さまよう刃 著者名:東野圭吾(著)
出版社:角川書店
出版年:2008.05
ISBN :9784043718061
東野圭吾は好きな作家のひとりである。
だが、抜群のリーダビリティは認めつつも、それゆえにどこか“軽い”という気がしないではない。『白夜行』のような重厚な作品や、加賀恭一郎シリーズのように綿密に書き込まれた作品ですら読んだソバから消えていくような・・・。
・・・しかし、これは重い・・・。
胸が締め付けられて息苦しくなるような強烈な作品である。
・内容
長峰の一人娘・絵摩の死体が荒川から発見された。花火大会の帰りに、未成年の少年グループによって蹂躪された末の遺棄だった。謎の密告電話によって犯人を知った長峰は、突き動かされるように娘の復讐に乗り出した。犯人の一人を殺害し、さらに逃走する父親を、警察とマスコミが追う。正義とは何か。誰が犯人を裁くのか。世論を巻き込み、事件は予想外の結末を迎える―。重く哀しいテーマに挑んだ、心を揺さぶる傑作長編。
(「BOOK」データベースより)
妻を亡くし、一人娘の成長だけが生きがいの長峰は実直で優しい男である。娘の方にも、高校生という年頃にありがちな父親への反発はそれほどでもない。結構仲の良い親子なのだろう。
その娘を蹂躙して殺したのは、悪逆非道で人を人とも思わない、低劣で身勝手な己の快感原則だけに生きる少年達。命の大切さ、他人を思う気持ちなどかけらも無い。長峰の娘だけでなく、多くの娘を毒牙にかけている。
とにかく、この書き分けが徹底している。読者の99%は長峰の心情に同調し、吐き気がするほど少年達を嫌悪するだろう。作品に登場する多くのキャラクタと同様に。
作者は突きつける。少年法はこんな少年達をすら守るためにあるのか。更生なんて不可能としか思えないような人間まで、(更生の可能性がゼロでない以上)その未来と人権を守るべきだというのか。他人を大事にすることの大切さを教育されなかった少年達もある意味、被害者だというのか。本当の被害者が心の底から救われたと感じることは決して無いのに、加害者を救おうとする。それが正義であり、法なのか?反省さえすれば許して良いのか?殺された命は戻らないのに。
この作品をもってして東野圭吾が死刑賛成論者と決め付けるのは早計だろうが、100%の悪を前にした理想主義の虚しさを暴き出す。
誰が長峰の思いや行為を責められる?読みながら、彼の復讐が成就することを願う。
だが、一方でそれを正面から容認すれば、この世は法治国家ではなくなり、復讐や仇討ちを認める無法の世界になるのだが・・・。
起こった凶悪犯罪には厳罰が必要だろう。だが、見せしめの厳罰だけでは犯罪抑止は無理だ。犯罪を未然に防ぐには、そうなる前に教育(だけじゃないけど)が必要だろう。でも、人間と人間の世がある限り犯罪はゼロにはならないだろうし・・・と頭の中が堂々巡り。
最後、密告電話の正体が分かるくだりがあるからミステリと呼べるが、それが無ければ完全に社会派作品。ハードだ。
次は『クドリャフカの順番』(米澤穂信・著/角川文庫)。


>抜群のリーダビリティは認めつつも、それゆえにどこか“軽い”という気がしないではない
私もいつもそれを感じていました。
多作の作家さんにはそういうことが多いような気もしています(偏見でしょうか?)
光市母子殺害事件のことなどを思い出しながら読みました。
短絡的でいけないこととは思いながら、やはり長峰の復讐を応援してしまっている自分がいました。
重くて難しい問題提起でしたよね。
ちなみに、東野氏の作品で一番すきなのは「白夜行」です。
>多作の作家さんにはそういうことが多いような気もしています。
僕も同感です。
面白いことは面白いんですよね。
でも、一生大切にするかと言われると・・・。
しかし、この作品はずっしり来ますね。