2008年08月31日

ユージニア


ユージニア
著者名:恩田陸
出版社:角川書店
出版年:2008.08
ISBN :9784043710027


 町の尊敬を集める北陸の名家・青澤家。当主の還暦と母親の米寿を祝う宴で起こった大量毒殺事件。

 第一章では、子供時代に事件に遭遇し、大学生になってから事件を振り返るルポルタージュ風小説を執筆して話題となった女性が、事件と作品を振り返って語る。犯人は逮捕されたのだが・・・。どうやら彼女は、青澤家唯一の生き残り緋紗子(ひさこ)を真犯人と疑っているらしい。事件当時は中1の、大人であれ、子供であれ、周囲の人間が特別な畏れや憧れを抱かずにはいられない盲目の美少女。緋紗子は彼女に言ったのだ。「今日は絶対に家に来てはいけない」と。

 第二章は、第一章の彼女=雑賀満喜子の助手として、取材に同行した大学時代の後輩男性の語り。満喜子の書いた作品『忘れられた祝祭』の細部は、取材に応じた人たちの証言と微妙に異なるという。その意図は?「みんなが見るのもので、特定の人にだけメッセージを伝えたい時にはどうする?」彼女はそう言った。事実の改変は、真犯人へのメッセージなのか。

 しかし、2人は誰に向かって語っているのだろう?(後で分かる)

 第三章は、一転して当時に遡って、3人称視点で事件が語られる。“相澤”家で起こる大量毒殺。唯一の生き残りの名は“久代”。

 ・・・あれ?

 ああ、そういうことか。この第3章は何か?気付くのに随分時間がかかってしまった。

 第四章は、青澤家の家政婦を務めていた故人の娘の語り。
 第五章は、事件を追いかけた刑事の話。
 第六章は、満喜子の長兄の語り。
 第七章は、犯人と接触した文房具店の若旦那の話。
 第八章は、子供時代に犯人とされた青年と親しく接していた男の語り。
 第九章は、タイトル通り『いくつかの断片』。誰の会話なのか?(後で分かる)
 第十章は、満喜子の取材日誌と『忘れられた祝祭』編集者の語り。
 第十一章は、再び事件を追いかけた刑事が登場しての語り。
 第十二章は、自殺した満喜子の次兄からの手紙や、満喜子の死を伝える記事。
 第十三章は、語りの“聞き手”と緋紗子の対峙。
 第十四章は、満喜子の回想。

 恐らく、真犯人はこの人で、事件の真相はこうだろう・・・と、ほとんどの人が思うだろう。しかし、意図された殺人なのか、別の解釈が成り立たないでもない。

 「誰がはっきりした小説なんか書いてやるもんか!」という意気込みで書かれたというが、成功してるんじゃないだろうか。

 3人称と1人称、現在と過去。登場人物たちの像が立体的に結ばれてくる。人間というものの多面性が浮かんでくる。

 ミステリとしてどうのこうの言う以前に、僕は好きだ、この作品。

 しかし、最後の「ユージニアノート」は蛇足のような・・・。


 次は『のだめカンタービレ#21』(二ノ宮知子・著/講談社)。
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2008年08月30日

PLUTO 6


PLUTO 6
著者名:浦沢直樹(著)
出版社:小学館
出版年:2008.07
ISBN :9784091821270


 『PLUTO 5』と書いたが、『PLUTO 6』の間違い。

 いつの間に出版されたのか・・・『のだめ #21』を買おうと、書店の漫画コーナーに行くまで全く気付かなかった。奥付を見ると、8月4日初版第1刷。

 プルートゥの正体も、その産みの親も分かった。その背景も・・・。

 刊行間隔が長いので、今回も過去の巻をちょこちょこを読み返しつつ・・・。結構、哀しい話なんだな、多分。とにかく、まだまだ謎だらけ。

 アトムが死に、この作品の主人公だと思っていたユーロポールの刑事・ゲジヒトも死んだ。この2人を含む7人の世界最高水準のロボットのうち、残るはエプシロンのみ。

 果たして、この物語はどこへ行く?

 しかし、いつも思うけど、漫画って感想や説明を書きにくいな。何でだろ?

