2008年04月30日

東京バンドワゴン


東京バンドワゴン
著者名:小路幸也(著)
出版社:集英社
出版年:2008.04
ISBN :9784087462876


 この作品をミステリにカテゴライズすることには異論もあろう。でも、あんまりカテゴリ増やしたくないので(笑)。一応、“日常の謎”的なスパイスも効いてるし。

 舞台は、東京のとある下町に店を構える古本屋兼カフェ「東京バンドワゴン」。

 店を営む堀田家はイマドキ珍しい3世代8人の大家族である。すなわち、

 1)気風のいい江戸っ子の大じいちゃん79歳、古本屋店主・堀田勘一

 2)勘一の息子で金髪の60歳、伝説のロッカー・堀田我南人(がなと)

 3)我南人の娘、画家で未婚の母・藍子

 4)藍子の娘、小学6年生の花陽(かよ)

 5)我南人の息子、古本屋手伝い、フリーライターの堀田紺

 6)紺の妻、カフェを藍子と一緒に切り盛りする亜美

 7)紺と亜美の息子、小学4年生の研人(けんと)

 8)年中違う女性が家に押しかけるモテ旅行添乗員、紺の異母弟の堀田青

 彼らとご近所の賑やかな面々が織り成す春夏秋冬の全4章は、昔なつかし人情ホームドラマの風情が漂う。

 なかなか面白い。

 イマドキこんな大家族はいない(TVでよくやるような現代の子だくさん大家族とは全く雰囲気が違う)という気もするが、そこはそれ、ノスタルジックなファンタジーと思えば良いのだから。

 ちょっとした個人的な難点を挙げるとすれば、語り手である今は亡き勘一の妻・堀田サチ(つまり幽霊)の語り口調があまり好きになれないこと。テンポが阻害される気がするのだ。でも、このノンビリした口調が好きな人も多いんだろな。

 もうひとつは、我南人の口調がロッカーらしくないこと。ま、これも僕自身のステレオタイプなロッカーのイメージが原因だろうけど(笑)。


 次は、『きいろいゾウ』(西加奈子・著/小学館文庫)。
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2008年04月29日

替天行道 北方水滸伝読本


替天行道
著者名:北方謙三(編著)
出版社:集英社
出版年:2008.04
ISBN :9784087462838


 著者からのメッセージ、各種紙・誌に掲載された書評、編集者のエッセイ、著者と各界著名人(?)との対談(最後の大沢在昌氏・担当編集者の山田裕樹氏との三者対談がいちばんオモロイ)などを満載したファン本。

 これを読めば北方水滸伝が100倍楽しめる!

 ・・・かどうかは別にして、創作の裏側を垣間見ることはできる。

 そして、意外ではあるが、おそらく最初から続編を書くことを意図していたのではないか、と思えてくる。

 てっきり楊令というオリジナルキャラが目立ち始めた頃から構想したのでは・・・と思っていたのだが。

 で、その楊令。著者自身がこの本の中で述べているように、子午山から帰ってきた後の彼は少年でありながら、あまりに“出来すぎた人間”である。そこんとこ、読みながら引っかかっていたのだが、『楊令伝』では一度泥にまみれさせるそうである。

 だよなぁ。

 で、結局この読本で最も感じ入ったのは、北方氏とそのデビュー当時(正確には純文学路線からエンタメ路線に変更した時)からの担当編集者である山田氏との、戦友のような、同志のような関係性だったりするのだった。


 次は『東京バンドワゴン』(小路幸也・著/集英社文庫)
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2008年04月27日

水滸伝・十九 旌旗の章


水滸伝 19
著者名:北方謙三(著)
出版社:集英社
出版年:2008.04
ISBN :9784087462821


 遂に終わってしまった。

 全19巻に及ぶ長い物語だが、読み終わってみると、長かったような、あっという間のような。

 いずれにせよ、緊密なテンションを維持しつづけ、梁山泊の好漢だけで108人、敵側やその他のキャラクタを入れて多くの人物を書き分けた筆力は驚嘆&賞賛に値する。

 この最終巻は、童貫との決戦で丸々1冊。

 読む前から結末は分かっている。

 だから、読んでいてちょっと息苦しかった。

 読む前から結末は分かっている。

 なのに、ひょっとしたらと期待した。

 大勢の人間が死んだ。

 だが、生き残った人間もまた多い。

 物語は、北方完全オリジナルの“続・水滸”『楊令伝』へと続いていく。

 文庫本になるのは単行本が完結した後だろうから、まだまだ先だ。

 待ち遠しい!

