隠蔽捜査 著者名:今野敏(著)
出版社:新潮社
出版年:2008.01
ISBN :9784101321530
このブログを始める前も含めて、今までいろんな警察小説を読んできたが、この作品はこれまでの1である。
主人公・竜崎伸也は、東大出身の国家公務員。いわゆるキャリアである。現在は警察庁長官官房の総務課課長として、雑多かつハードな仕事の中、マスコミ対策も担っている。
竜崎はおよそ主人公らしくない。タフでハードボイルドじゃない。クールといえないこともないが、ヒロイックなカッコよさの漂うそれとは無縁。かといって、ヤクザ真っ青の悪徳警官でもない。見た目も冴えない中年である。
“東大以外は大学ではない。”
“竜崎は、規律と秩序を重んじる。組織のためには個人の思惑を犠牲にせざるを得ないこともあると考えている。”
“官僚の世界は常に四面楚歌だ。竜崎はそう信じているから、自然に疑り深くなり、行動も発言も慎重になる。”
“いいか。俺たちはキャリアの幹部だ。いちいち現場に行く必要はないんだ。”
物語の序盤は、何でこんな人間が主人公なんだ?と訝しく思う。
だが、読み進むに連れて、彼が自分の原理・原則=エリートは、警察官僚は、国家と国民を守るため、身を捧げ、時に命を捨てるべきだという考えに、徹底的に拘っていることが理解されてくる。
例えば、深夜、殺人事件の一報が自宅の竜崎に入る。彼はすぐに警視庁に出向くが、自分の他に警察庁から誰も来ていないことに憤る。
「何やってるんだ・・・国家公務員ともあろうものが・・・」
捜査本部長である小学校時代の友人で同期のキャリア、警視庁刑事部長の伊丹は言う。
「警察庁の課長職にある者が、夜中に電話一本で飛んでくる。そんなの、おまえくらいのものだ」
竜崎は応える。
「私はすべきことをしているだけだ」
“行動も発言も慎重になる”といっても、行動しない・発言しないということではない。自分の保身を図りながら、細心の注意を払いつつ、物事を解決するために最善手を探すのだ。保身を図るのは、上司に嫌われたり、左遷されたり、首になったりすれば、自分の仕事を追究できないからだ。決して理想主義者ではない、むしろ現実主義者だ。出世を望むのは、権限が大きくなることで、やれることが多くなるからである。
警察組織を揺るがす連続殺人事件の雲行き。警察庁最上層部は、警察の威信低下を防ぐため、真相を揉み消そうとする。だが、完全な揉み消しなど不可能であり、わずかでも露呈すれば警察の一層の信用低下に繋がる。真犯人を逮捕・起訴し、真相を可能な限り早く正確に国民に明らかにすることこそが、組織が被るダメージを最小限に食い止める唯一の方策である。竜崎はそう信じ、上司や伊丹の説得にかかる。
上層部の指示に従おうとする伊丹と翻意を促す竜崎の、正義とは何かを巡る対話が熱い。
家庭内の不祥事にも、悩みぬいた末に真正面から対峙することを決めて、自らの左遷・降格・免職を覚悟しながら事に当たる竜崎と、そのことを知った直属の部下(課長補佐)・広報室室長の谷岡が終盤に交わす会話には、思わず目頭が・・・。
結末も爽やか。竜崎がもの凄くカッコよく見えてくるから不思議だ。
続編の文庫化が待ち遠しいで。
次は、『タカイ×タカイ』(森博嗣・著/講談社ノベルズ)。


これが面白いと思えるなら、間違いなく続編も面白いと思えるはずです。文庫は…本書と同じペースだとすると来年の年末くらいでしょうか。(^^;
higeruさんは、もう続編も読まれたのでしたね。
待ち遠しいです。
私もこの本はつい最近読んで、かなり胸を熱くさせられました。
竜崎の人間性にとても打たれました。
全国の公務員の皆様に読んでいただきたい
ですよね!!
身近にいたら、ひょっとしたら、相手しづらいかも知れません(笑)。
でも、ここまで真剣に真の意味でのエリートたろうとする人は立派ですよね。
久しぶりにお邪魔させていただきます。
竜崎は読み始めは嫌な感じでしたが、「すべきことをしているだけ」の姿勢が見えるとじわじわと魅力の感じられる不思議な男でした。
自分の父親ではあって欲しくないと思いますが(笑)。
>自分の父親ではあって欲しくないと思いますが(笑)。
確かに(笑)。父親もそうですが、同僚もちょっと嫌かも。。。