 『20世紀少年』、観に行くべきか、行かざるべきか・・・。


 次は『ユージニア』(恩田陸・著/角川文庫)。
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2008年08月24日

落下する緑 永見緋太郎の事件簿


落下する緑
著者名:田中啓文(著)
出版社:東京創元社
出版年:2008.07
ISBN :9784488475017


 「笑酔亭梅寿謎解噺」シリーズは若手落語家、こちらは若手天才ジャズプレイヤーが探偵役のミステリ。一応、人が死なないので、日常の謎系と言えなくもない。

 表題作「落下する緑」を始め、「揺れる黄色」「反転する黒」「遊泳する青」「挑発する赤」「虚言するピンク」「砕けちる褐色」と、タイトルもお洒落。


・内容
唐島英治クインテットのメンバー、永見緋太郎は天才肌のテナーサックス奏者。音楽以外の物事にはあまり興味を持たない永見だが、ひとたび事件や謎に遭遇すると、楽器を奏でるように軽やかに解決してみせる。逆さまに展示された絵画の謎、師から弟子へ連綿と受け継がれたクラリネットの秘密など、永見が披露する名推理の数々。鮎川哲也も絶賛した表題作にはじまる、日常の謎連作集。
(「BOOK」データベースより)


 僕のジャズ体験と言えば、友人の影響で一時期マンハッタン・ジャズ・クインテットを聴いたり、20代の頃に日本のフュージョンを聴いたり、西梅田に昔あった大阪ブルーノートに数回行ったことがあるだけ。知識も、まあ、超有名アーチストの名前ぐらい知っている・・・という程度。

 音楽を小説や漫画で書くって(上條淳士『TO‐Y』が好きだった)、なかなか難しいよね。でも、サックスの音色の書き方とか、さすが著者自身がジャズプレイヤーってだけあるよなって感じ。

 肝心のミステリとしては出色とは思えない。「落下する緑」と「遊泳する青」は似たパターンだし。

 でも、僕のようにジャズ知識の乏しい人でも完全素人でも、音楽や楽器に興味のある人なら、雰囲気は楽しめる。

 嫌いじゃないね。


 次は『PLUTO 5』(浦沢直樹・著/小学館ビッグコミックス)。
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2008年08月23日

NO.6 #4


NO.6 #4
著者名:あさのあつこ(著)
出版社:講談社
出版年:2008.08
ISBN :9784062761208


 #3が出てかなり時間が経ってるよなぁ・・・と思って、自分の記事を検索してみたら、昨年の9月1日に#3のレビューを書いていた。

 ほぼ1年振りか・・・。

 よっぽど加筆・修正に時間がかかったのかな。


・内容
どうやったら矯正施設の内部に入れるのか。中はどうなっているのか。どんな手を使っても探りだし、侵入しなくてはならない。それが沙布を救う唯一の方法なのだから。紫苑のまっすぐな熱情にネズミ、イヌカシ、力河が動かされる。そして軍が無抵抗な人間を攻撃し始めた。「人狩り」だ。いったい何のために…。
(「BOOK」データベースより)


 紫苑とネズミの関係が友情というより、ボーイズ・ラブっぽくて、なんか落ち着かない(笑)。


 さて、いよいよ矯正施設へ入り込んで、なんやかんやあるのかと思いきや。それはこの巻の終盤でようやく。

 物語の進行は丁寧だが、#3から待たされた時間が長いせいか、展開が遅いような気がしないでもない。

 聖都市NO.6の市長とそのパートナーらしき研究者が何を企んでいるのかは相変わらず謎。

 さらにネズミの身体に現われた変調と彼の頭をよぎるイメージは何の記憶なのか?

 また謎だよ。

 単行本は次の#5までしか出てないし(文庫本の#1が出た時点でも単行本は#5まで・・・苦労してんだね)、この先を読めるのはまたかなり先になりそうだな。

NO.6 #1
NO.6 #2
NO.6 #3


 次は、『落下する緑』(田中啓文・著/創元推理文庫)。
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2008年08月22日

六とん2


六とん2
著者名:蘇部健一(著)
出版社:講談社
出版年:2008.08
ISBN :9784062761284


 あ、念のために言っておくけど、『ガリレオ』TVシリーズ。役者陣そのものがどうこうというわけじゃなく、あくまでTV用のキャラ設定が気に食わんというだけ。


・内容
世紀の迷作、あの『六枚のとんかつ』が帰ってきた!今回はバカミスだけでなく、ラストの絵で謎が解ける半下石警部シリーズや、泣けると評判の「きみがくれたメロディ」、ボーナス・トラック「届かぬ想い・純愛ヴァージョン」など盛り沢山。トリックが見えちゃうので、ページをパラパラしないでくださいね。
(「BOOK」データベースより)


 ミステリ界に物議を醸したという『六枚のとんかつ』。しかし、僕はあの馬鹿馬鹿しさが大好きだった。

 あそこまで開き直って(?)書けるなんて素晴らしいじゃないか!