水滸伝・一 曙光の章
水滸伝・二 替天の章
水滸伝・三 輪舞の章
水滸伝・四 道蛇の章
水滸伝・五 玄武の章
水滸伝・六 風塵の章
水滸伝・七 烈火の章
水滸伝・八 青龍の章
水滸伝・九 嵐翠の章
水滸伝・十 濁流の章
水滸伝・十一 天地の章
水滸伝・十二 炳乎の章
水滸伝・十三 白虎の章
水滸伝・十四 爪牙の章
水滸伝・十五 折戟の章
水滸伝・十六 馳驟の章
水滸伝・十七 朱雀の章
水滸伝・十八 乾坤の章


 次は、実際に読んだ順番とは違うけど『替天行道 北方水滸伝読本』(北方謙三・編著/集英社文庫)で。
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2008年04月25日

居眠り磐音 江戸双紙 朔風ノ岸


居眠り磐音 江戸双紙 朔風ノ岸
著者名:佐伯泰英(著)
出版社:双葉社
出版年:2004.03
ISBN :9784575661651


・内容
初春の陽光を水面に映す深川六間堀。金兵衛長屋に住む坂崎磐音は身過ぎ世過ぎに追われる浪人暮らし。そんな磐音が新年早々、南町奉行所年番方与力の笹塚孫一に請われ、屠蘇気分も抜けぬ御府内を騒がす大事件に関わることに…。春風駘蕩の如き磐音が許せぬ悪を討つ、著者渾身の書き下ろし痛快長編時代小説第八弾。
(「BOOK」データベースより)


 35年で30巻を越える『御宿かわせみ』も凄いが、6年で25巻を数える当シリーズも凄い。

 刊行ペースに合わせてリアルタイムで読めるよう早く追いつきたいのだが、他にも読みたい本が色々出るのでなかなか・・・。

 関前藩で暮らす妹・伊代に祝言の話が持ち上がる。

 小浜藩の医師・中川淳庵らを付け狙っていた“鐘ヶ淵の御屋形様”や“血覚上人”とはようやくケリが付く。

 吉原の花魁のトップ=太夫を選ぶ投票に絡んで、かつての許婚・奈緒=現在の白鶴太夫(この太夫は地位を表すものではなく単なる呼称)を描いた美人画の浮世絵師・北尾重政が脅迫される。

 江戸暮らしの師匠・幸吉少年は、奉公に出る年を迎える。

 流れる時の中で、三崎町の道場に通い、宮戸川で鰻を割き、品川柳次郎や竹村武左衛門と用心棒稼業に精を出す坂崎磐音。

 祝言の席に磐音を呼べぬことを詫びる国家老の父・正睦からの手紙、今津屋の援けを借りて祝いの品を送った磐音への伊代からの御礼の手紙もなかなか感動的だったけど、今回の一番好きなシーンは、鐘ヶ淵の御屋形様の正体を探り出してきた南町奉行の与力・笹塚と話し合った後。

“今津屋に戻るかどうか迷った末に、深川の金兵衛長屋に帰ることにした。となると米、味噌は残っていたか。
(問題は菜だな)
 と考えながら数寄屋橋を渡って、町屋に入った。”

 生活感があってとても良い(笑)。


 次は、遂に瞠目の最終巻『水滸伝・十九 旌旗の章』(北方謙三・著/集英社文庫)。
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2008年04月23日

