2008年09月30日

ソー・ザップ!


ソー・ザップ
著者名:稲見一良(著)
出版社:角川書店
出版年:1993.06
ISBN :9784041886014


 全国の数少ない(と思われる)稲見一良ファンの皆さん、またひとつ復刊だ!書店へ走れ!

 「今月の編集長フェア」。

 人気作家が月替わりで編集長を務める角川文庫のキャンペーン。編集長オススメ作品のうち、絶版モノは復刊される。

 で、9月の編集長・金城一紀氏の推薦で、この作品は復刊された。新聞の全面広告でそのことを知って、すぐに大きな書店に行ったが、新刊売り場に本がない・・・。

 もしや・・・と思って、通常の角川文庫エリアに行くと1冊だけ発見。どうやら、そんなに数、刷ってないようだ。

 恩田陸編集長のオススメ復刊『ひでおと素子の愛の交換日記』(愛読者だった!)は、平積みだったのに・・・。

 で、復刊バージョンのデータがない「ほんつな」。

 むむむ。なんか扱いが・・・。


・内容
人を撃てる。こんな機会を誰が断るか ― 。「パブ・パピヨン」の広い店内で、自分の命に3000万円もの賞金をかけたレッドムーン・シバと名乗る謎の男。挑戦をうけたのは、素手の格闘では無敵の元レスラーのベアキル、手裏剣と小太刀の名人ハヤ、大型獣のハンターのブル、元警官の狙撃の名手・金久木(かなくぎ)。そして ― 5人の男は、舞台として指定されたK山脈系の山野に分け入り、最も危険なゲーム“マンハント”がはじまった。
(裏表紙紹介文より)


 金久木はともかく、登場人物がベアキル、ハヤ、ブルにレッドムーン・シバ。「パブ・パピヨン」のオーナーはフランス人で、ウェイトレスはドイツ人。

 どこの国の話か?

 と思ったら、日本。

 ベアキル、ハヤ、ブル、レッドムーン・シバは、日本人のあだ名。

 この設定にやや引く(笑)。

 ストーリーも現実離れ。

 しかし、そこを我慢して乗り切れば、あとはいつもの稲見ワールドだ。雄大な自然の中でのアウトドア・ライフ&サバイバルが魅力的である。

 そして、現実の世界ではなかなかお目にかかれない、男の矜持と夢とロマンと哀愁。

 渋い。

 今の日本に、こんな作品を書ける作家はいないだろう。

「いったい、生まれながらの強い人間なんているのかね。強くあり続けるということは、強いふりをし続けることだ。弱味を見せないで押し通せるかどうかが男の値段だ」

 渋い。


 次も角川文庫で『心霊探偵八雲3 闇の先にある光』(神永学・著)
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2008年07月21日

高城高全集2 凍った太陽


凍った太陽
著者名:高城高(著)
出版社:東京創元社
出版年:2008.06
ISBN :9784488474027



 高城高氏の復刊全集第2弾。

 で、巻頭は、日本ハードボイルドの原点といわれる作品『X橋付近』(昭和30年)。

 どうなる、どうなる、どうなる・・・と思いながら読んでたら、え!ここで終わり?

 すっかり長編の感覚で読んでいたので、ビックリ。わずか40ページ。

 全集第1弾の『墓標なき墓場』は唯一の長編であって、この著者は短編の人。次の『火焔』(昭和31年)はさらに短く11ページ(!)。他の短編もほとんどが30〜40ページ、最も長い表題作でも約70ページ。

 皆まで書かず、語らず、徹底的に刈り込まれた、読者の想像力を刺激する物語。

 ハードボイルド=長編、ハードボイルド=血と暴力とエロス、という一時期の日本の現代ハードボイルドのイメージを鮮やかに裏切る端正で硬質な世界が、はるか昔に存在したことは驚きだ。

 昨今のライトなハードボイルド(ハードボイルド風というべきか)とも全く違う。

 独立した短編が7本。著者唯一のシリーズものが4本。エッセイが3本。

 いちばん興味深かったのは、由利シリーズ。最初の3本は昭和33、36、37年。最後の1本が著者復帰作となる平成19年。第1作に登場したときは、普通の女子大生だった彼女が、時と共に謎めいた悪女になっていく。恐らくその人格的変貌のきっかけは1作目での恋人の死だろうが、2〜3〜4作目における彼女の正体が全く説明されないところが面白い。1作目で消えた後、彼女はどんな人生を送ってきたのか?


