2008年02月29日

居眠り磐音 江戸双紙 狐火ノ杜


居眠り磐音 江戸双紙 狐火ノ杜
著者名:佐伯泰英(著)
出版社:双葉社
出版年:2003.11
ISBN :9784575661569


・内容
晩秋の風情が江戸を包む頃、深川六間堀、金兵衛長屋に住む坂崎磐音は相も変らぬ浪々の日々を送っていた。そんな折り、両替商・今津屋の心遣いもあり、働きづめのおこんの慰労を兼ねて、品川柳次郎らと紅葉狩りにでかけたが、悪行をなす不埒な直参旗本衆に付け狙われて…。春風駘蕩の如き磐音が許せぬ悪を薙ぐ、大好評!痛快時代小説第七弾。
(「BOOK」データベースより)

 ああ忙し(仕事が)。

 帰りが遅くなるし、独り者だから家事もあるし、ブログが書けぬ。

 でも、この作品、改めて書くほどのコト無いんだよな(貶しているのではない)。

 もの凄く高い確率で事件に遭遇する男(笑)、磐音。今回も章ごとに大小(小小?)様々な事件に出会い、快刀乱麻、爽やかに解決していく。

 長いシリーズには緩急が必要だと思うが、この巻は“緩”。

 許婚を何処までも追いかけたり、無二の親友を斬る羽目になったり、大切な恩人の死を看取ったり・・・というような痛切な物語は無く、安心して磐音の活躍を楽しめる。

 磐音は、剣の腕も、謙虚で穏やかで礼儀正しい人柄も素晴らしいが、決して完全無欠のヒーローではなく、人間らしいところが良い。こんなヤツ、なかなかいないけど、いて欲しいと思わせる。

 で、この巻では、第4巻『雪華ノ里』、奈緒を追いかける道中で知り合った中川淳庵を、その時も今も狙い続ける異形の僧たちのバックに“鐘ヶ淵の御屋形様”と呼ばれる人物のいることが分かる。一体何者?

 ちなみに、中川淳庵は、杉田玄白らと『ターヘル・アナトミア』を『解体新書』に翻訳した実在の医師。架空の人物と実在の人物の共演は、時代小説の楽しさのひとつだ。

 で、“鐘ヶ淵”といえば、池波正太郎『剣客商売』(超オススメ)の主人公・小兵衛の隠居所のある所。何だかニヤニヤしてしまった。時代も重なるしなぁ。小兵衛が出てきたら面白いのに。

 ・・・とりとめのない文章(笑)。

 やっぱ、書くことないなぁ。


 次は『水滸伝・十七 朱雀の章』(北方謙三・著/集英社文庫)。
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2008年02月25日

扉は閉ざされたまま


扉は閉ざされたまま
著者名:石持浅海(著)
出版社:祥伝社
出版年:2008.02
ISBN :9784396334062


 以前『月の扉』を読んで、「おいおい、こんなのアリかよ・・・」と最後にガクッときた過去がある。

 そんなわけで迷ったのだが、「06年このミス」第2位ということで購入。

 倒叙モノであるからして、まずイキナリ序章の殺人シーンから始まる。当然、犯人もトリックも明らかにされる。

 その後、時間は遡って第1章。

 大学の軽音楽部で、“アル中分科会”と呼ばれた仲良し6人組が卒業後初めての同窓会に集まる。

 まず、人望あるリーダー的存在の伏見亮輔。ただし、この同窓会を殺害計画実行の絶好機と捉え、実行に移す(移した)犯人である。

 豪奢のペンションを同窓会会場として貸切で提供した同期の安東章吾。1年先輩で、現実的でシニカルな物言いの女性・上田五月。1年後輩で、この中ではある意味最も普通のキャラにも思えるが、伏見に殺害される新山和宏。同じく1年後輩で、気が利いて明るい、世話役的存在の大倉礼子(旧姓・碓氷礼子)。そして、2年後輩のイジラレ役・石丸孝平。

