2008年06月28日

司政官 全短編


司政官全短編
著者名:眉村卓(著)
出版社:東京創元社
出版年:2008.01
ISBN :9784488729011


 長い、高い(笑)。
 
 700ページ、1500円(税別)。

 文庫で、1500円って・・・。

 眉村卓といえば『なぞの転校生』、『ねらわれた学園』。

 それ以外は読んだことなかったけど、この『司政官』シリーズは著者24年のライフワークらしい。


・内容
星々に進出した地球人類。だが連邦軍による植民惑星の統治が軋轢を生じさせるに及び、連邦経営機構が新たに発足させたのが司政官制度である。官僚ロボットSQ1を従えて、人類の理解を超えた原住者種族を相手に単身挑む若き司政官たちの群像。著者を代表する、遠大な本格SF未来史の短編全7作を年代順に配し、初の一巻本として贈る。巻末には詳細な作品世界ガイドを収録した。
(「BOOK」データベースより)


 収録されているのは次の7話で、1)〜7)は当文庫収録順、( )内は発表年月。

1)長い暁(1980年2月)
2)照り返しの丘(1975年2月)
3)炎と花びら(1971年10月)
4)扉のひらくとき(1975年7月)
5)遥かなる真昼(1973年5月)
6)遺跡の風(1973年5月)
7)限界のヤヌス(1974年1月)

 で、3)5)6)7)は、『司政官』として1974年に単行本、1982年に文庫本。1)2)4)は『長い暁』として1980年に単行本、1982年に文庫本で早川書房から刊行されている。

 これらが1冊にまとめられて創元SF文庫から復刊されたというわけである。

 1)は地球連邦が軍事力による植民星統治から、司政官と官僚ロボット群という行政機構による統治に切り替えた直後の物語。まだ、植民星は駐屯軍と司政官の二重権力状態で、しかも表面上は軍の方が優位である。

 そこから、2)3)・・・と舞台となる星を変えながら時代を下っていきつつ、司政官制度の確立・進展・変遷を描く。

 そして、7)では司政官制度発足約70年が経過。原住者の文化・習慣・生活を尊重しつつ、原住者世界の文明発展を善導し、さらに植民者(地球人)との融和を図る・・・という理想は崩れつつある。

 高邁な理想や自負心に裏打ちされて始まったはずの司政官制度、着実に効果を上げつつ、それがゆえに根本的な矛盾(司政官は原住者と植民者のどちらを利するのか)を拡大し自壊していく・・・地味なSFと思いきや、複雑な読後感と人間存在に対する一種の虚しさを残す短篇集である。

 この後、『消滅の光輪』(1979早川書房/1981ハヤカワ文庫/2000ハルキ文庫)、『引き潮のとき(全5巻)』(1988〜1995早川書房/2006黒田藩プレス)と長編の続編が刊行されているらしいが、絶版である(黒田藩プレスは第2巻でストップ)。

 しかし、『消滅の光輪』は創元SF文庫から7月に出るらしいので、楽しみ。しかも、新たな続編執筆の構想もあるらしい。

 創元さんには『引き潮のとき』も出してもらいたい。司政官制度が、地球連邦が、宇宙世界がどうなっていくのか、最後まで付き合いたいと思う。


 次は『空の中』(有川浩・著/角川文庫)。
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2008年06月24日

赤絵の桜 損料屋喜八郎始末控え


赤絵の桜
著者名:山本一力(著)
出版社:文藝春秋
出版年:2008.06
ISBN :9784167670078


 シリーズ2作目。1作目も読んだはずだが、ほとんど覚えていない(笑)。ただ、なかなか面白かったハズ・・・という記憶を頼りに購入。


・内容
上司の不始末の責めを負って同心を辞し、刀を捨てて損料屋を営む喜八郎。不況の嵐が吹き荒れる江戸に新しく普請された、大人気の湯屋「ほぐし窯」の裏側を探るうち、公儀にそむく陰謀に気づく…。喜八郎と仲間たちの活躍、そして江戸屋の女将秀弥との、不器用な恋の行方は?傑作時代小説シリーズ第2弾。
(「BOOK」データベースより)


