蹴りたい背中 著者名:綿矢りさ(著)
出版社:河出書房新社
出版年:2007.04
ISBN :9784309408415
楽しくて心温まる素敵な思い出はいっぱいあるし、「青春だったなぁ」だし、今でも仲良く酒を酌み交わす一生の友人も得たし、思春期ってのは本当に貴重な宝石のような時間だったと思う。
でも、もう1回あの頃に戻りたいか?とか、永遠にその時間が続いて欲しかったか?と聞かれると、断然NO!である。
自分や自分の日常を、退屈で平凡だなんて認めたくない時代。
実は大して面白くもないことを大声で話し、笑い合い、はしゃいでいた時代。
「あいつ、ノリわる〜」と除け者にされることを恐れていた時代。
過剰な自意識と息苦しい同調圧力。
この小説を読んでいたら、そんな思春期の負のイメージを思い出した。
通り過ぎたからこその甘美な思い出。一度で十分だ。
“この、もの哀しく丸まった、無防備な背中を蹴りたい”長谷川初実は、陸上部の高校1年生。ある日、オリチャンというモデルの熱狂的ファンであるにな川から、彼の部屋に招待されるが…クラスの余り者同士の奇妙な関係を描き、文学史上の事件となった127万部のベストセラー。史上最年少19歳での芥川賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)
思春期特有の人間関係に疲れて、高校入学以後、孤独に身を置く「私」こと長谷川初美。でも、内心は他のクラスメイトと仲良しグループを組んでしまった中学時代の親友にさえ距離を置かれてドキドキ。孤独を満喫するどころじゃない。
同じくクラスで浮いている、ちょっと陰気な感じの男子、にな川。彼の生きる証はオリチャン(オリビアという名前のモデル)に熱中することだけで、自分が「余り者」であることなんか意に介さない。
にな川が「私」に関心を持ったのも、たまたま「私」が中学時代に生のオリチャンと偶然出会い、言葉を交わしたことがあるから、というだけ。
低体温の2人。およそ青春らしくない世界を呼吸する2人。恋愛でも友情でもない関係。でも、なぜか繋がる2人。なぜか「私」の中に度々沸き起こる、にな川の背中を蹴りたいという切なる衝動、というか欲望(欲情?)。
しかし、この若さでなぁ・・・。
『インストール』もそうだったけど、地味で爽やかともいえない小説なのに、なんだこの瑞々しさは?
一見、今の若い人風の口調も交えた(←おっさんコメント)ライトな文章なのに、その実は選び抜かれた言葉たち(もし、これが無造作に書かれた文章だとしたら、それはそれで凄いこと)。
ほとほと感心した。
話題の新作『夢を与える』も早く文庫になってほしい。そして、ゆっくり着実に書き続けてほしいものだ。
で、次は超ベテランの味『十三歳の仲人 御宿かわせみ32』(平岩弓枝・著/文春文庫)。

