卵の緒 著者名:瀬尾まいこ
出版社:新潮社
出版年:2007.07
ISBN :9784101297729
“僕は捨て子だ。子どもはみんなそういうことを言いたがるものらしいけど、僕の場合は本当にそうだから深刻なのだ。(『卵の緒』)”
僕(育生)には父親がいない。「僕は捨て子なの?」と聞いたときの祖父・祖母の反応も怪しい。学校で先生から「へその緒」の話を聞いて、お母さんに「見せて」と頼んだら、割れた卵の殻が入った箱を持ってきて、「卵で産んだのよ」なんて言う。
このお母さんのすっとぼけたキャラがなんとも良くて、自分が捨て子かどうか気を揉む育生との会話が微笑ましくも可笑しい。物語の後半で2人には血の繋がりがないことや、その事情が明らかになるが、むしろお母さんがいかに育生を深く愛しているかが鮮明になって、ほっこり。
お母さんと再婚した職場の上司・朝ちゃんと育生が、赤ちゃんが生まれるまでの間、子育てを「卵」で予行演習する奇妙なエピソードは余計な気もするけど、ラストの言葉はすぅ〜と胸に沁みてくる。
この表題作が瀬尾まいこ氏のデビュー作だそうだ。そして、もう一篇。
“七子と七生。父さんがつけた。(略)見る人が口を揃えて、「本当にそっくりね」と驚くほど、顔つきも同じだ。だけど、私と七生は正しい兄弟じゃない。出所が違う。七生は父の愛人の子どもだ。(『7's blood』)”
「愛人の子」のイメージを大きく裏切る、素直でしっかりもので、愛らしい男の子・七生。彼の母親が人を刺して刑務所に入ったのを、「七生の周りにいる大人で自分がいちばんまともそうだったから」という理由で七子の母親が引き取ったのだが、その母親が入院し、高3の七子と小6の七生、異母兄弟2人の生活が始まる。
懸命に七子に近付こうとする七生。あまりに出来すぎた11歳に違和感を抱く七子。2人の間は初め、七子のその違和感が原因でぎくしゃくするが、七生の処世術の理由や七子に向ける本当の想いを知るにつれ、心を寄せ合わせていく。
2人の生活は七生の母が刑務所から出てくるまでの期間限定で、七子が感じるようにこの先2人はもう会えないのかも知れない。でも、きっとお互いの中に大切な相手の存在は残り続けて、心を温め続けるのだろう。そう感じさせてくれる小説。
どちらも、父親不在の話。そして母親の強さや深さを感じる話。血が繋がってなかったり、異母兄弟だったり、頭の古い政治家のオヤジが「これぞ理想の家族像です」などというステレオタイプな家族像からは遠く離れた家族のお話。しかし、紛れも無く暖かな家族の絆の物語である。
次は『幻詩狩り』(川又千秋・著/創元SF文庫)。