 やはり、なかなか面白かった。前作の内容や人間関係は朧げにしか思い出せないが、それでも十分。

 損料屋とは江戸時代のレントオール屋さん。でも喜八郎のそれは(一応ちゃんと営業もしているけど)表向きの商売。札差・米屋の先代政八への恩義から、当代政八(喜八郎より年上だが人間的に未熟で商才がない)を助けるかたわら、かつての上司・与力の秋山や18名の配下と共に悪を挫く。

 義理と人情に厚く正義感の強い喜八郎。だが、その彼を始め、登場人物の描き方は抑えた筆致、乾いた筆致で、心情に深く入り込み過ぎない。書き過ぎない。喋らせ過ぎない。

 そこが気持ち良い。


 次は『司政官 全短編』(眉村卓・著/創元SF文庫)。
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2008年06月21日

白澤 人工憑霊蠱猫


白澤
著者名:化野燐(著)
出版社:講談社
出版年:2008.06
ISBN :9784062760393


 シリーズ2作目。前作の『蠱猫 人工憑霊蠱猫』よりは小説として上手になっている(上から目線)。


 純然たる時系列的続編かと思いきや、前作では脇役だった玄山資料館準備室の学芸員=時実理一とシステム開発会社ミル・プラトーのシステム・エンジニア=石和百代の2人を主人公に、前作の事件を別の場所から語り直し、その後を描くという趣向。

 これはなかなか良い。

 妖怪とITの融合という設定も、今の時代を反映していて面白い。人語を解し万物に精通するとされる聖獣<by Wikipedia>=白澤はPCのディスプレイの向こうから、ネットワークの向こうから、召喚(ダウンロード)されてやってくる・・・というように。

 長閑な世捨て人に見える時実の本当の顔。本作でも垣間見えるが、今後掘り下げられていくのだろう。どうやら、学園における有鬼派(妖怪・精霊と結合することでより強大な新人類へ進化すると信じるグループ)と無鬼派の抗争で、過去に辛い体験をしているようだし、ミル・プラトーの女社長・高穂との過去もなんかありそうだ。

 で、最初に書いたように、1作目よりも随分良くなったが(また上から目線)、ある人物が終盤に死ぬところは、安手のアニメやドラマのよう。センチメンタルかつ“過剰書き”で、やや冗漫。まだまだ頑張ってもらいたい(さらに上から目線)。

 ちょっと迷うが、次の巻も出たら、一応読むことにしよう。


 次は、『赤絵の桜 損料屋喜八郎始末控え』(山本一力・著/文春文庫)。
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2008年06月18日

ひとめあなたに…


ひとめあなたに…
著者名:新井素子(著)
出版社:東京創元社
出版年:2008.05
ISBN :9784488728021


 日本SFの名作と言われている(のか?)有名作品。『グリーン・レクイエム』と同様に、読書家でなかった頃の僕でも名前を知っていた。


・内容
女子大生の圭子は最愛の恋人から突然の別れを告げられる。自分は癌で余命いくばくもないのだと。茫然自失する圭子の耳にさらにこんな報道が―“地球に隕石が激突する。人類に逃げ延びる道はない”。彼女は決意した。もう一度だけ彼に会いに行こう。練馬から鎌倉をめざして徒歩で旅に出た彼女が遭遇する4つの物語。来週地球が滅びるとしたら、あなたはどうやって過ごしますか。
(「BOOK」データベースより)


