2008年05月23日

六月六日生まれの天使


六月六日生まれの天使
著者名:愛川晶(著)
出版社:文藝春秋
出版年:2008.05
ISBN :9784167717780


 “読み終えたあと、必ずもう一回読みたくなります。”
 “これが、恋愛ミステリーの最高峰です。”

 ・・・とまるっきり『イニシエーション・ラブ』と同じノリ。

 版元も同じだし。

 こういう二番煎じ的な売り方にはメリットもあるのだろうが、作品や作家にとって本当に幸せなことだろうか?


・内容
ふと目覚めると、私は記憶を失っていた。同じベッドには、ゴムの仮面を破った全裸の男が眠っている…。ここはどこ?この男は誰?扉を開けると、意外にも外は雪。そして初老のサンタクロースが、私に手招きをしている!記憶喪失の女と謎の男の奇妙な同居生活、その果ての衝撃!傑作ミステリー長篇。
(「BOOK」データベースより)


 いわゆる叙述トリックであり、面白さを説明しようとすると即ネタバレになってしまうので、読んでみてとしか言えない。

 で、“面白さ”とは書いたものの、叙述トリック成立に奉仕するあまり、不自然かつ強引なところもあり、評価はビミョー。

 労作ではあるけど。

 で、「私」の名前は最後まで明らかにされずに終わる。記憶を取り戻した「私」が、「漢字4文字」の自分の名前を思い出したと呟くシーン。「私」に関する探偵事務所の調査報告書を読む江藤が、「名前が、のも―」と言いかけたところで、相手が「いいよ、名前なんか」と遮るシーン。名前に関わるところはそこだけしかないように思われる。

 だが、巻末の解説を読むと、名前に関するかなりあからさまなヒントが作中にあるそうだ。

 あとでパラパラと読み返してみたが、分からない・・・。

 「私」の名前が分かったという方、ご教示を!


 次は、『蒲公英草紙 常野物語』(恩田陸・著/集英社文庫)。
posted by ふくちゃん at 00:33| Comment(0) | TrackBack(1) | ミステリ

2008年05月21日

警察庁から来た男


警察庁から来た男
著者名:佐々木譲(著)
出版社:角川春樹事務所
出版年:2008.05
ISBN :9784758433396


 『笑う警官』に続く、北海道警シリーズ第2弾。

 前作で道警の裏金問題について議会で暴露した津久井は、報復人事により北海道警察学校に異動となっている。教官ではなく、専門技能を活かしようのない総務担当(雑務専門)として。

 だが、証言封じのため殺人の濡れ衣を着せられた津久井を助けるために奔走した“佐伯チーム”のメンバーを始め、現場には共感する警官も多く、津久井も自らの正義に何ら恥じることのないことを示すため、不貞腐れることなく仕事に励んでいた。

 ある日、北海道警察本部に警察庁から緊急特別監察が入る。事前予告無し、所轄にまで直接事情聴取を行う異例の監察である。

 道警には裏金以外にも根深い不祥事・不正が蔓延っていると考えた警察庁が特に関心を寄せるのは、弁護士と共に人身売買からの保護を求めてきたタイ人少女が、どうやら警察によって暴力団に引き渡された案件。いま一つは、ぼったくりバーでのトラブルによる客の死に殺害の可能性があるにも関わらず、あっさり事故として処理した案件。

 暴力団との癒着が疑われるものの、個人的なものなのか、組織的なものなのか、そして誰が癒着しているのかが判然としない。実態解明のために派遣されたのは、若きキャリア・藤川警視正。

 警察官としての誇りを持ち、不正を許さない、気骨ある津久井に、藤川は協力を要請する。

 一方、大通署の佐伯は、ホテルの部屋荒らしの捜査を進めていた。被害者は、例のバーで死んだ男性の父親。大通署に再捜査の依頼の為、そのホテルに泊まっていたのだという。佐伯は、部下の新宮と捜査を進めるが・・・。