心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている


心霊探偵八雲 1
著者名:神永学(著)
出版社:角川書店
出版年:2008.03
ISBN :9784043887019


 単行本は、自費出版で有名な文芸社から現在7巻まで。シリーズ80万部。初の文庫化である。


・内容
学内で幽霊騒動に巻き込まれた友人について相談するため、晴香は、不思議な力を持つ男がいるという「映画同好会」を訪ねた。しかしそこで彼女を出迎えたのは、ひどい寝癖と眠そうな目をした、スカした青年。思い切って相談を持ちかける晴香だったが!?女子大生監禁殺人事件、自殺偽装殺人…次々と起こる怪事件に、死者の魂を見ることができる名探偵・斉藤八雲が挑む、驚異のハイスピード・スピリチュアル・ミステリー登場。
(「BOOK」データベースより)


 ハイスピード・スピリチュアル・ミステリーって・・・また適当なキャッチだなぁ(笑)。

 死者の霊が見える赤い左眼と死者と交信する能力を持って生まれた斉藤八雲。

 その真っ赤な瞳ゆえに、実の母からさえも忌み嫌われて殺されそうになった過去があり、カラーコンタクトレンズで隠す術を覚えるまで、誰にも近寄られずに孤独に生きてきた。

 例外は、母の弟で寺の住職を務める斉藤一心と母に殺されかけた幼い八雲を救った刑事・後藤だけ。

 父親代わりを自認する一心は、八雲を寺に住まわせてくれている。が、霊の姿が見え、その声が聴こえてしまう八雲は、普段は自分の生活空間確保の為にでっちあげたサークル「映画研究会」の部室で寝起き(!)している。

 一方、後藤とは、その能力を活かして捜査に協力する関係にある。

 そんな八雲の元に、たまたま知人を介して、幽霊に取り憑かれた友人を救うべく、小沢晴香が訪れた・・・。

 で、ここから、八雲、後藤、晴香をレギュラーとする連作ミステリとなってくる。

 心霊・幽霊はあくまで道具立てであって、わりに普通のミステリだ。おどろおどろしくもないので、そういうのが苦手な人も大丈夫。

 辛い過去を持つがゆえに、他人に心を開かず、無愛想で皮肉屋の八雲と後藤・晴香の憎まれ口合戦がなかなか楽しい。

 一心や後藤以外で初めて、八雲の赤い瞳を気持ち悪がらず、「綺麗・・・」と呟いた晴香。彼女と接するうちに徐々に変わり始める八雲の成長小説としても読める。

 なんだかんだ言って、ついつい晴香を助けてしまう八雲。

 八雲の言動にプリプリ怒りながらも、事情を理解するに連れ、心惹かれる晴香。

 青春ですなぁ・・・(←おっさん)。

 ただ、この晴香というキャラが、「女の子女の子」してて、それがちょっと残念ではある。活発なように見えても、イザというときは男に守ってもらわないとダメなかよわい女の子・・・というキャラはあんまり好きじゃないんだよな。

 ま、でも両眼が真っ赤な敵キャラ(?)もチラッと登場して、続刊が楽しみだ。


 次は『居眠り磐音 江戸双紙 朔風ノ岸』(佐伯泰英・著/双葉文庫)。
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2008年04月21日

小判商人 御宿かわせみ33


小判商人
著者名:平岩弓枝(著)
出版社:文藝春秋
出版年:2008.04
ISBN :9784167710088


・内容
長助の近所の質屋に空巣が入った。犯人を捕えて取り戻した銭箱に、メキシコ・ドルラルと呼ばれる洋銀が一枚…。日米間の不公平な通貨両替を利用し、闇の両替で私腹を肥やす小判商人を追って、東吾や源三郎、そして麻太郎と源太郎の少年コンビが活躍する表題作をはじめ、騒然とした幕末の世情と揺れる人の心を描く七篇を収録。
(「BOOK」データベースより)


 昭和48年(!)から連載されてきたという、江戸時代編の『御宿かわせみ』も残すところ次の第34巻のみである。で、そこからは明治時代の『新・御宿かわせみ』となるのだ。その明治編では神林東吾も畝源三郎も登場せず、20代となった麻太郎(東吾の兄・与力の神林通之進の養子で実は東吾の息子)と源太郎(源三郎の息子)が主人公である。

 なんだか寂しいなぁ。。。

 それはさておき。

 時代小説好きで、まだこのシリーズを読んでいない方は、ぜひ第1巻から読もう。

 え?今さら30巻以上の作品を読むのは腰が引ける?