 で、やっぱ、あれだな。

 どうも、この文体にムズムズする(笑)。

 巨大隕石の衝突により地球滅亡・・・という設定だけはSFだが、SFという感じがしない。

 日本人形のように清楚で美しい貞淑な妻・由利子が実行した浮気夫への究極の愛の行為。それは静かな狂気漂うスプラッタ・ホラー。

 ひたすらに大学受験の勉強に打ち込む優等生・真理の抱える圧倒的な虚無と滅亡への喜び。

 現実を拒否して夢に逃げ込む幼い智子。

 お腹の子供を助けるため、愛する夫を捨てて、昔の恋人が開発した2人用核シェルターへ逃げ込もうとする恭子。

 圭子が出会う4人の女性(女の子)の物語。あんまり楽しくない(笑)。

 そして、基本は圭子の恋人への思いを中心とした“小さな世界”。“アルマケドン”とか“日本沈没”とか壮大な終末モノとは全然違う視点は面白いと思う。

 でも、エンタメとして面白いか・・・と聞かれると、僕には合わないな。


 次は、『白澤 人工憑霊蠱猫』(化野燐・著/講談社文庫)。
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2008年06月15日

賢者はベンチで思索する


賢者はベンチで思索する
著者名:近藤史恵(著)
出版社:文藝春秋
出版年:2008.06
ISBN :9784167716035


 なぜ、7月までは本棚を買わないか?

 もうひとつのブログで既に書いたが、買いたい本棚が決まっているのである。コレである。只今売り切れ中。次の入荷が7月なのだ。高いけど(T_T)、買う。

 では、『サクリファイス』で話題の近藤史恵氏を初読み・・・だったっけ?


・内容
ファミレスでバイトをしているフリーターの久里子。常連にはいつも同じ窓際の席で何時間も粘る国枝という名の老人がいた。近所で毒入りの犬の餌がまかれる事件が連続して起こり、久里子の愛犬アンも誤ってその餌を食べてしまう。犯人は一体誰なのか?事件解決に乗り出したのは、意外なことに国枝老人だった。
(「BOOK」データベースより)


 まぁ、どうかなぁ、これは・・・。

 各章ともミステリとしては、直ぐにネタが割れる。どんなミステリを読んでも殆ど結末を見抜けない僕でもそう思うぐらいだから、誰が読んでも先が分かっちゃうだろな。

 不満が残る。

 ただ、21歳の女性の緩やかな成長小説・家庭小説と読めば、そんなに悪くないかも。


 ここから余談。

 昨日書き忘れたのだが、僕は『リピート』を2冊買ってしまった。以前買ったのを忘れて・・・というパターンではなく。既に1冊持っていることを承知で買ったのだ。

 というのは、帰りに最後の十数ページ(たった十数ページ!)を読むつもりが、会社に置き忘れてきたことに気付いてしまったのである。電車の中で。

 で、我慢できずに乗り換え駅の書店へ・・・。アホだ。

 でも、たまにやってしまう^^;。

 それであの結末かよ〜。


 次は、『ひとめあなたに…』(新井素子・著/創元SF文庫)。
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2008年06月14日

居眠り磐音 江戸双紙 無月ノ橋


居眠り磐音 江戸双紙 無月ノ橋
著者名:佐伯泰英(著)
出版社:双葉社
出版年:2004.11
ISBN :9784575661859


 すっかりお気に入りの当シリーズだが。


・内容
萩の花が江戸に秋の気配を告げる頃、深川六間堀、金兵衛長屋に住む浪人、坂崎磐音は身過ぎ世過ぎに追われていた。そんな磐音が、包平の研ぎを頼んだ鵜飼百助邸を訪れた折り、旗本用人の狼籍を諌めたことで、思わぬ騒動に…。春風駘蕩の如き磐音が許せぬ悪を討つ。
(「BOOK」データベースより)

 この巻に限って言えば、最後の章の磐音の活躍はちょっと安っぽいヒーロー時代劇のようで、イマイチだった。まぁ、こういうの、喜ぶ人もいるかも知れんが。

 僕としては、もっと書き込んで現実性を持たせて欲しかったな。カタルシスの度合いは下がるかも知れんが。

 それにしてもこのシリーズ、巻のタイトルは常に「○○ノ△」、各章のそれは全て漢字5文字で、頑張ってるなぁ(笑)と思っていたのだが、今回は各章タイトルでその原則が遂に崩れる。

 それとも既にどこかで崩れてたかな?