 仕事が忙しく、ひたすらコマ切れ読書だったので、意外に読むのに時間がかかってしまった。次は、『マイナス・ゼロ』(広瀬正・著/集英社文庫)。
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2008年03月22日

高城高全集1 墓標なき墓場


墓標なき墓場
著者名:高城高(著)
出版社:東京創元社
出版年:2008.02
ISBN :9784488474010


 日本のハードボイルド小説の歴史は、この人が1955年に発表した『X橋付近』に始まるそうだ。雑誌『宝石』の懸賞で江戸川乱歩(!)の目に留まり、入選1位となった作品だそうである。

 その後、いくつかの短編と唯一の長編である本作を発表するも、1970年以降は沈黙(本業=新聞記者が忙しいとか、いろいろ理由はあるらしい)。幻の作家となっていたとか。

 ところが昨年、地方の出版社から過去の作品を集めた短編集『X橋付近』が刊行され、『このミステリーがすごい!』と『ミステリが読みたい!』でベストテン入り。37年ぶりの新作も発表されて復活!とのことである。

 文庫本の著者紹介によれば、1935年生まれというから、70歳を越えるわけである。スゴ。

 で、本作。


・内容
昭和33年、夏、北海道。未明の北の海で殿村水産所属の運搬船、天陵丸が沈んだ。乗組員6人は全員死亡。その朝、花咲港に入港した一隻のサンマ船が岸壁に衝突した。海難事故と不審なサンマ船の衝突事故に疑問を抱いた不二新報釧路支局長江上武也は独自の取材を進めた。単なる事故か、それとも事件か・・・。だが、何者かの策謀によって江上は釧路を逐われる。それから3年。かつての関係者が次々と疑惑の死を遂げる釧路の街に、江上は帰ってきた ― 。
(文庫本扉の解説より)


 ま、この作品に関しては「いわゆるハードボイルド」という感じは、あんまりしない。だから、そういう「いわゆるハードボイルド」(的な雰囲気)がお好きじゃない方も安心して読める。

 推理小説としては、ここまで錯綜した事件の構図(よく出来てる)を、この程度の調査と論理(と言えるかどうか“勘”と言った方がいいかも)で、見抜けるとは思えない・・・。

 少々地味だし、特別面白いということはないかな。

 ただ、身長を尺や寸で表したり、現代の読者のために注釈が施されていたりするものの、端正な文章は古臭さを感じさせない。読んで損したという気は全然ない。

 それにしても、この時代の小説に“プリーツスカート”とか“フローリング”なんて言葉が使われているんだなぁ・・・と妙なところに感心。

 巻末の解説や著者本人の言葉からすると、短編にこそ本領がある作家らしいので、5月刊行予定の第2巻(『X橋付近』も収録)も、一応買ってみよう。たまには、こういう歴史を押さえておくのも悪くない。


 次は、『弥勒の掌』(我孫子武丸・著/文春文庫)。
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2007年12月23日

愚か者死すべし


愚か者死すべし
著者名:原りょう(著)
出版社:早川書房
出版年:2007.12
ISBN :9784150309121


 『そして夜は甦る』、『私が殺した少女』、『天使たちの探偵』(これだけ短編集)、『さらば長き眠り』以来9年ぶりに再開された新・沢崎シリーズ長編3部作の第1作が、ようやく文庫化。

 前のシリーズが結構好きだったので、2004年の単行本発売以来、待っていた。

 『誰か Somebody』の記事で、同作を“『このミス2008』の書評子の座談会で、今の日本でリアリティのあるハードボイルドを書こうと思えばこういう作品になると評していた”と紹介したが、確かに今の時代の日本で、沢崎シリーズのような正統派ハードボイルドがリアリティを獲得するのは難しいかな。外国のことは分からないが。

 沢崎のような探偵、いや、沢崎のような男は、おそらく今のこの日本にはいない。ひょっとするといるのかも知れないが、絶滅危惧種に違いない。

 己の矜持に殉じて孤高を貫く・・・憧れはしても実践はほぼ不可能。だからこそ、この主人公に痺れるか、虚構を感じてしまうか、ビミョーなところではある。

 あと今回、特に気になったのは女性キャラのリアリティの無さ。登場する女性がほとんど美人ばっかり・・・というのはご愛嬌?だとしても、彼女達の口調が堅いというか、不自然というか、こういう喋り方をする女性は今の日本には存在するまい。ひょっとするといるのかも・・・以下同文。