 何をもったいないことを!

 これから新たに30巻もこんな世界に触れられるなんて羨ましい!

 35年間、愛されてきたのはダテではない。

 読みなはれ!


 では、次。『心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている』(神永学・著/角川文庫)。
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2008年04月19日

花まんま


花まんま
著者名:朱川湊人(著)
出版社:文藝春秋
出版年:2008.04
ISBN :9784167712020


 昭和30年〜40年代の大阪の下町で少年時代・少女時代を過ごした大人たちが、子供の頃の不可思議な体験を振り返る、6つの物語。
 
 コジラ、ガメラ、ウルトラマン、サンダーバード、怪獣図鑑、ソノシート、パルナス(関西以外の人はほとんど知らんだろう)、リモコン戦車、ベッタン(メンコ)、路上の怪しい(でも子供には魅力的な)モノ売り、ゴム跳び、天王寺動物園、小さな文房具屋、プラモデル・・・。

 僕は昭和42年生まれで、この本の主人公たちより年下だし、同じ大阪の下町でも文化住宅やあばら家ではなく、田んぼに囲まれた団地で生まれ育った人間だが、読んでいてとても懐かしかった。

 哀しい話、淫靡な話、滑稽な話、怖い話・・・でも、どの話にも優しさと暖かさ、郷愁が溢れる不思議な魅力に満ちた短篇集。

 決してノスタルジーだけに寄りかかった小説ではないが、平成の世が舞台では成立しない匂い。

 今、20代前後の人には、この物語はどう映るだろうか?

 
 次は、『小判商人 御宿かわせみ33』(平岩弓枝・著/文春文庫)。
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2008年04月16日

震度0


震度0
著者名:横山秀夫(著)
出版社:朝日新聞出版
出版年:2008.04
ISBN :9784022644350


 『クライマーズ・ハイ』が堤真一主演で映画化される横山秀夫氏。

 「横山秀夫の警察小説」といえば、安心のブランドである。何作も読むうちに、初めて出会った頃の「!」という気持ちはどうしても薄らぐが・・・それでも、常に一定以上の水準で楽しませてくれる。

 本作も例外ではない。

 阪神大震災の前日、600km離れたN県警で警務課長・不破義仁が失踪した。仕事は優秀で、県警の内部事情に通じ、上司・同僚・部下のいずれからも人望の厚い不破が、どうして誰にも何も語らずに消えたのか?

 N県警1のキャリアではあるが、出世の行先は見え始めた本部長の椎名(46)。N県警2のキャリアで、こちらは将来の警察庁長官の座を争うと目されるやり手の警務部長・冬木(35)。準キャリアで、不破には個人的に恩義を感じているN県警3=警備部長・堀川(51)。地元の叩き上げ(ノンキャリア)で自分こそが3、どころか冬木にも対抗心を燃やす刑事部長の藤巻(58)。そして、同じくノンキャリアで、次の刑事部長の座を狙う、生活安全部長の倉本(57)と交通部長の間宮(57)。

 主に彼ら、N県警幹部6人の視点から描かれる物語と人物造型には、奥行きがある。

 不破が消えたことによる県警内のパワーバランスの崩壊。彼らの抱える野心・権力欲・競争意識・セクト主義・自己保身・相互不信・過去の傷・裏の顔が交差する。

 部下と妻たちの思惑や人間関係も絡む。

 やがて、辿り着く不破失踪の哀しい真相。

 脇役陣を描き切れていないこと、阪神大震災を絡めた効果がほとんど感じられないことには、やや残念・・・。

 しかし、毎度ワンパターンの感想ながら、組織と人間を書くのが上手いし、読ませる。


 次は、『花まんま』(朱川湊人・著/文春文庫)。
posted by ふくちゃん at 23:26| Comment(0) | TrackBack(2) | 警察小説