 引越後、まだ本棚を購入してないので、書籍類はダンボールの中。7月に本棚を買って整理するまでは確認できないな・・・。

 何で7月まで本棚を買わないのかって?

 それはまた今度。


 次は、『賢者はベンチで思索する』(近藤史恵・著/文春文庫)。
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2008年06月13日

リピート


リピート
著者名:乾くるみ(著)
出版社:文藝春秋
出版年:2007.11
ISBN :9784167732028


 『イニシエーション・ラブ』で話題の乾くるみ。同じ文春からの本作は全く毛色の異なる作品だが、帯には「あのイニシエーション・ラブより驚けます。」「注意!あまりの面白さに、途中でやめることはできません。あまりの驚きに、読了後、必ずもう一度読み返したくなります」。

 ああ、安直な宣伝文句だなぁ。二番煎じやなぁ。柳の下のドジョウやなぁ。ただ、売りたいだけやん。商売とはいえ、本当に作品を愛してるの?


・内容
もし、現在の記憶を持ったまま十ヵ月前の自分に戻れるとしたら?この夢のような「リピート」に誘われ、疑いつつも人生のやり直しに臨んだ十人の男女。ところが彼らは一人、また一人と不審な死を遂げて…。あの『イニシエーション・ラブ』の鬼才が、『リプレイ』+『そして誰もいなくなった』に挑んだ仰天の傑作。
(「BOOK」データベースより)


 しかし、途中までは本当にメチャクチャ面白い。読むのを止められない。あまりに謎が魅力的だから。

 さらに、しかし。

 この作品に限らず、謎が魅力的過ぎるとそれをどう回収するかが難しい。最後は尻すぼみで高揚感はどこへやら。まあ、終盤までは十分に楽しませてもらったから良いけど。

 余談だが、ケン・グリムウッドの『リプレイ』(新潮文庫)は面白いよ。オススメ。


 次は、『居眠り磐音 江戸双紙 無月ノ橋』(佐伯泰英・著/双葉文庫)。
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2008年06月12日

ハナシにならん!笑酔亭梅寿謎解噺2


ハナシにならん!
著者名:田中啓文(著)
出版社:集英社
出版年:2008.05
ISBN :9784087462982


 あの『ちりとてちん』も登場する第2弾。

・内容
金髪トサカ頭の竜二が飲んだくれの落語家・笑酔亭梅寿の内弟子となって、はや一年。梅駆の名前はもらったものの、相も変わらずどつかれけなされの修業の日々を送っている。そんな中、師匠の梅寿が所属事務所の松茸芸能と大ゲンカ、独立する羽目に―!東西落語対決、テレビ出演、果ては破門騒動と、ますますヒートアップする笑いと涙の落語ミステリ第二弾。

・目次
蛇含草
天神山
ちりとてちん
道具屋
猿後家
抜け雀
親子茶屋
(「BOOK」データベースより)


 実は、竜二は師匠も兄弟子も認める類稀な才能の持ち主(気付かぬは己ばかりなり)。

 なのに。

 毎回毎回、売れっ子の漫才師など他ジャンルの芸人の芸に接する度に「落語は古い笑いなんじゃないか?」と焦ったり、梅寿の噺に触れて「いや、落語はやっぱり凄いんや!」と思い直したり、フラフラするのがもどかしい。

 と思っていたら、竜二に惚れこんだスポンサーが現われ、梅寿の下を飛び出して独立。

 影で涙を流す梅寿。

 借金まみれでヤクザに追われ、竜二の金をアテにする。酔っ払って竜二にゲロを吐き、暴力を振るう。疫病神のような師匠だが、意外にも竜二への愛情は本物・・・と思わせるシーンが随所(でもないか)にあって、なかなか良い。

 結局は、その愛情に気が付いた竜二が戻って、丸く収まるのだが・・・。

 しかし、無謀な独演会のせいで、自身も借金を背負ってしまった竜二。前途多難な師弟コンビの道行きをこの先も楽しみたい。早く次の文庫本、出んかなぁ〜。しかし、単行本と文庫本の表紙、絵柄に落差がありすぎやな。よかったら一度確認してみて(笑)!


