山ん中の獅見朋成雄 著者名:舞城王太郎(著)
出版社:講談社
出版年:2007.03
ISBN :9784062756839
カテゴライズに迷ったけど、青春小説にしてみた。
この作品も、舞台は福井県の西暁(にしあかつき)町(架空の町)。14歳の獅見朋成雄(しみともなるお)は、オリンピック候補の逸材と目されるほどの俊足ランナーかつ秀才。だが、祖父や父と同様に、背中にびっしり鬣(たてがみ)が生えている。祖父や父は背中だけだったが、成雄の場合は首周りから肩までも生えている。
オリンピック代表選手の強化合宿に参加するよう誘われた成雄だが、有名になれば自分の鬣のことも広く知れ渡ってしまう。思春期の彼にとって、それは耐え難いこと。せっかくの誘いを断って陸上を捨て、書道の道に入る。というと、なんだか繊細なキャラのようだが、喧嘩も強いし、気風もいいし、舞城作品の主人公らしく、なかなかワイルドな14歳である。
書道の師匠は、近所の山ん中に住む、有名な書家・杉美圃モヒ寛(すぎみほもひかん)。本当はモヒ寛ではなく大寛という名前だが、若い頃モヒカン刈りにしていたので、モヒ寛。相撲を取るのが趣味で、家には土俵があって成雄と稽古に励むし、茶を愉しむ風流人だが、茶室に続く路地の入り口の門には「猫騙し門」、待ち合い室には「がっぷり」、茶室には「うっちゃり堂」てな相撲由来の名前を付けている変人。でも、非常に可愛げのあるキャラで、成雄を「ナルちゃ〜ん」と呼び、成雄は「モヒ寛」と呼び捨て。
で、ある日、モヒ寛が何者かに襲われて、瀕死の重傷を負い、警察から疑われた成雄が犯人探しに乗り出すが・・・。
でも、ミステリじゃない。
この後、展開はむちゃくちゃで、訳の分からない話になっていく。難解ではないし、そこに綴られている事象自体は理解できるけど、常軌を逸したストーリー。
それが面白い。
成雄がひょんなことから軽いノリで鬣を剃り落とすことに決め、いい考えだと思ったのに、実際に剃り落としたら、涙が出て体中の力が抜けて、少しの間寝込んでしまい、「もう自分は以前の自分ではない。自分は変わってしまった。元の自分には戻れない。再び鬣が生え揃っても、それは以前の鬣じゃないし、以前の自分に戻れるわけじゃない」と考えるところは、純文学的深さがある。
・・・無いかも。
罪とは何か、カニバリズムは悪なのか、という問いかけも深い。
・・・浅いかも。
荒唐無稽かつ楽しいエンタメ小説としても読めるし、爽やかな青春小説とも読めるし、純文学とも読める。ファンタジーと言えなくもない。
ところで、舞城氏の文章は一文が長い。受験小論文やビジネス文書の世界では悪文もいいところ。でも、活きが良くてどんどん読める。そして、相変わらず多彩で独創的な擬音語の数々には感心するばかり。そうか、そう聴こえるよな、そう聴こえてもおかしくないよなと納得。
グロい描写は控えめなので、そういうのが苦手(僕も好きではないが)な人にも比較的読みやすいかも。僕はわりと好きだな、この作品。
九十九十九(舞城王太郎)
次は、あっという間に読み終わった『あらしのよるに 2』(きむらゆういち&あべ弘士・著/講談社文庫)。