2008年04月13日

償い


償い
著者名:矢口敦子(著)
出版社:幻冬舎
出版年:2003.06
ISBN :9784344403772


 「ごめんなさい!今までこんな面白いミステリを紹介していなくて」(紀伊國屋書店新宿本店)という宣伝が効いたか、2003年発売の文庫本ながら、最近になってベストセラーとなった作品。40万部を突破したそうだ。


・内容
36歳の医師・日高は子供の病死と妻の自殺で絶望し、ホームレスになった。流れ着いた郊外の街で、社会的弱者を狙った連続殺人事件が起き、日高はある刑事の依頼で「探偵」となる。やがて彼は、かつて自分が命を救った15歳の少年が犯人ではないかと疑い始めるが…。絶望を抱えて生きる二人の魂が救われることはあるのか?感動の長篇ミステリ。
(「BOOK」データベースより)


 ミステリというよりサスペンスかな?

 謎や推理の部分は弱いと思う。

 大体、いかに過去の因縁があるとはいえ、刑事が一般人である日高に、事件や捜査のことをあんなにペラペラ喋るなんてありえないのでは?

 「肉体を殺したら罰せられるのに、心を殺しても罰せられないのか?」 

 扱っているテーマは重たく、その問いかけは切実なものかもしれないが、僕の胸にはもうひとつ響かなかった。このテーマで説得力を持たせるのは並みの筆力では無理だろう。

 文体や各章のタイトルの付け方も好みに合わなかった。


 次は『震度0』(横山秀夫・著/朝日文庫)。
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2008年04月11日

四畳半神話大系


四畳半神話大系
著者名:森見登美彦(著)
出版社:角川書店
出版年:2008.03
ISBN :9784043878017



第一話「四畳半恋ノ邪魔者」

大学3回生となった私は、「充実」「青春」「恋」「勉学」とは全く無縁の来し方を振り返る。新入生の春、多くのクラブ・サークルの新歓ビラの中で、私が興味を惹かれたのは、映画サークル「みそぎ」、「弟子求ム」という奇想天外なビラ、ソフトボールサークル「ほんわか」、秘密機関「福猫飯店」の4つであった。いずれの場所にも、その先に“幻の至宝”「薔薇色のキャンパスライフ」があると夢見ていた私が選んだのは「みそぎ」であったが、馴染めず脱退。他の3つのサークルのどれかを選べば良かったと後悔しつつ、人の不幸をおかずに飯が食える疫病神の同級生・小津だけを友として、「みそぎ」を牛耳る先輩・城ヶ崎との不毛な抗争に明け暮れる孤独な四畳半生活であった・・・。

第二話「四畳半自虐的代理代理戦争」

大学3回生となった私は、「充実」「青春」「恋」「勉学」とは全く無縁の来し方を振り返る。新入生の春、多くのクラブ・サークルの新歓ビラの中で、私が興味を惹かれたのは、映画サークル「みそぎ」、「弟子求ム」という奇想天外なビラ、ソフトボールサークル「ほんわか」、秘密機関「福猫飯店」の4つであった。いずれの場所にも、その先に“幻の至宝”「薔薇色のキャンパスライフ」があると夢見ていた私が選んだのは「弟子求ム」に応じて、樋口師匠の弟子となることであった。他の3つのサークルのどれかを選べば良かったと後悔しつつ、人の不幸をおかずに飯が食える疫病神の同級生で兄弟子・小津だけを友として、「みそぎ」の城ヶ崎と樋口師匠との不毛な抗争のために働く四畳半生活であった・・・。