 やがて、藤川とその部下の種田、津久井と佐伯チームのひとりだった小島などによる監察と佐伯の捜査が絡んでくる。

 扱っている事件は決して派手なものではなく、今野敏氏の『隠蔽捜査』のように強烈無比なキャラクタも登場しない。分量的にも340ページ程度で特別長いわけでもない。

 しかし、前作のエピソードも絶妙に絡み(仮に前作を読んでいなくても楽しめるとは思うが)、読後感は非常に充実。

 前作より良い出来だ(と思う)。

 最後の津久井の心の一言は、どうかと思うが(ちょっとダサイのだ・・・)。

 んで、帯の“キャリアのプライドか、ノンキャリアの意地か。”というキャッチもどうかと思うが。

 ともあれ、第3弾も執筆中とのこと、楽しみである。


 次は、『六月六日生まれの天使』(愛川晶・著/文春文庫)。
posted by ふくちゃん at 00:46| Comment(0) | TrackBack(1) | 警察小説

2008年05月18日

ベルカ、吠えないのか?


ベルカ、吠えないのか?
著者名:古川日出男(著)
出版社:文藝春秋
出版年:2008.05
ISBN :9784167717728


 これはフィクションだってあなたたちは言うだろう。
 おれもそれは認めるだろう。でも、あなたたち、
 この世にフィクション以外の何があると思ってるんだ?

 想像力の圧縮された爆弾。

 ・・・作品の冒頭とあとがきに記された著者の言葉である。

 フィクション、エンターテインメントに対する覚悟のような、自負のようなものがヒシヒシ伝わってくる。


・内容
キスカ島に残された四頭の軍用犬北・正勇・勝・エクスプロージョン。彼らを始祖として交配と混血を繰りかえし繁殖した無数のイヌが国境も海峡も思想も越境し、“戦争の世紀=20世紀”を駆けぬける。炸裂する言葉のスピードと熱が衝撃的な、エンタテインメントと純文学の幸福なハイブリッド。文庫版あとがきとイヌ系図を新に収録。
(「BOOK」データベースより)


 20世紀の近現代史=1943年〜1990年の資本主義世界と共産主義世界との争いの歴史(だけじゃないけど)。現在(物語内現在)のロシアン・マフィア、チェチェン・マフィア、ヤクザ、その他の国際犯罪組織、ムジャヒディンの聖戦(ジハード)、元KGBエリート率いる犬部隊の織り成す混沌。それらを人間ではなく、犬たちの視点から、軍用犬(だけじゃないけど)の視点から描く野心作だ。

 文句なしに面白い!

 読んだ後も大切に残しておきたい1冊、というタイプの本ではない・・・という評価が最高の褒め言葉となるような100%のエンタメ(だから“純文学とのハイブリッド”という謳い文句はどうかなぁ)。


 次は、『警察庁から来た男』(佐々木譲・著/ハルキ文庫)。
posted by ふくちゃん at 00:25| Comment(2) | TrackBack(1) | その他

2008年05月13日

居眠り磐音 江戸双紙 遠霞ノ峠/朝虹ノ島


居眠り磐音 江戸双紙 遠霞ノ峠
著者名:佐伯泰英(著)
出版社:双葉社
出版年:2004.05
ISBN :9784575661705


 最近の新刊本の中に読みたい本があまり無かったので、2冊続けて読む。

 今回も大小様々な事件があり、江戸の暮らしがある。

 博徒の権造一家の代貸し・五郎造との青梅・秩父への旅があり、江戸最大手の両替商・今津屋との熱海への旅がある。

 もちろん磐音は、旅先でも事件に巻き込まれ、チャンチャンバラバラ、八面六臂の大活躍であることは言うまでもない。

 これらの巻あたりまで来ると、レギュラー陣はいずれもキャラがしっかり立ち、実に活き活き躍動しており、非常に楽しい。

 例えば用心棒として熱海に同行する友人・品川柳次郎と竹村武左衛門。2人とも浪人者の磐音とは違い、歴とした御家人であるが、当時の世相に漏れずド貧乏。母と2人暮らしの柳次郎は、内職暮らしに飽き飽きしているものの真面目で誠実、母思いの友思いで、正義感も強い。一方、妻と幼い子供たちを抱える武左衛門は、酒好きの怠け者の横着者(笑)。