 う〜ん。

 まぁ、新作が出たらまた読むとは思うけど。


 次は『自分の感受性くらい』(茨木のり子・著/花神社)。
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2007年03月22日

ロング・グッドバイ


ロング・グッドバイ
著者名:レイモンド・チャンドラー(著)
     村上春樹(訳)
出版社:早川書房
出版年:2007.03
ISBN :9784152088000


 やっと読み終えた。とにかく分厚い単行本。5cmはある。

 ハードボイルド読みではなくとも、読書好き、特にミステリ好きなら、私立探偵フィリップ・マーロウとその創造主レイモンド・チャンドラーの名前を知らない人はいないだろう。

 ・・・とエラそうに言ってみたものの、僕も読んだのは初めて。

 なんせ、我がベスト・フェイバリットの村上春樹氏が世に問う、フィリップ・マーロウものの代表作『長いお別れ』の新訳。しかも、春樹氏本人が非常に影響を受けたという作家と作品である。

 読まないわけにはいかない。

 ひょっとしたら、「村上春樹」と「ハードボイルド」が結びつかないという方もいるかもしれない。しかし、ファンなら先刻ご承知の通り、春樹氏には『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』という作品(大好きだ!!)があり、ハードボイルド・タッチの語りが楽しめる。

 だが、今回『ロング・グッドバイ』を読んでみて、この作品がそんな表層的なレベルにとどまらない影響を春樹氏とその作品に与えていることを得心した。

 そして、春樹氏が本書の長い訳者あとがきで述べておられるように、フィッツジェラルドの『グレート・ギャッツビー』との相似性も確かに強く感じたし、『ロング・グッドバイ』がその後の純文学に大きな影響を与えたという考察にも納得である。

 一般的にイメージするところの(陳腐な意味合いでの)ハードボイルドとは全く違う。春樹氏がこの作品を一切「ハードボイルド」とは呼ばないのも頷ける。

 僕も今までいくつかのハードボイルドを読んできたし、好きな作品もあるけど、そのいずれともテイストが違う。

 純文学がハードボイルド・ミステリより上位の文学などと言うつもりは毛頭ないが、純文学のような味わいの小説である。

 それもくだらない純文学ではなく、優れた純文学の。


 で、次もミステリ。『水に描かれた館』(佐々木丸美・著/創元推理文庫)を読み始めたところ。
posted by ふくちゃん at 23:23| Comment(2) | TrackBack(0) | ハードボイルド

2006年10月18日

枯葉色グッドバイ


枯葉色グッドバイ
著者名:樋口有介(著)
出版社:文藝春秋
出版年:2006.10
ISBN :4167531046


 樋口有介氏は、決してメジャーな作家ではないと思うのだが、どうだろう?

 樋口氏には、私立探偵兼フリライターの柚木草平を主人公とする『彼女はたぶん魔法を使う』(90年)、『初恋よ、さよならのキスをしよう』(92年)、『探偵は今夜も憂鬱』(92年)という作品がある。一応は人気シリーズと言われ、TVドラマ化(いわゆる2時間サスペンスだったと思うが・・・)されているのだが。

 その昔、『彼女は〜』と『初恋よ〜』を読んで(かなり甘めのハードボイルド・ミステリだったと記憶しているが・・・)、結構良かったと思うのだが、世間的にはこのシリーズも、その後の様々な著作もあんまり話題になっていないような気がする。僕自身もこの2作以外は読んでいないか、読んだとしても忘れている。

 で、本作である。

 まず、文庫本裏面の紹介文を読んで、興味を思った。


「誰もがなりたくないと思い、それでいて誰もがなれてしまう。そこがホームレスの面倒なところだな」。代々木公園のホームレスで元刑事の椎葉明郎は、女性刑事、吹石夕子に日当二千円で雇われ、一家惨殺事件の推理に乗り出す。考えるホームレス、椎葉の求めた幸せとは?ハートウォーミングな長篇ミステリ。


