2008年02月04日

アラビアの夜の種族(全3巻)


アラビアの夜の種族 1
著者名:古川日出男(著)
出版社:角川書店
出版年:2006.07
ISBN :9784043636037


 『この文庫がすごい!2007年版』第4位である。読みたいと思っていたが、ようやく手に取った。文庫本の腰帯によると『月刊PLAYBOYが選ぶこの10年のベスト・ミステリー』第1位だそうだ。

 だが、僕は『ファンタジー・幻想文学』にカテゴライズしてみた。


 時は18世紀。処はエジプト、首都カイロのマムルーク王朝(正確には今は王朝ではない)。マムルークとは“奴隷”である。しかし、一般的にイメージされる奴隷とは全く異なる。被支配階級ではなく、支配階級なのである。差別され、酷使され、虐げられる存在ではない。幼い頃に、人身売買で購入され、文武両面において、徹底的なエリート教育、競争教育を受ける。脱落者は命を奪われ、一握りの卓越して優秀な人材だけが生き残り、権力者となるのだ。

 今、そのエジプトを平らげんと迫り来るのは、将軍ナポレオン率いるフランス軍。一方のマムルーク軍団は、古典的スタイルの騎馬軍と歩兵。その伝統的スタイルによる戦闘ならば世界最強であり、かつては十字軍を始め、数々の外敵を屠ってきたわけだが、近代的軍隊と化したフランス軍相手に勝ち目は無い。例えて言えば、織田信長や武田信玄の軍勢が、自衛隊と戦うようなものである。

 しかし、近代軍の何たるかを未だ知らぬマムルーク内閣の第1位、勇猛な武人でもあるムラード・ベイは、自らを総大将として迎撃に向かう。内閣第2位、文官タイプのイブラーヒーム・ベイはカイロに残り、自らが第1位に躍り出るチャンスを窺いながら、後方を纏める(“ベイ”は“知事”という意味)。

 そして、近代軍の強さを知る内閣第3位のイスマーイール・ベイ。この国家的危機に頭を痛める彼に、文武に優れた若い執事(もちろん奴隷)アイユーブは献策する。

 すなわち、少しでも触れたならば、読む者を強大な吸引力によって引き摺り込み、決して離さず、最後は破滅に追い込む禁断の物語=『災厄の書』をアラビア語からフランス語に翻訳して、ナポレオンに読ませるというのである。

 実は『災厄の書』なるものは、アイユーブの創作であって、まだこの世には存在しない。しかし、アイユーブは数奇な物語を密かに語り伝える美しい“夜の語り部”ズームルッドを探し出し、最高峰の書家の協力を得て、『災厄の書』づくりを始める。夜な夜な奇想天外な物語が譚られ、書き綴られる・・・。


 アラビア民間伝承の奇想の物語、その英語版を日本語に翻訳した・・・というスタイルで執筆された、まさに奇想の書。

 古川日出男氏が綴る(翻訳する)ナポレオンのエジプト侵攻とそれに対抗するアイユーブの物語の中で、『災厄の書』の物語が語られる。

 まずは、古い古い時代、蛇神の魔女ジンニーアと契りを結んだ人間=魔王(妖術師・魔術師)アーダムの物語。そこから1000年後の白い魔術師・ファラーと勇士サフィアーンの物語。そして、永い時を越えて復活したジンニーアとアーダム、ファラー、サフィアーンの物語。

 地の物語よりも、この『災厄の書』の物語が非常に面白い。ファンタジーとして深みはないけど、エンタメとしてはなかなか。アーダム、ジンニーア、ファラー、サフィアーンの物語が大団円を迎えたときは、「あぁ〜、“物語”を読んだなぁ〜」という充実感とある種の癒し、物語が終わってしまうことへの一抹の寂しさを感じた。

 果たして、『災厄の書』はナポレオンの手に渡り、彼とフランス軍を破滅させ、エジプトを守ることができるのか?

 想像力と妄想力が爆発し、奔流のように飛び交う物語。

 まあ、ちょっと冗長に感じる部分もないでもなかったけどね。でも、ページを繰る手が止まらない。その意味では、この本が『災厄の書』かも。

 ちなみに、古川日出男氏については、昔『2002年のスロウ・ボート』を立ち読みして、「なんじゃい!村上春樹の劣悪なコピーかよ!」と思って(全文読んだわけじゃないので、本当にちゃんと読んだらどういう評価になるかは分からない)敬遠してきたのだが、まあ、この作品は楽しかった。


 次は、『写楽・考 蓮丈那智フィールドファイル3』(北森鴻・著/新潮文庫)。
posted by ふくちゃん at 00:38| Comment(0) | TrackBack(1) | ファンタジー・幻想文学
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※半角英数字のみのコメントは書き込みができないようになっています。

この記事へのTrackBack URL

※半角英数字のみのトラックバックは受信されないようになっています。

古川日出男【アラビアの夜の種族】
Excerpt: いつだったか、夜中に目がさめて、なんとなくテレビをつけたらドキュメンタリー番組をやっていた。ある職人の話。残念なことに、その人に??.
Weblog: ぱんどらの本箱
Tracked: 2008-02-04 14:28