 次は、『リピート』(乾くるみ・著/文春文庫)。
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2008年06月11日

ハナシがちがう!笑酔亭梅寿謎解噺


ハナシがちがう!
著者名:田中啓文(著)
出版社:集英社
出版年:2006.08
ISBN :9784087460742


 新刊文庫で『ハナシにならん!笑酔亭梅寿謎解噺2』を見かけて、表紙のテイストには少々引いたものの、落語がらみのミステリには興味があるので(落語は聴かないくせに)、まずは第1弾をと。


・内容
上方落語の大看板・笑酔亭梅寿のもとに無理やり弟子入りさせられた、金髪トサカ頭の不良少年・竜二。大酒呑みの師匠にどつかれ、けなされて、逃げ出すことばかりを考えていたが、古典落語の魅力にとりつかれてしまったのが運のツキ。ひたすらガマンの噺家修業の日々に、なぜか続発する怪事件!個性豊かな芸人たちの楽屋裏をまじえて描く笑いと涙の本格落語ミステリ。

・目次
たちきり線香
らくだ
時うどん
平林
住吉駕篭
子は鎹
千両みかん


 当然の如く、各話のタイトルは落語から。事件解決のカギもその落語にある。

 上方落語の「時うどん」は江戸落語では「時そば」・・・って、これはさすがに初歩の初歩としても、上方落語と江戸落語の違いにも触れられて興味深い。

 探偵役は師匠の梅寿ではなく、弟子の梅駆(ばいく)こと竜二だが、何といっても横山やすしを連想させるような(解説によるとモデルは6代目笑福亭松鶴師匠)梅寿の破天荒・傍迷惑・傍若無人の酔いどれキャラが面白い。こんな人、傍にいて欲しくないけど(笑)。

 しかしながら、噺家としては天下一品の梅寿。その落語の凄さを目の当たりにした竜二は文句を垂れながらも落語に惹かれていくのだが・・・。

 以下続刊。


 ということで、次は『ハナシにならん!笑酔亭梅寿謎解噺2』(田中啓文・著/集英社文庫)。
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2008年06月10日

クドリャフカの順番


クドリャフカの順番
著者名:米澤穂信(著)
出版社:角川書店
出版年:2008.05
ISBN :9784044271039


 人が死なない安心印の青春ミステリ、古典部シリーズ。しかし、楽しく爽やか・・・というよりは、毎回かすかなほろ苦さを感じさせるのが特徴である。明るい中にも屈折した思春期心理。青春の影。違うか(^^)。


・内容
待望の文化祭が始まった。だが折木奉太郎が所属する古典部で大問題が発生。手違いで文集「氷菓」を作りすぎたのだ。部員が頭を抱えるそのとき、学内では奇妙な連続盗難事件が起きていた。盗まれたものは碁石、タロットカード、水鉄砲―。この事件を解決して古典部の知名度を上げよう!目指すは文集の完売だ!!盛り上がる仲間たちに後押しされて、奉太郎は事件の謎に挑むはめに…。大人気“古典部”シリーズ第3弾。
(「BOOK」データベースより)


 「10の部活から10の品」を盗む連続窃盗犯「十文字」の狙いと正体とは?その第1ヒントが隠されているのは作中に示された「文化祭のしおり」。描かれざる漫画『クドリャフカの順番』原作者のペンネーム「安心院鐸玻(AJIMUTAKUHA)」に隠されたある名前(おっと)・・・。

 折木奉太郎の視点で語られるパートはスペードの1、スペードの2・・・、千反田えるのパートはハートの1、ハートの2・・・、福部里志のパートはクローバーの1、クローバーの2・・・、伊原摩耶花のパートはダイヤの1、ダイヤの2・・・。

 という記号と数字を利用した古典部メンバー4人による多視点記述。そこに秘められたささやかな仕掛け(というほどのことでもないのだが)も楽しかった。上手く説明できないが、こんな単純なことに気付かない自分と、まんまとすっとぼけた米澤氏に思わずニヤッ。って意味不明だなぁ・・・読んでない人には。