第3話「四畳半の甘い生活」

大学3回生となった私は、「充実」「青春」「恋」「勉学」とは全く無縁の来し方を振り返る。新入生の春、多くのクラブ・サークルの新歓ビラの中で、私が興味を惹かれたのは、映画サークル「みそぎ」、「弟子求ム」という奇想天外なビラ、ソフトボールサークル「ほんわか」、秘密機関「福猫飯店」の4つであった。いずれの場所にも、その先に“幻の至宝”「薔薇色のキャンパスライフ」があると夢見ていた私が選んだのは「ほんわか」であったが、馴染めず脱退。他の3つのサークルのどれかを選べば良かったと後悔しつつ、人の不幸をおかずに飯が食える疫病神の同級生で兄弟子・小津だけを友としながら、偶然のきっかけで始まった見ず知らずの女性との文通に慰められる孤独な四畳半生活であった・・・。


 ということで、最初の3話は、いずれも大学3年生の「私」が過去2年を振り返りつつ話が進む。1年生のときに選んだサークルこそ違うが、悪友の小津、謎の自由人・樋口師匠、「私」が思いを寄せる孤高の乙女・明石さん、「みそぎ」の城ヶ崎先輩、怪しげな占い師など登場人物は共通し、エピソードや主人公の「私」の語りもその順序は微妙に異なるものの、ほぼ完全に同じである。「私」の高慢な、しかし、その向こうに孤独や純情や哀しみが透けて見える口調(文体)は、リズムもよく非常に面白い。

 だが、パラレルワールド的展開ではあるものの、結局どのサークルを選んでも、「私」の大学生活には劇的な違いはない。コピペされた(ほぼ同じ)文章を3話続けて読むとなると、さすがに飽きてきて、斜め読みになってくる(笑)。

 そして、第4話「八十日間四畳半一周」でも、やはり大学3年生の「私」は無為に過ぎた過去2年を思う。1年生のときに「福猫飯店」を選んだもの馴染めず脱退、小津だけを友としているのである。

 しかし、ここで、細かい点は違えど同じ話と言っても良い前3話が効いてくるのである。

 なるほどねぇ。

 まあ、“男汁溢れる”四畳半物語という点では松本零士の『男おいどん』の方がはるかに上かな(笑)。

 で、結局のところ、「私」は意外に幸せなんじゃないだろか、と思ったりするのであった。

 ちなみに樋口師匠と酒豪顔舐め美女・羽貫さんは『夜は短し歩けよ乙女』にも登場するそうだ。


 次は、『償い』(矢口敦子・著/幻冬舎文庫)。
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2008年04月09日

水滸伝・十八 乾坤の章


水滸伝 18
著者名:北方謙三(著)
出版社:集英社
出版年:2008.03
ISBN :9784087462722


 今年の本屋大賞が決まった。好きな作家だし、面白そうな作品ではある。が、しかし、昨年も思ったが、もう売れている作家の売れている作品ではなく、まだメジャーになっていない作家の「でもコレが面白いんです!読んで下さい!」という作品にこそ、売るプロとして賞をあげてほしいな。

 閑話休題。

 さて。

 1年半に渡って趙安と対峙してきた秦明の二竜山は陥落する。

 宋の超巨大戦艦が梁山泊とその水軍を脅かす。

 仕切り直しとなった童貫軍と梁山泊軍は、またしても一進一退の攻防の後、長い睨み合いに入るが、じわじわと童貫軍が押す。

 青面獣・楊志の名を継ぐ楊令は、梁山泊の全英雄をも越える可能性を秘めて、子午山から梁山泊に復帰、その類稀なる器量を発揮する。

 梁山泊は奇策を以って、三度北京大名府を占拠し、童貫軍は引き上げる。

 そして、再度の仕切り直しの後、いよいよ最終決戦へ。

 その緒戦、窮地の扈三娘を救おうとする林冲。

 ラスト一巻。心して待つ。

水滸伝・一 曙光の章
水滸伝・二 替天の章
水滸伝・三 輪舞の章
水滸伝・四 道蛇の章
水滸伝・五 玄武の章
水滸伝・六 風塵の章
水滸伝・七 烈火の章
水滸伝・八 青龍の章
水滸伝・九 嵐翠の章
水滸伝・十 濁流の章
水滸伝・十一 天地の章
水滸伝・十二 炳乎の章
水滸伝・十三 白虎の章
水滸伝・十四 爪牙の章
水滸伝・十五 折戟の章
水滸伝・十六 馳驟の章
水滸伝・十七 朱雀の章


