| ポーの話 |
 | 著者名:いしいしんじ(著) 出版社:新潮社 出版年:2008.09 ISBN :9784101069289 |
街を東西に分かつ大きな泥の川。太古から岸辺に住み、うなぎ捕りを生業にする不特定多数の逞しい「うなぎ女」たち。
ある日、彼女たちの1人から生まれた元気な男の子「ポー」。
“こぶりだが頑丈そうな頭。たまご型のぎょろ目に、たった今、なにかをこころに決めたような強いまなざし。骨ばった鼻のした、くちびるは真横に結ばれ、ぴくりとも動く様子がない。それらおとなびた面立ちのいっぽう、首をかしげ気味にし、ぷかぷかと川面に浮かぶその立ち姿には、あらゆる悪意から無防備な、おさな子そのものといった雰囲気があった。この世の憂いや苦しみに一度もさらされたことがないような、現実ばなれした子どもっぽさと、みずからの信念にあくまでも忠実な、がんこな男の顔とが同居している。”(p40)
真っ黒な体躯と水掻きのついた手で、泥の川を何分間でも息継ぎ無しで縦横無尽に泳ぎまわる。「うなぎ女」たち全員を母として、愛情に包まれた日々。
やがて、路面電車の運転士にして、独身・人妻問わず毎日違う女のベッドで寝る街一番のモテ男、その実はそれが盗みの下調べという希代の盗っ人「メリーゴーランド」と知り合い、自らも夜な夜な盗みを働くようになる(それが悪事だという認識はない)。盗んだ品物を故買屋に売ったお金で、新品の調理道具や仕事道具をうなぎ女たちに買ってやるのだ。
しかし、なんだかモヤモヤする。それは「罪悪感」だと、メリーゴーランドの妹「ひまし油」は言う。ポーにはよく理解できないが、盗みは止めない。モヤモヤを解消する素敵な方法を見つけたから。
ある夏、500年振りの豪雨がやって来る。川は氾濫し、街は破壊され、ポーは「天気売り」(コンパクトを覗いて天気予報をする。鏡の中が晴れなら明日も晴れ。でも、それは今日の天気だから当然よく外れる)と共に馴染んだ場所を離れ、下流に流される。
「子ども」という名の猟犬と体の弱い孫と暮らす「犬じじ」の下での温かな日々。
「埋め屋」(廃棄物処理屋)とレース鳩の飼育に情熱を注ぐ巨大なその女房に理不尽に虐げられる日々。
やがて、ポーはひとり辿り着いた年寄りばかりの寂れた漁村(でもコレがとても魅力的な場所)で、世界に対する自分の“役割”を知ってゆく。
楽しくて、やがてどこか寂しい不思議な物語。
『崖の上のポニョ』より『ポーの話』だよな。よっぽど深い。これ、映画化したら傑作になるぞ。
「わしらはな、死んだからだを、なにより大事に扱わなけりゃならねえ。この世の、どんなものよりいちばんにだ。わしは猟師だから、とりわけそう思うのかしれねえな。息をしなくなったからだはもう、それをもってたやつだけのものじゃない。わしらみんなのものさ。死んだからだをていねいに扱うとき、わしらの目それぞれが、死んだそいつの目になるんだ」
「見えない世界に、まっすぐ向けられた目だ。生きたわしらに、その場所は決して見えねえ。けど、死んだ目を通して、そいつを感じとることならできる。そこがあると信じられるから、わしら猟師は、鳥やけものに鉄砲を向けることができるんだろう」
By 犬じじ
次は、『鍵穴ラビリンス』(江坂遊・著/講談社ノベルズ)。