 今回も高い給金で雇われながら、道中の酒を禁止されて、不満たらたら。ダメダメの武左衛門には読んでいてムッとすることもあるが(笑)、どこか憎めない。もちろん、彼の給金は酒に消えぬよう、柳次郎が受け取り、武左衛門の妻に直接渡すのであった(笑)。

 大勢の登場人物が織りなす、互いを思いあう人間関係もこのシリーズの大きな魅力だな。レギュラー陣にはみんな幸せになってもらいたいなぁ、などと、ついつい感情移入しながら読むのであった。


 やっとリアルタイムの読書に追いついた!只今『ベルカ、吠えないのか?』(古川日出男・著/文春文庫)を読破中。
posted by ふくちゃん at 22:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史・時代小説

2008年05月11日

河岸忘日抄


河岸忘日抄
著者名:堀江敏幸(著)
出版社:新潮社
出版年:2008.04
ISBN :9784101294735


・内容
ためらいつづけることの、何という贅沢―。ひとりの老人の世話で、異国のとある河岸に繋留された船に住むことになった「彼」は、古い家具とレコードが整然と並ぶリビングを珈琲の香りで満たしながら、本を読み、時折訪れる郵便配達夫と語らう。ゆるやかに流れる時間のなかで、日を忘れるために。動かぬ船内で言葉を紡ぎつつ、なおどこかへの移動を試みる傑作長編小説。
(「BOOK」データベースより)

 決断したり、判断したり、覚悟を決めたりすることの、ある意味での“安易さ”よりも、考え続けること、迷い続けることの誠実さを静かに語るような作品。

 ただ、作品中で紹介される他の小説や物語、「彼」の生活の具体的なエピソードはなかなか良いのだが、「彼」の思索の道筋が僕には難しくて、いささか退屈してしまった。

 堀江氏の作品は4つめで、『熊の敷石』と『雪沼とその周辺』はマル、『いつか王子駅で』と『河岸忘日抄』はバツ。この人の場合、短編の方が性に合うようだ。


 次は、『居眠り磐音 江戸双紙 遠霞ノ峠』と『居眠り磐音 江戸双紙 朝虹ノ島』(佐伯泰英・著/双葉文庫)
posted by ふくちゃん at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 純文学

2008年05月09日

クレィドゥ・ザ・スカイ


クレィドゥ・ザ・スカイ
著者名:森博嗣(著)
出版社:中央公論新社
出版年:2008.04
ISBN :9784122050150


 刊行順は、『スカイ・クロラ』、『ナ・バ・テア』、『ダウン・ツ・ヘブン』、『フラッタ・リンツ・ライフ』、『クレィドゥ・ザ・スカイ』。

 物語の時系列は、『ナ・バ・テア』、『ダウン・ツ・ヘブン』、『フラッタ・リンツ・ライフ』、『クレィドゥ・ザ・スカイ』、『スカイ・クロラ』で、文庫カバーの見返しにはこの順序で作品が掲載されている。

 読むほどに謎だらけの『スカイ・クロラ』シリーズだが、『クレィドゥ・ザ・スカイ』を読めばスッキリ!。

 ・・・と期待したが、謎は謎のまま。

 恐らくは、森氏の企みに付いていけるほどに、高度に知的な読者が読めば、全ての伏線やヒントを見逃すことなく、シリーズの全貌が理解できるのだろう・・・か?

 僕の頭脳では到底・・・これで完結なのに理解できんとは・・・と思っていたら、単行本『スカイ・イクリプス』が6月25日に発売されるそうだ。

 これを読めば今度こそ、全てを理解できるのか?

 それともまた(森ミステリィ・サーガのように)“分かる人だけ分かればいい”と突き放されるのか(そこがクールで良いのだが)。

 ま、文体が好きだから、そして登場人物達の感性が好きだから、もう読めるだけで満足なんだけどね。

 それにしても、読んでいない人に、このシリーズの魅力を語るのは本当に難しい。少なくとも僕には無理だ。各巻のストーリーを説明しても全然良さは伝わるまい。読んだ人も、人によっては激しくハズレ!と感じるであろうし。