 次は、『ハナシがちがう! 笑酔亭梅寿謎解噺』(田中啓文・著/集英社文庫)。
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2008年06月06日

さまよう刃


さまよう刃
著者名:東野圭吾(著)
出版社:角川書店
出版年:2008.05
ISBN :9784043718061


 東野圭吾は好きな作家のひとりである。

 だが、抜群のリーダビリティは認めつつも、それゆえにどこか“軽い”という気がしないではない。『白夜行』のような重厚な作品や、加賀恭一郎シリーズのように綿密に書き込まれた作品ですら読んだソバから消えていくような・・・。

 ・・・しかし、これは重い・・・。

 胸が締め付けられて息苦しくなるような強烈な作品である。


・内容
長峰の一人娘・絵摩の死体が荒川から発見された。花火大会の帰りに、未成年の少年グループによって蹂躪された末の遺棄だった。謎の密告電話によって犯人を知った長峰は、突き動かされるように娘の復讐に乗り出した。犯人の一人を殺害し、さらに逃走する父親を、警察とマスコミが追う。正義とは何か。誰が犯人を裁くのか。世論を巻き込み、事件は予想外の結末を迎える―。重く哀しいテーマに挑んだ、心を揺さぶる傑作長編。
(「BOOK」データベースより)


 妻を亡くし、一人娘の成長だけが生きがいの長峰は実直で優しい男である。娘の方にも、高校生という年頃にありがちな父親への反発はそれほどでもない。結構仲の良い親子なのだろう。

 その娘を蹂躙して殺したのは、悪逆非道で人を人とも思わない、低劣で身勝手な己の快感原則だけに生きる少年達。命の大切さ、他人を思う気持ちなどかけらも無い。長峰の娘だけでなく、多くの娘を毒牙にかけている。

 とにかく、この書き分けが徹底している。読者の99%は長峰の心情に同調し、吐き気がするほど少年達を嫌悪するだろう。作品に登場する多くのキャラクタと同様に。

 作者は突きつける。少年法はこんな少年達をすら守るためにあるのか。更生なんて不可能としか思えないような人間まで、(更生の可能性がゼロでない以上)その未来と人権を守るべきだというのか。他人を大事にすることの大切さを教育されなかった少年達もある意味、被害者だというのか。本当の被害者が心の底から救われたと感じることは決して無いのに、加害者を救おうとする。それが正義であり、法なのか?反省さえすれば許して良いのか?殺された命は戻らないのに。

 この作品をもってして東野圭吾が死刑賛成論者と決め付けるのは早計だろうが、100%の悪を前にした理想主義の虚しさを暴き出す。

 誰が長峰の思いや行為を責められる?読みながら、彼の復讐が成就することを願う。

 だが、一方でそれを正面から容認すれば、この世は法治国家ではなくなり、復讐や仇討ちを認める無法の世界になるのだが・・・。

 起こった凶悪犯罪には厳罰が必要だろう。だが、見せしめの厳罰だけでは犯罪抑止は無理だ。犯罪を未然に防ぐには、そうなる前に教育(だけじゃないけど)が必要だろう。でも、人間と人間の世がある限り犯罪はゼロにはならないだろうし・・・と頭の中が堂々巡り。

 最後、密告電話の正体が分かるくだりがあるからミステリと呼べるが、それが無ければ完全に社会派作品。ハードだ。


 次は『クドリャフカの順番』(米澤穂信・著/角川文庫)。
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2008年06月04日

夜市


夜市
著者名:恒川光太郎(著)
出版社:角川書店
出版年:2008.05
ISBN :9784043892013


 角川ホラー文庫レーベルではあるが、ホラーというよりファンタジーの手触り。血が飛ぶわけでもないし、怖い話でもない。


・内容
妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた―。奇跡的な美しさに満ちた感動のエンディング!魂を揺さぶる、日本ホラー小説大賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)