 で、喜んで『六とん2』を買ったのだが、意外にマトモな作品が多くて、肩透かし(笑)。

 僕としては冒頭の「最後の事件」が一番好きやな。ネタバレになるので書けないが、この短さ(8ページ)、オチの馬鹿馬鹿しさが最高!こんなオチを持ってくるなんて、勇気がある。人によっては「金返せ!」と怒るんじゃないか?

 でも、これだけ立ち読みで済ませてもいいかも(笑)。

 ちなみに解説氏によると、『六とん2』は作風に迷いがあるが、『六とん3』では吹っ切れて勢いがあるという。文庫化されたら、まず最初を立ち読みして買うかどうか決めようかな。


 次は、『6 #4』(あさのあつこ・著/講談社文庫)。
posted by ふくちゃん at 23:02| Comment(0) | TrackBack(0) | ミステリ

2008年08月19日

弥勒の月


弥勒の月
著者名:あさのあつこ(著)
出版社:光文社
出版年:2008.08
ISBN :9784334744564


 『バッテリー』のあさのあつこ氏、初の時代小説。


・内容
小間物問屋遠野屋の若おかみ・おりんの水死体が発見された。同心・木暮信次郎は、妻の検分に立ち会った遠野屋主人・清之介の眼差しに違和感を覚える。ただの飛び込み、と思われた事件だったが、清之介に関心を覚えた信次郎は岡っ引・伊佐治とともに、事件を追い始める…。“闇”と“乾き”しか知らぬ男たちが、救済の先に見たものとは?哀感溢れる時代小説。
(「BOOK」データベースより)


 藤沢周平氏に憧れて、時代小説を書いたというあさの氏。初期の藤沢作品を思わせるような、どちらかといえば暗い色彩の時代小説だ。

 主人公の信次郎は、若いながらも優れた同心だが、心のうちに渇いた虚無を抱え、いつもどこか尖っている。少しでもバランスを崩せば、破綻しそうな危うさも感じさせる。はっきり言って、僕には共感しにくいキャラ。

 その手下の岡っ引き・伊三次・・・じゃなくて、伊佐治(いさじ)は、信次郎の父・右衛門(えもん)にも仕えていた大ベテラン。人間味に溢れていた右衛門と信次郎の落差に戸惑いながらも、信次郎をしっかり支える。伊佐治と信次郎の時に軽妙な(しかし、どこか緊張を孕んだ)遣り取りが、この作品の重たさを辛うじて緩和してくれるのだ。

 そして、妻の死の調べを信次郎に頼む遠野屋主人・清之介は、実は凄絶な過去を抱えた“修羅”である。闇の世界から普通の世界へと自分を導いてくれた大切な人を、過去の亡霊に奪われた彼は何処へ行くのか・・・。

 気になる終わり、続きがありそうな終わり方・・・と思ったら、案の定。この後、『夜叉桜』という続編があり、さらに続くようだ。

 あさの氏曰く、まだ信次郎、伊佐治、清之介たちの全貌が掴めない、だから書きたいということらしい。

 なかなか面白い。

 既にして、他の時代小説とは異なる個性がある。好き嫌いは分かれそうだが(って何でもそうだが)大したものだ。


 次は『六とん2』(蘇部健一・著/講談社文庫)。
posted by ふくちゃん at 23:41| Comment(2) | TrackBack(0) | 歴史・時代小説

2008年08月17日

容疑者Xの献身


容疑者Xの献身
著者名:東野圭吾(著)
出版社:文藝春秋
出版年:2008.08
ISBN :9784167110123


 「ガリレオ」シリーズ初の長編にして、直木賞受賞作。


・内容
天才数学者でありながら不遇な日日を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、二人を救うため完全犯罪を企てる。だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)


 読後の感想としては、「まあまあ」というところ。正直、この程度で直木賞か・・・と思う。少なくとも、東野圭吾氏の作品の中で“一番”ではないだろう。そもそも、ミステリとしてはちょっとフェアじゃない。もちろん、作者は意図的にそうしたのだろうが。

 “これほど深い愛情に、これまで出会ったことがなかった。この世に存在することさえ知らなかった。”

