、自首して警部逮捕のきっかけをつくった情報屋の不可解な死、警部の上司の自殺、裏金疑惑など ― を下敷きにしたもの。


札幌市内のアパートで、女性の変死体が発見された。遺体の女性は北海道警察本部生活安全部の水村朝美巡査と判明。容疑者となった交際相手は、同じ本部に所属する津久井巡査部長だった。やがて津久井に対する射殺命令がでてしまう。捜査から外された所轄署の佐伯警部補は、かつて、おとり捜査で組んだことのある津久井の潔白を証明するために有志たちとともに、極秘裡に捜査を始めたのだったが…。北海道道警を舞台に描く警察小説の金字塔、「うたう警官」の文庫化。
(「BOOK」データベースより)


 警察上層部は、津久井が県議会で警察の不正(上司の警部あるいは組織による拳銃摘発実績捏造・覚せい剤の売買・裏金)を証言する=「うたう」ことを阻止するために、彼を水村巡査殺害の犯人に仕立て上げる。そして、拳銃所持および覚せい剤乱用により危険という理由で射殺命令を出すのだが、こんな恐ろしいことはフィクションだけの話にしておいてもらいたい。

 ・・・が、現実の不祥事でも、情報屋の不可解な死や上司の自殺には疑いの目が向けられているようだ。

 やれやれ。

 まあ、これが現実だと思うと胸糞悪いが、フィクションとしてのこの作品はなかなか楽しめる。

 翌朝の県議会での証言までの約半日、佐伯たちのチームは、県警組織を向こうに回して津久井を匿い通し、真犯人を割り出して射殺命令を撤回させることができるのか?チームに潜む正体不明の上層部のスパイを欺きつつ、津久井を無事に県議会まで送り届けられるのか?その虚々実々の頭脳戦。そして、佐伯や彼に協力する警察官たちの矜持。

 ・・・どうやら、映画化されるみたい。

 それにしても、くだらないダジャレばかり云うという設定の植村刑事のダジャレが本当にくだらなくて寒い・・・。

 あとがきによると、単行本の『うたう警官』から文庫本の『笑う警官』への改題は、『うたう警官』というタイトルが分かりにくいという評判があったのと、角川春樹氏のアドバイスによるものらしいが、読んだ感想としては『うたう警官』の方が絶対しっくりくるな。


 続いても警察小説で、『深追い』(横山秀夫・著/新潮文庫)。
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2007年03月04日

あなたに不利な証拠として


あなたに不利な証拠として
著者名:ローリー・リン・ドラモンド(著)
     駒月雅子(訳)
出版社:早川書房
出版年:2006.02
ISBN :9784150017835


 『このミス2007年版』と『週刊文春2006傑作ミステリーベスト10』の海外部門で第1位、アメリカ探偵作家賞受賞の逸品である。

 「ミステリ」という感じはあまりしない。謎はあっても謎解きそのものが主題ではないし、トリックやそれを打ち破る名推理があるわけでもない。

 舞台は全てルイジアナ州のバトンルージュ市警察。全体は5人の女性警察官を描いた5つの章から成る。各章につき1篇〜数編の物語(5人の人生)が綴られ、それぞれの章はかすかにリンクする。

 主人公の5人を始め、登場する警察官は皆何らかの問題を抱えている。彼女たちもまた我々と同じ生身の人間であり、完全無欠のヒロインではない。職務に忠実で、有能なプロではあるが、様々な死(自分の、同僚の、被害者の、犯人の)と隣り合わせの日常は、いろんな形で彼女たちを蝕んでいるようだ。

 考えてみれば、こういう環境の中で「普通」(の定義は難しいが)であり続けることは並大抵のことではないように思える。壊れた彼女たちの仕事ぶり、生活ぶりを肯定も否定もしない、どこか淡々とした描写がリアルで、不穏な緊張感を漂わせつつ、読ませる。

 著者は、実際にバトンルージュ市警で5年間女性警察官として勤め、交通事故がきっかけで30歳で退職。執筆にあたっては、古巣のバトンルージュ市警の第一線の警察官から本部長までが協力しているそうだ。

 これには驚いた。決して警察を美化した物語ではないからだ。かといって声高に批判する書でもないのだが、なんせ誤ってとはいえ、女性警察官が被疑者を撃ち殺し、それを隠蔽する物語まであるのだ。フィクションではあっても、こういう作品に日本の警察が協力することは絶対ないだろう。このあたり、アメリカも懐が深い、などと思う。

 本書は、12年の歳月をかけて編まれたデビュー作品集。じっくり熟成された優れた短編を読むのは至福のひと時であった。

 2作目は、やはりバトンルージュを舞台にした長編だそうだ。日本で刊行されるのは随分先になるだろうが、楽しみに待ちたい。


 現在は『水滸伝・五 玄武の章』を読んでいる。
posted by ふくちゃん at 18:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 警察小説