 表題作の『夜市』も、この世のものならぬ者たちが行き交う街道世界を描く『風の古道』も、現世を生きる少年と異界との微かな接触、しかし決して後戻りできない出会いと別れが郷愁を誘う。

 ただ、世評で絶賛されているほど素晴らしいとは思わなかった。美しくはあるけど、ちょっと物足りない気がした。もう少し妖しさがあってもいいんじゃないか。

 要求し過ぎかも知れんけど。


 次は『さまよう刃』(東野圭吾・著/角川文庫)。
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2008年06月02日

優しい音楽


優しい音楽
著者名:瀬尾まいこ(著)
出版社:双葉社
出版年:2008.04
ISBN :9784575511932


 カテゴライズ不能。瀬尾ワールドとしか言いようが無い。好きだなぁ〜。

『優しい音楽』
永居タケルは、ある日突然、鈴木千波に声をかけられる。ナンパ?特にイケメンでもないのに。毎朝、駅で顔を合わせるたびに、彼女は近寄ってくる。いつしか、タケルは千波を好きになり、告白する。キョトンとする千波。向こうは別にタケルに惚れていたわけではないらしい。だが、彼女は『永居さんと確実に一緒にいる』ために、付き合うことを了承する。徐々に本当の恋人らしくなる2人。ところが、千波はタケルが彼女の実家を訪れることだけは頑なに拒否する。なぜ・・・?

『タイムラグ』
私は都合のいい女。会社の同僚・平太とは不倫関係。奥さんと2人で旅行に行く彼から8歳の子供を預かることになってしまう。心ならずも子守りの1日・・・のはずが、心が通い出して・・・。

『がらくた効果』
ある日、妻のはな子が元大学教授のホームレス佐々木さんを拾ってきた。バツイチで穏やかで紳士的で、古風な知識に通じた佐々木さん。この闖入者が、少々倦怠期気味の夫婦にもたらした効果とは・・・。

 読む者をアッという間に物語世界に誘う不可思議な導入部。奇妙にズレた会話。やがて辿り着く、寂しくも優しい気持ち。

 ええで。

 瀬尾まいこは天才?


 次は『夜市』(恒川孝太郎・著/角川ホラー文庫)。
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2008年06月01日

蒲公英草紙 常野物語

蒲公英草紙

著者名:恩田陸(著)
出版社:集英社
出版年:2008.05
ISBN :9784087462944


 実は5月25日に引っ越した。

 その準備で忙しく、PCになかなか向かえず、新居でのネット接続工事も結局今日になってしまい・・・。

 ご無沙汰でした。 

 読み終わった本が溜まってしまったので、毎日(?)簡単に振り返ろう。


・内容
青い田園が広がる東北の農村の旧家槙村家にあの一族が訪れた。他人の記憶や感情をそのまま受け入れるちから、未来を予知するちから…、不思議な能力を持つという常野一族。槙村家の末娘聡子様とお話相手の峰子の周りには、平和で優しさにあふれた空気が満ちていたが、20世紀という新しい時代が、何かを少しずつ変えていく。今を懸命に生きる人々。懐かしい風景。待望の切なさと感動の長編。
(「BOOK」データベースより)


 『光の帝国』『エンドゲーム』に続く常野(とこの)シリーズ第3弾。予知、千里眼、長命・・・超常的な力を持つゆえに、定住せず、群れず、権力を求めず、密やかに穏やかに生きる常野一族。『光の帝国』は常野一族の様々な人を描いた短篇集(だったっけ?)、『エンドゲーム』は確かちょっと怖い長編(多分そうだった)。

 で、この『蒲公英草紙』は、今はもう戻らない古き良き時代を、端正な日本語で振り返るノスタルジックな物語。

 超能力者が出てくるとはいっても地味というか静かなストーリーだが、不思議に美しく、切なく、懐かしく、もの哀しい。

 理路整然と納得させてくれる物語を求める人には向かんかなぁ・・・。


 次は『優しい音楽』(瀬尾まいこ・著/双葉文庫)。
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