 帯の言葉であり、映画のキャッチであり、本文終盤に登場するこのフレーズ。これがストンと胸に落ちるかどうか。

 僕はピンとこなかった。石神がなぜそこまで靖子を想うのか、当然作中で説明されているが・・・。現実性を感じなかったのである。

 石神が靖子を守るための企て − その発想は面白かったのだが。

 10/4から映画が公開されるわけだが、絶対観ない(笑)。ドラマで失望したから。

 まず、湯川が福山雅治ってカッコ良すぎ。原作とイメージが違う。何かを閃いたときに数式を書き出す演出が馬鹿馬鹿しい。

 そして、原作でのパートナー、大学時代からの親友で、警視庁の刑事・草薙(ドラマでは北村一輝)を脇に追い遣り、柴咲コウ演じる女性刑事を登場させたのもいただけない。

 まあ、いかにもフジテレビらしく、安直に華やかさを演出・・・というキャスティング。せめて女性刑事が、もう少し切れ者なら良かったが、単に向こう気の強いバカというのがガックリ。

 ついでに、品川が演じるウザイ刑事(原作にはいない)が本当にウザイ。あんな人物を配する意図が分からん。コメディ・リリーフになってない。

 で、映画の石神は、堤真一。これまたカッコ良すぎ。原作の石神は全く冴えない中年なのだが、だからこそ彼の“純愛”が際立つのというのに・・・純愛の理由を納得できるかどうか別にして。

 やれやれ。


 次は『弥勒の月』(あさのあつこ・著/光文社文庫)。
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2008年08月14日

闇の子供たち


闇の子供たち
著者名:梁石日(著)
出版社:幻冬舎
出版年:2004.04
ISBN :9784344405141


 映画に触発されて原作を読む。梁石日氏は初読み。


・内容
貧困に喘ぐタイの山岳地帯で育ったセンラーは、もはや生きているだけの屍と化していた。実父にわずか八歳で売春宿へ売り渡され、世界中の富裕層の性的玩具となり、涙すら涸れ果てていた…。アジアの最底辺で今、何が起こっているのか。幼児売春。臓器売買。モラルや憐憫を破壊する冷徹な資本主義の現実と人間の飽くなき欲望の恐怖を描く衝撃作。
(「BOOK」データベースより)


 映画と原作、どちらがいいか。そこは、まあ同じぐらいの評価。どちらも筋を追うのにいっぱいいっぱいで、人物が書き割りみたいに生彩がない。

 いずれにせよ、幼児売春は汚らわしい。映画では具体的な映像を見るのが辛かった。小説もそういう場面は読むのが辛い。全くおぞましい。こんな嗜好はやっぱり理解できない。ビョーキとしか思えん。恥を知れ。

 自分の子供の命を助けるために、生きたままの他人の臓器による移植を受けようとする日本人家族。金持ちは命を買い、貧乏人はその犠牲に。自分の子供を救いたい気持ちは分かる。ベストを尽くすべきだろう。でも、こんな方法はいただけない。これしか手がないのなら、血の涙を流すほど辛くても、寿命として受け入れるしかないだろう。

 だが、最大の問題は、金持ち先進国と貧乏(でも一部は利権で潤う)な発展途上国の経済格差である。これを解決しないことには・・・。

 そして、経済格差は何も海外との問題だけじゃない。今や日本国内にも同様の問題がある。

 企業は利益を上がるためにコスト削減に走る。

 消費者は安いモノを喜ぶ。

 ただ安ければ良いのか?その向こうに苛酷な労働環境(安い賃金でこき使われる)にあえぐ国内外の労働者がいるのだ。

 本当に良いモノには正当なコストがかかる(安いモノにはそれ相応の理由がある)。そういうちゃんとした商品を消費者が買わないと・・・。

 しかし、ここでまた問題が。

 高くても良心的なモノを買い、そういう商品を作る企業が儲かる・・・そんな世の中の方が労働者全体にとってもプラスだが、高いモノばっかり買うと家計を圧迫する。高邁な理想より現実の生活・・・である。

 企業は労働者に利益を還元してもらいたい。じゃないと景気もよくなんないよ。


 次は『容疑者xの献身』(東野圭吾・著/文春文庫)
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2008年08月10日

消滅の光輪(上・下)


消滅の光輪 上
著者名:眉村卓(著)
出版社:東京創元社
出版年:2008.07
ISBN :9784488729028


 傑作SF「司政官 全短編」の続編。

 前作は、宇宙の他の星系・惑星に進出した地球人類が、独自の生態・文化・文明を持つ先住生命体と融合・協調しつつ、自らの植民と先住生命体の教導をスムーズに行うために送り込んだ“司政官”と“ロボット官僚群”の活躍を、司政制度の草創期から確立期、さらには衰退期まで様々な時代・惑星を舞台に描いた連作短編。