 次は、『四畳半神話大系』(森見登美彦・著/新潮文庫)。
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2008年04月06日

蠱猫 人工憑霊蠱猫


蠱猫
著者名:化野燐(著)
出版社:講談社
出版年:2008.03
ISBN :9784062759892


 書店で書物に呼ばれることがある。

 そして、全く見たことも聞いたこともなかった作家の知らない作品を買うことがある。

 これもそんな一冊。


・内容
妖怪を具現化する力を持つ禁断の書、『本草霊恠図譜』。図書館の片隅の古びた土蔵から、美袋小夜子がこの書を発見したことで、学園都市は戦いの舞台へと変貌する。“蠱猫(こねこ)”とは?“有鬼派”とはいかなる者たちか?穏やかで近代的な学園都市が激しく凄惨で果てない対決の嵐の中に。妖怪伝奇小説登場。
(「BOOK」データベースより)


 文庫本の4ページに、『版画・妄想記述言語』というものが載っている。本編を読むと分かるが、どうやら妖怪を具現化する際に使用する文字のようだ。むろん架空の言語で、製作は著者自身、清書は京極夏彦氏。

 化野燐氏は在野の妖怪研究者だそうで、巻末には多くの興味深げな参考文献。

 ノベルズでは既に7巻刊行されているシリーズの第1作である。

 な〜んか面白そう・・・。

 と思って、読んだのだが。

 主人公の1人、美袋(みなぎ)学園創始者・玄山の血を引き、今は美袋玄山記念図書館の司書として、玄山が土蔵に残した夥しい古今東西の博物館学的知の集積を整理・分類する美袋小夜子が、何か良からぬことを企んでいそうな有鬼派たちから『本草霊恠図譜』を守るために、自らに取り憑いた蠱猫の化身に変化して闘い始める第1章はまだ良い(一文なが!)。

 そこからいったん時間を遡って(第2章のかなり後までそのことに気付かなかったが、そういう書き方もどうかと思う)、もう1人の主人公、美袋学園文学部人類学研究室の学生・白石優が登場する第2章。これが長いわりに話が進まない。ダラダラ長い。テンポ悪い。

 この白石が(傍からは全くそう見えないのに)相当なコンプレックスの持ち主で、ネガティブなのは、まあ良い。人間誰でもそういう面はあるし、主人公だからといって、いつも前向きである必要もないだろう。

 でも、すぐに『ぼくはダメ人間なのだ』と心の中で独白する(しかも何度も)のが、腹立つ(笑)。作家として、彼のそういう思いをもう少し別の形で表現する方法はないものか。

 で、白石は友人たちと共に挫折とはとてもいえないレベルの出来事で挫折して、ひとり自転車で旅に出る。でも、あの程度の出来事が挫折とはどうしても思えないので、全く共感できない。この旅が後々の伏線になるならともかく(続刊を読んでないので分からない)、そうでないならほとんど無駄な(しかも長い)描写である。

 さらに、特に気になったのが描写の重複。

 例えば、371ページ。

 あの光景が、死に近づいた瞬間に見えるというまぼろしのようなものだったのか、それとも、からだを脱け出た魂が本当にどこかをさまよって眼にしたものだったのかは、今もってわからない。
 あるいは・・・。
 ただの夢だったのかもしれない。

 そして、419ページ。

 あの断片が、死に近づいた瞬間にみえるというまぼろしのようなものだったのか、あるいは、からだから脱け出た魂が本当にどこかをさまよって眼にしたものだったのかは、今もってわからない。
 あるいは・・・。
 ただの夢だったのかもしれない。

