あなたに不利な証拠として 著者名:ローリー・リン・ドラモンド(著)
駒月雅子(訳)
出版社:早川書房
出版年:2006.02
ISBN :9784150017835
『このミス2007年版』と『週刊文春2006傑作ミステリーベスト10』の海外部門で第1位、アメリカ探偵作家賞受賞の逸品である。
「ミステリ」という感じはあまりしない。謎はあっても謎解きそのものが主題ではないし、トリックやそれを打ち破る名推理があるわけでもない。
舞台は全てルイジアナ州のバトンルージュ市警察。全体は5人の女性警察官を描いた5つの章から成る。各章につき1篇〜数編の物語(5人の人生)が綴られ、それぞれの章はかすかにリンクする。
主人公の5人を始め、登場する警察官は皆何らかの問題を抱えている。彼女たちもまた我々と同じ生身の人間であり、完全無欠のヒロインではない。職務に忠実で、有能なプロではあるが、様々な死(自分の、同僚の、被害者の、犯人の)と隣り合わせの日常は、いろんな形で彼女たちを蝕んでいるようだ。
考えてみれば、こういう環境の中で「普通」(の定義は難しいが)であり続けることは並大抵のことではないように思える。壊れた彼女たちの仕事ぶり、生活ぶりを肯定も否定もしない、どこか淡々とした描写がリアルで、不穏な緊張感を漂わせつつ、読ませる。
著者は、実際にバトンルージュ市警で5年間女性警察官として勤め、交通事故がきっかけで30歳で退職。執筆にあたっては、古巣のバトンルージュ市警の第一線の警察官から本部長までが協力しているそうだ。
これには驚いた。決して警察を美化した物語ではないからだ。かといって声高に批判する書でもないのだが、なんせ誤ってとはいえ、女性警察官が被疑者を撃ち殺し、それを隠蔽する物語まであるのだ。フィクションではあっても、こういう作品に日本の警察が協力することは絶対ないだろう。このあたり、アメリカも懐が深い、などと思う。
本書は、12年の歳月をかけて編まれたデビュー作品集。じっくり熟成された優れた短編を読むのは至福のひと時であった。
2作目は、やはりバトンルージュを舞台にした長編だそうだ。日本で刊行されるのは随分先になるだろうが、楽しみに待ちたい。
現在は『水滸伝・五 玄武の章』を読んでいる。

