弥勒の月 著者名:あさのあつこ(著)
出版社:光文社
出版年:2008.08
ISBN :9784334744564
『バッテリー』のあさのあつこ氏、初の時代小説。
・内容
小間物問屋遠野屋の若おかみ・おりんの水死体が発見された。同心・木暮信次郎は、妻の検分に立ち会った遠野屋主人・清之介の眼差しに違和感を覚える。ただの飛び込み、と思われた事件だったが、清之介に関心を覚えた信次郎は岡っ引・伊佐治とともに、事件を追い始める…。“闇”と“乾き”しか知らぬ男たちが、救済の先に見たものとは?哀感溢れる時代小説。
(「BOOK」データベースより)
藤沢周平氏に憧れて、時代小説を書いたというあさの氏。初期の藤沢作品を思わせるような、どちらかといえば暗い色彩の時代小説だ。
主人公の信次郎は、若いながらも優れた同心だが、心のうちに渇いた虚無を抱え、いつもどこか尖っている。少しでもバランスを崩せば、破綻しそうな危うさも感じさせる。はっきり言って、僕には共感しにくいキャラ。
その手下の岡っ引き・伊三次・・・じゃなくて、伊佐治(いさじ)は、信次郎の父・右衛門(えもん)にも仕えていた大ベテラン。人間味に溢れていた右衛門と信次郎の落差に戸惑いながらも、信次郎をしっかり支える。伊佐治と信次郎の時に軽妙な(しかし、どこか緊張を孕んだ)遣り取りが、この作品の重たさを辛うじて緩和してくれるのだ。
そして、妻の死の調べを信次郎に頼む遠野屋主人・清之介は、実は凄絶な過去を抱えた“修羅”である。闇の世界から普通の世界へと自分を導いてくれた大切な人を、過去の亡霊に奪われた彼は何処へ行くのか・・・。
気になる終わり、続きがありそうな終わり方・・・と思ったら、案の定。この後、『夜叉桜』という続編があり、さらに続くようだ。
あさの氏曰く、まだ信次郎、伊佐治、清之介たちの全貌が掴めない、だから書きたいということらしい。
なかなか面白い。
既にして、他の時代小説とは異なる個性がある。好き嫌いは分かれそうだが(って何でもそうだが)大したものだ。
次は『六とん2』(蘇部健一・著/講談社文庫)。