 で、今作は、司政制度の形骸化・崩壊がさらに進み、司政官の権威・権力も相対的に低下した時代の、ある植民惑星を舞台にした1000ページの長編。


・内容(上巻)
植民星ラクザーンでは、人類と瓜二つの穏和な先住民と、地球人入植者が平和裡に共存していた。だがその太陽が遠からず新星化する。惑星のすべての住民を、別の星に退避させよ ― 。空前ともいえるこの任務に、新任司政官マセ・PPKA4・ユキオは、ロボット官僚を率いてとりかかかるが・・・。《司政官》シリーズの最高作にして眉村本格SFの最高峰。泉鏡花文学賞、星雲賞受賞作。

・内容(下巻)
司政官マセは太陽の新星化を公表し、緊急指揮権を確立する。だが退避計画の遂行は困難をきわめた。移住先を決定する住民投票、脱出のための宇宙船運行の手配・・・。しかも計画が進むにつれ住民たちの反撥も高まってゆき、ついには大規模な暴動となってマセを襲う ― 。さらに奇妙にも先住者たちは、誰ひとりとして退避勧告に従おうとしない。空前の計画は完遂されるのか?


 司政官マセは、まず太陽の新星化=惑星ラクザーンの消滅を公表してから、退避に必要な全ての計画を実行するという方法は取らない。新星化を発表した時点でパニックが起こり、金のある連中から勝手に逃げ出し、そうでない人は取り残されるからである。

 そこで、ギリギリまで新星化の事実は伏せたまま、退避費用捻出のため、住民に重税を課する(地球連邦にもその費用を拠出する余裕はない)。

 また、退避先での新生活に必要な資金を配賦するため(という理由も当然伏せたまま)、他惑星で高く売れるラクザーンの海藻を、採取業者を束ねて大量採取する(これまで海藻の取扱を牛耳ってきた連邦直轄企業との対立を覚悟で)。

 この他にも熟慮を重ね、目的を秘し、あえて周囲の反発・非難も織り込んだ上で、次々と細かく、手練手管を尽くし、ある意味非民主的に(民主的に事を進める時間などないのだ)手を打つ。すなわち、太陽の新星化と惑星の消滅を明らかにした時点では、退避計画は完璧に準備され、あとはその通りに進めば良いという状況を作り出すことでパニックを防ぎ、全員を平等に退避させようと。

 とにかく緻密に作りこまれた物語。

 地味と言っても良い作品なのだが、マセ(とロボット官僚)の仕事ぶり、次々と立ちはだかる問題と障害、様々な謎・・・。果たしてマセの計画は実現されるのか?人々の頂点に立つ為政者の矜持と重圧と孤独。読み応えあったわぁ〜。


 次は『闇の子供たち』(梁石日・著/幻冬舎文庫)。
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2008年08月09日

虚空の旅人


虚空の旅人
著者名:上橋菜穂子(著)
出版社:新潮社
出版年:2008.07
ISBN :9784101302751


 守り人シリーズ第4弾。しかし、今回は「守り人」ではなく、「旅人」である。人物紹介ページに女用心棒バルサの名はあるが、作品中も名前だけで実際には登場せず。とっても面白いのだからまぁいいのだけど、「???」と思いながら読んでいたが、元々は「守り人」シリーズの外伝のような存在だったのね。


・内容
隣国サンガルの新王即位儀礼に招かれた新ヨゴ皇国皇太子チャグムと星読博士シュガは、“ナユーグル・ライタの目”と呼ばれる不思議な少女と出会った。海底の民に魂を奪われ、生贄になる運命のその少女の背後には、とてつもない陰謀が―。海の王国を舞台に、漂海民や国政を操る女たちが織り成す壮大なドラマ。シリーズを大河物語へと導くきっかけとなった第4弾、ついに文庫化。
(「BOOK」データベースより)


 んで、外伝のつもりが上に書かれているように、こちらはチャグムを主人公とした『蒼路の旅人』へと、バルサを主人公とした「守り人」シリーズは『神の守り人』へと続き、最後の『天と地の守り人』で「旅人」と「守り人」はひとつになり完結すると。

 なるほどねぇ。

 何度も言うけど(言ったっけ?)、これを行き当たりばったりで書いてるっちゅうんやから、作家ってすごいね。でも、きっと小説は作者の設計図どおりに書かれるだけではダメで、それさえも超えて物語や登場人物が自ら動かんといかんのだろう。

 しかしまあ、チャグムもすっかり立派になって・・・。

精霊の守り人
闇の守り人
夢の守り人


 次は『消滅の光輪(上・下)』(眉村卓・著/創元SF文庫)。
posted by ふくちゃん at 20:56| Comment(2) | TrackBack(0) | ファンタジー・幻想文学