 警視庁きっての優秀な刑事だったのに、ある不幸な事件で世を捨ててホームレスになった男が主人公、という設定が面白そうだなと。

 今までにない設定の探偵である。いや、あるかも知れないが・・・。僕はとにかく知らないので、新鮮な設定だった。

 あと、巻末の池上冬樹氏の解説によると、著者自ら最高傑作と言っているということだったので。

 余談だが、池上氏は僕のあまり好きじゃない(ハッキリ言うと嫌いな)評論家の1人である。評論家の中には、書評や文庫本の解説で歯の浮くような賞賛・絶賛の文章を書く人が何人かいるのだが、池上氏もその1人。あくまで僕の感性では、ということだが。

 で、とにかく読んだ。

 当たりだった。

 謎も伏線もあるが「ミステリ」というよりも、やはりハードボイルドという感じだ。ジャンルなんて便宜的なものだから、どうでもよいと言えば、どうでもよいが。

 優れたハードボイルドには、良いセリフ・良い会話(お洒落orクスッと笑える)、ほどよい感傷、主人公独特の哲学がある。


「ふーん、今日はずいぶん、化粧が濃いじゃないか」
「紫外線よけのファンデーションです」
「女も歳をとると小道具に金がかかるな」
「どうせ素面(すっぴん)では、女子高校生には敵いませんよ」
「小皺も肌のくすみも、人生の哀感がにじみ出て、お洒落だぞ」
「そんなもの、にじませたくありません」
「年齢の澱(おり)は天国への通行証、無駄な抵抗はせず、運命に身を任せることだ」


 ・・・まあ、実生活ではこんな会話はなかなかできそうにない。しかし、これが小説のよいところである。リアルだけを求めるなら、小説を読む必要などないのだから。

 この作品、これ一作で終わるとしたら、ちょっとモッタイナイ。ぜひシリーズ化して欲しいものである。

 ところで、最近『彼女は〜』と『初恋よ〜』が、創元推理文庫から再刊された(元は講談社文庫)。ハードボイルド嫌いの人にもわりと取っ付き易いと思う(保証せず)ので、ご一読を。


 次に読むのは、バッテリーシリーズで人気(僕も愛読)の、あさのあつこ氏によるSF(かな?)、『NO.6』(講談社文庫)。
posted by ふくちゃん at 23:49| Comment(0) | TrackBack(1) | ハードボイルド

2006年10月09日

猟犬探偵


猟犬探偵
著者名:稲見一良(著)
出版社:光文社
出版年:2006.09
ISBN :4334741258


 宝島社の2006年版「この文庫がすごい」で堂々の第2位となった中短篇集『セント・メリーのリボン』。その表題作『セント・メリーのリボン』で登場した「猟犬探偵」竜門卓と狼のような風貌をした相棒の犬ジョーの仕事ぶりを描く連作集である。

 「竜門猟犬探偵舎」が請け負う仕事は、何らかの理由で失踪した猟犬を探し出すこと。祖父の死により相続した大阪府能瀬の3万5千坪の山の中で貧乏暮らしをしながら、自身も猟を嗜む。寡黙で、タフで、弱い者に優しく、長いものには巻かれない。体を鍛え、自らに課した規範に則って、プロの仕事に徹するが、自分の矜持を守り、他人の誠実さに応えるためには、時にビジネスを超えて行動する・・・。

 竜門はくたびれた中年男でもあるが、男のひとつの理想像だと思う。女性の読者には意外に受けないような気がするが、どうだろう?

 「狩猟」をモチーフにした、ハートウォーミングなハードボイルド『猟犬探偵』は、『セント・メリーのリボン』共々10年ほど前に新潮文庫から一度発刊されたものである。著者の稲見一良氏は1994年にガンで逝去されているので、このシリーズの続きを読むことはできないが、地味ながらも上質な物語が再び我々の前に現われたのは幸福というほかはない。

『野生動物への愛惜、銃や武器への執着、野外自然への憧憬をこめて、ぼくは狩りの話を書いていきたい。<狩猟小説>という呼び名があるかどうか知らないが、ハードボイルドの厳しさと感傷を底流にした闘争の話を書こう』

 デビュー作『ダブルオー・バック』(未読)のあとがきでこのように語ったという著者の、山本周五郎賞を受賞した『ダック・コール』(ハヤカワ文庫)は、まさにこの言葉通りの珠玉の作品集である(3度読み返した)。ぜひ、併せてご一読を。

 稲見氏の他の作品も、ぜひ再刊していただきたいものである。

 さあ、次は『脇役 慶次郎覚書』(北原亞衣子・著/新潮文庫)を読むぞ。
posted by ふくちゃん at 02:04| Comment(4) | TrackBack(3) | ハードボイルド