 次に、425ページ。

 視界が目まぐるしく移動した。
 早送りビデオのように素早く、融通無碍に視界が切り替わった。
 物理的な制約から解き放たれた視線だけが、あちこちを彷徨った。
 部屋から部屋へと。
 襖を突き抜け、次の部屋へ。
 天井をすり抜け、二階へ、さらに上層へ。
 やがて・・・
 ぼくは大広間にいた。

 で、428ページ。

 視界がふたたび目まぐるしく移動した。
 早送りビデオのように素早く、融通無碍に視界が切り替わった。
 物理的な制約から解き放たれた視線だけが、あちこちを彷徨った。
 部屋から部屋へと。
 襖を突き抜け、次の部屋へ。
 床をすり抜け、二階へ、さらに下層へ。
 やがて・・・。
 ぼくの眼は、見覚えのある部屋にいた。

 ・・・この重複は何かの効果を狙ったものだろうか?その意図は僕には理解できない。

 というわけで、冗長の見本のような作品だと思った。

 辛口だなぁ。。。我ながら。。。

 でも多分、次も買うと思う。それで面白いと思えなかったら、このシリーズから離脱するだろう。


 次は『水滸伝・十八 乾坤の章』(北方謙三・著/集英社文庫)。
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2008年04月01日

食い逃げされてもバイトは雇うな/「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い


食い逃げされてもバイトは雇うな
著者名:山田真哉(著)
出版社:光文社
出版年:2007.04
ISBN :9784334034009


 この人、タイトルつけるの上手い。気になるもんな。手に取りたくなる。前著『さおだけ屋はなぜ潰れないのか』も面白かったので、まとめて2冊購入。

 「禁じられた数字<上>」「同<下>」とも表記されている通り、一応上下巻。会計学なんて分からない、興味もないという人(オレだ!)にも分かりやすく、楽しくサクサク読める。

 上巻では、プレゼンや文書(文章)作成など、ビジネス(に限らないが)で上手に数字を使うコツを、実例を踏まえて教えてくれる。

 例えば「タウリン1g配合!」より「タウリン1000mg配合!」の方がインパクトがあるとか。「ほとんどは仮説」より「99.9%は仮説」、「若者はなぜすぐに辞めるのか」より「若者はなぜ3年で辞めるのか」の方が心に訴えてくるとか。

 ただ、これらのことも含めて、上巻で説明されていることは自分でも日頃意識していることで、新鮮味はなかった(←偉そう)。

 内容よりも、著者の文章の上手さに感心。文学的に優れている・・・ということではもちろんないが、とにかく平易で簡潔で読みやすい。なかなかこういう文章は書けないよ。うん。

 最も印象に残ったのは、下巻の「脱予算経営」。企業というのは年間の予算計画(売上目標など)を立てるわけだが、環境変化のスピードの速い現代においては、その意義が薄れているというのだ。

 「計画」に縛られるのは、弊害の方が大きい。「計画」は、「作られた数字」や「根拠のない数字」を産み出す土壌になっている。「計画」よりも、環境に変化に応じて切ることのできる「カード」をどれだけ持っておくかが大事。

 ・・・というのである。

 同感。

 海外では、従来の「計画信仰」から脱却し、例えば最終目標としてよく使われる「売上高」「利益率」「成約件数」などではなく、「在庫水準」「品切れ率」「製品化までの時間」「解約件数」「顧客訪問回数」「従業員離職率」などの中間的な数字をチェックすることによってビジネス・プロセスを管理するKPI(重要業績達成指標)というものを導入する企業も出ているらしい。

 面白い。

 山田さんが紹介している『脱予算経営』という本、読んでみようかな。

 あと、「会計がわかる=ビジネスができる」という最近の風潮を、バッサリ否定しているのも爽快。


 次は『蠱猫 人工憑霊蠱猫』(化野燐・著/講談社文庫)。
posted by ふくちゃん at 23:24| Comment(0) | TrackBack(0) | その他