 ・・・て、前も同じこと書いたな。

 むむむ。

ダウン・ツ・ヘブン
フラッタ・リンツ・ライフ


 次は、『河岸忘日抄』(堀江敏幸・著/新潮文庫)。
posted by ふくちゃん at 00:17| Comment(0) | TrackBack(0) | SF

2008年05月06日

銀河英雄伝説8乱離篇


銀河英雄伝説 8 乱離篇
著者名:田中芳樹(著)
出版社:東京創元社
出版年:2008.04
ISBN :9784488725082


 “専制政治が一時の勝利をしめたとしても、時が経過し世代が交替すれば、まず支配者層の自律性が崩れる。誰からも批判されず、誰からも処罰されず、自省の知的根拠をあたえられない者は、自我(エゴ)を加速させ、暴走させるようになる。”

 全くその通り。

 だからこそ、自国の腐った政治家よりも敵国の専制者ラインハルトに対して、多くの敬意と共感を感じつつも、ヤンは徹底抗戦するのである。


・内容
宿敵ヤン・ウェンリーと雌雄を決するべく、帝国軍の総力をイゼルローン回廊に結集させた皇帝ラインハルト。ついに“常勝”と“不敗”、最後の決戦の火蓋が切って落とされた。激戦に次ぐ激戦の中、帝国軍、不正規隊双方の名将が相次いで斃れる。ようやく停戦の契機が訪れたその時、予想し得ぬ「事件」が勃発し、両陣営に激しい衝撃を与えた。銀河英雄叙事詩の雄編、怒涛の急展開。
(「BOOK」データベースより)


 この巻では、ホントに“予想し得ぬ”驚きの展開が待っている。

 ・・・て、もう昔アニメで観て知ってるから、僕自身は今さら驚かないのだが、初めてこの物語に接して、愛読してきた人にはビックリだろう。

 大胆なことをするものだ。

 北方水滸伝も真っ青である。

 昔アニメで観たが、次も意外な(でも今回に比べれば予想のつく)展開があったはず。

 昔アニメで観たが(しつこい)、物語のラストは忘れたなぁ・・・。

 読書の上では、良いことだ。

銀河英雄伝説1黎明篇
銀河英雄伝説2野望篇
銀河英雄伝説3雌伏篇
銀河英雄伝説4策謀篇
銀河英雄伝説5風雲篇
銀河英雄伝説6飛翔篇
銀河英雄伝説7怒涛篇


 次は、『クレィドゥ・ザ・スカイ』(森博嗣・著/中公文庫)。
posted by ふくちゃん at 23:38| Comment(0) | TrackBack(0) | SF

2008年05月01日

きいろいゾウ


きいろいゾウ
著者名:西加奈子(著)
出版社:小学館
出版年:2008.03
ISBN :9784094082517


 この作品を純文学にカテゴライズすることには異論もあろう(笑)。


・内容
夫の名は武辜歩、妻の名は妻利愛子。お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合う都会の若夫婦が、田舎にやってきたところから物語は始まる。背中に大きな鳥のタトゥーがある売れない小説家のムコは、周囲の生き物(犬、蜘蛛、鳥、花、木など)の声が聞こえてしまう過剰なエネルギーに溢れた明るいツマをやさしく見守っていた。夏から始まった二人の話は、ゆっくりと進んでいくが、ある冬の日、ムコはツマを残して東京へと向かう。それは、背中の大きな鳥に纏わるある出来事に導かれてのものだった―。
(「BOOK」データベースより)


 前半部、この人、マジ天才と思ったわ。

 この伸びやかで、あっけらかんとして、ユーモアが滲み出る文体はいったい何や!?

 読んでて幸せだった。

 初読みで、いい人に巡りあえたわぁ〜てな感じで。

 ただ、物語が動き出すと転調してしまう。“純文学”っぽい感じ(少々ハルキもどき?)の平凡な小説になってしまった。ちょっと観念的に過ぎるというか。

 最後にまた元の調子に戻るんやけどね。

 でも。前半部だけでも読む価値あり。

 他の作品も読んでみよ。


 次は『銀河英雄伝説8乱離篇』(田中芳樹・著/創元SF文庫)。
posted by ふくちゃん at 23:23| Comment(2) | TrackBack(1) | 純文学