銀河英雄伝説 3 雌伏篇 著者名:田中芳樹(著)
出版社:東京創元社
出版年:2007.06
ISBN :9784488725037
現在から見れば遥か未来の物語であり、体裁としてはそのさらに未来から確定した過去の歴史として記述された歴史書。『銀英伝』の第3巻である。
腐敗した貴族を実力で排除し、幼い皇帝の下、22歳にして中央集権国家・銀河帝国の宰相となり、軍事・政治の双方の最高位を手に入れ、事実上の支配者となったラインハルト。
最大の理解者である、最愛の姉と無二の親友兼腹心を失い(注:死んだとは限らない・・・)、孤独に苛まれながらも、少数の貴族を支えるために長年搾取され続けてきた大多数の平民のために、国家の旧弊を改めていく。
一方、先年の大敗戦や軍事クーデターの騒乱で疲弊した民主主義国家・自由惑星同盟にあって「不敗の魔術師」の異名を取るヤン・ウェンリーは、突然査問委員会に召喚され最前線にして最大の要衝地であるイゼルローンから首都星へ赴く。
そして、卓越した指揮官を欠くイゼルローンを、銀河帝国が思いも寄らぬ方法で急襲し、あわや陥落の危機を迎える。イゼルローンの陥落は、すなわち自由惑星同盟全体の敗北に繋がりかねない。
クーデターの後、国家元首としての立場を巧妙に強化したトリューニヒトとその一派で占められた軍部新首脳たちの自己保身に由来する身勝手な嫉妬と恐怖=ヤンがその人気と実力で自由惑星同盟の支配者になろうと画策するのではという疑念が招いた愚かな事態であった。
自由民主主義を標榜するはずの自由惑星同盟における、まるで中央集権国家のようなトリューニヒト派の専横ぶりがなんとも皮肉である。
それにしても、このシリーズのおける登場人物の多彩さは本当に素晴らしい。三国志や水滸伝ほどではないにしても数は多いし、キャラの書き分けでは北方中国歴史小説より上である。そして、組織と個人、権力者・為政者、戦争、歴史に対する、時に辛辣なほど冷徹な視線にも感心&同意する。この雌伏篇が最初にトクマ・ノベルズから刊行されたのは1984年で、著者が30歳を少し越えた頃なのに、ここまで書けるなんて・・・。
さて、およそ高級軍人らしからぬ性格・言動のヤンと周囲の人物たちの関わりは、この小説にユーモアを添えているのだが、今回はヤンの保護下にある少年ユリアン(戦争孤児)が初陣を飾る。
ヤンの被保護者でありながら、生活面では逆にヤンの保護者であるかのようなユリアンはヤンを敬愛し、自分も軍人になりたいと考えていた。実は後年、ヤンやラインハルトにも匹敵する能力の持ち主であることが明らかになるのだが、軍人でありながら軍人を嫌うヤンは、彼が軍人になることには反対していたのだ。このあたりのヤンの葛藤と2人の遣り取りは微笑ましい。
ユリアンの成長物語としても今後が楽しみなのである。
銀河英雄伝説1 黎明篇
銀河英雄伝説2 野望篇
次は、『真夜中の五分前 side-A』(本多孝好・著/新潮文庫)。

