2007年11月09日

その名にちなんで


その名にちなんで
著者名:ジュンパ・ラヒリ(著)
     小川高義(訳)
出版社:新潮社
出版年:2007.10
ISBN :9784102142127


 彼の名は「ゴーゴリ」。

 父アショケと母アシマはインド出身、自身はアメリカ生まれのアメリカ育ち。なのに、与えられたのはロシア人のような名前。

 そもそも、インドでは家族や親戚の中だけの使用する愛称と対外的な正式名、2つの名前を持つのが普通なのだが、正式名をしたためたはずのインドの祖母からの手紙が届かず、アショケとアシマは「ゴーゴリ」という愛称を決めて、出生証明書に記入する名前=正式名としても便宜的に使用することに。

 幼稚園入園に際して、ようやく「ニキル」という正式名が用意されるが、幼いゴーゴリが親しんだ名前を変えられることに抵抗したこと、改名の事務手続が煩雑なことを理由に立ち消えになる。

 ところが、思春期に差し掛かった彼は、インドでもアメリカでも他に見かけないこの名前、周囲のアメリカ人(移民も含めて)とは趣きの異なるこの名前を恥じるようになる。インド人として、アメリカ国民としてのアイデンティティにも関わりかねない。

 大学生となった彼は、遂に自分自身で手続きし、「ニキル」と改名する。

 「ゴーゴリ」という名は、父アショケの好きなロシアの作家ニコライ・ゴーゴリにちなんで付けたとだけ聞かされていたゴーゴリ/ニキルであったが、父の死後、実は若き日の父にとって絶対に忘れられない重大な出来事が関係していたことを知り、改名したことに少し罪悪感を覚えたりもする。

 インド人であることから遠ざかり、アメリカ人でありたいと思い、家族から離れ、両親とは違う生き方を志向する彼。その学業生活、仕事、恋愛、結婚・・・。

 ドラマチックたることを徹底して避ける淡々とした筆致。ほぼ全文が現在形の短いセンテンス。最初は退屈に感じられたこれらの特徴が、徐々に小気味よく響いてくる。名前の問題に象徴される彼の複雑な思いは、彼の人生をどのような場所へ運んでいくのか、気になって仕方がなくなり、先へ先へと読み進めていく。

 不幸な出来事、辛い出来事もあった。だけど、彼も、彼の両親も妹もきっと小説が終わる今=ゴーゴリ/ニキル32歳の時点ではどちらかといえば幸せなのだろう。この先の彼らの人生も読んでみたいと思わせる、静かな余韻漂うアンチ・クライマックスなラストがじわりと良い。彼らの人生はページの向こうでまだ続いている。


 ここからSF3連チャン、まずは『銀河英雄伝説5 風雲篇』(田中芳樹・著/創元SF文庫)。
posted by ふくちゃん at 23:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 純文学
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