2007年04月16日

男は旗


男は旗
著者名:稲見一良(著)
出版社:光文社
出版年:2007.03
ISBN :9784334742188


 「海洋冒険小説」ではあるが、リアリズム小説ではないので、「ファンタジー」にカテゴライズした。これは「大人のための童話」である。

 「童話」ではあるが、「寓意」や「教訓」はない。荒唐無稽ともいえる活劇をただ理屈抜きで愉しめば良いのだ。


かつて“七つの海の白い女王”と歌われたシリウス号。客船としての使命を終え、今は船上ホテルとして第二の人生を送っていた。ところが経営難から悪徳企業に買収される羽目に。しかしひと癖もふた癖もあるクルーたちが納得するはずがない。やがて謎の古地図に示された黄金のありかを捜し求めて、ふたたび大海原へと出航。爽快かつファンタジックな冒険譚。
(「BOOK」データベースより)


 あの知る人ぞ知る名作『ダック・コール』(91年:山本周五郎賞/92年:このミステリーがすごい国内編第3位)の稲見氏の復刊作品。

 一読して「こんな小説も書くんだぁ」という意外感、「らしいなぁ」という納得感、相反する印象を同時に得た。いずれにせよ、この人の作品は、お洒落で夢があって、ちょっとハードボイルド・タッチで、ユーモアと品がある。


 稲見氏のデビュー作は、89年の『ダブルオー・バック』(絶版/『男は旗』巻末の解説によると、原型となる作品は68年に小説誌に掲載されたそうだ)。

 その後、

90年…『ソー・ザップ!』(絶版)
91年…『ダックコール』(94年にハヤカワ文庫で復刊)
93年…『セント・メリーのリボン』(06年に光文社文庫で復刊)
94年…『男は旗』、『猟犬探偵』(06年に光文社文庫で復刊)、『花見川のハック』(絶版)

を上梓するが、94年に病気で他界。誠に惜しまれる。


 『ダック・コール』は今でも時々読み返すほど気に入ってるが、その後復刊される度に読んだ『セント・メリーのリボン』、『猟犬探偵』も良かったので、そろそろハズレが来るのでは・・・と思いながら『男は旗』を読んだが(←根拠なし)、杞憂だった。

 ま、正直先に読んだ3作品に比べると多少落ちると思うが、それは3作品のレベルが高すぎるということ。

 『男は旗』を批判する人は、「人物が描けてない」なんて言うんだろうな。

 今の小説は人物のディテールをやたらに書き込むことを良しとする風潮があるように思うが、本当にそれがリアリティというものなのか?

 例えば、僕は宮部みゆき氏が好きなのだが、『理由』や『模倣犯』はそういう意味でもうひとつ感心できなかった。冗長に過ぎると思うのだ。どれだけ書き込んでも複数の人物の人となりや、人生の全てを書き尽くすことはできない。ストーリーに直接関係しない情報は刈り込んで、それでもキャラクターが浮かび上がってくる、読者の想像に委ねる・・・というのが小説ではないか?

 ・・・なんて偉そうなことは、この辺で。

 話が逸れた。

 この作品の中に、「わたしが書きたいと思うのは、ハルヲ・サトーのいう“根も葉もない嘘八百”だ。物語の中の男や女と一緒になって、ワクワクドキドキする小説だ」というセリフがある。稲見氏ご本人の小説観なんだろう。

 次は『村上かるた うさぎおいしーフランス人』(村上春樹+安西水丸・著/文藝春秋)。
posted by ふくちゃん at 00:25| Comment(2) | TrackBack(1) | ファンタジー・幻想文学
この記事へのコメント
 この本は新潮文庫の初版本を図書館で借りましたが、ずいぶんと綺麗でした。これは喜ぶべきことか悲しむべきことか…。

 さて、次は『ダブルオー・バック』の予定です。
Posted by higeru at 2007年11月10日 14:06
>higeruさん。
マイナーなんですよね。やっぱり。
生きてもっとたくさんの作品を発表していれば違ったんでしょうけど。
図書館にあるだけでもヨシとすべきでしょうか。
Posted by ふくちゃん at 2007年11月11日 20:36
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【稲見一良】男は旗
Excerpt:  「大人の童話」という評価が多い。さらに言うならば「大人の男のための童話」だろう。実際 《人の心をわくわくさせるようなファンタジー…あのダールが書いた童話のような…そんなものを書いてみたい》 という思
Weblog: higeruの大活字読書録
Tracked: 2007-11-07 22:30