 これに、礼子の妹であり、当時は高校生でアル中分科会のアイドル的存在だった碓氷優佳も加わり、7人の宿泊同窓会は和やかにスタートする。

 間もなく、伏見は新山を事故死に見せかけて殺害する。ペンションの構造や防犯設備を巧みに利用し、外部からの進入を一切拒む完璧な密室殺人。しばらくは誰もが、それまでのやりとりや状況から、新山が軽い運動+前日までの睡眠不足+薬の服用と副作用+アルコールによって、眠っているだけだろうと考える。

 ある理由(動機に絡む)から、警察による新山の死体回収をできるだけ遅らせようとする伏見の意図通りの展開だが、些細な点から疑問を抱いたのは、優佳だった。

 “冷静で熱い”伏見と“冷静で冷たい”優佳。互いに、並外れた観察力と洞察力を持ち合わせた2人。過去に因縁のある2人。

 皆が伏見の誘導にコントロールされそうな中、そのシナリオを突き崩して行く優佳。

 息詰まる頭脳戦。面白い。

 ただ、なぜ仲良しの後輩を殺害したのか?その動機が最後の最後で明らかになるが、相当違和感がある。こんな理由で人を殺すかなぁ・・・と。

 巻末の光原百合氏の解説によると、やはり物議を醸したようだ。それを補うために、文庫化にあたって、「前夜」というタイトルのエピローグ(時系列としては同窓会のずっと前)を追加したようだが、それでもなぁ・・・。

 もう少し敷衍して、この事件を“歪んだ正義感による殺人”と考えれば、この動機も分からないでもないというか、成り立つような気がしないでもないというか・・・。

 いや、でもなぁ。

 あと、碓氷優佳はかなり特異なヒロインで、感情移入できんかった。如何に見目麗しくても。こういう女性には関わりたくない(笑)。

 でも、論理による知的な戦いはとても楽しめる。

 で、これまた巻末解説によると、この作品は“倒叙3部作”の第1弾ということであり、3月12日にはノベルズ版で第2弾『君の望む死に方』が発売されるそうだ。探偵役は再び碓氷優佳。楽しみ。

 さらに、帯によると『扉は閉ざされたまま』が3月29日、『君の望む死に方』が3月30日、WOWOWでドラマ放映されるそうだ。前者では黒木メイサ、後者では松下奈緒が碓氷優佳を演じるらしい。黒木メイサの方が、まだ僕のイメージに近いかな?

 どっちにしても加入してないから、観れんけど。


 次は、『居眠り磐音 江戸双紙 狐火の杜』(佐伯泰英・著/双葉文庫)。
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2008年02月23日

「居眠り磐音 江戸双紙」読本


「居眠り磐音江戸双紙」読本
著者名:佐伯泰英(著)
出版社:双葉社
出版年:2008.01
ISBN :9784575663150


 こういうファン向けの読本って、シリーズ完結後に出ることが多いと思うんだけど、まあこのシリーズは著者が死ぬまで書き続けるだろうし、せっかく売れてるんだから、今出しとけ!ということなのか(笑)。

 でも、ファンには嬉しい一冊。

 磐音が活躍する江戸の町や故郷の豊後関前藩(架空の藩)の地図、磐音が暮らす長屋や両替商今津屋の図解、登場人物や名セリフの一覧、著者インタビューや読者とのQ&A、年表などなど(ありがちではあるが^^;)盛り沢山。

 特別エッセイや、今津屋奉公前の少女時代のおこんと今津屋の老分(筆頭番頭)になる前の由蔵が出会う読切番外編「跡継ぎ」も収録。

 やっぱり磐音がいないと面白さ半減(笑)。

 愛読者以外には意味のない本なので(笑)、今日はここまで。


 次は、『扉は閉ざされたまま』(石持浅海・著/祥伝社文庫)。
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2008年02月21日

かたみ歌


かたみ歌
著者名:朱川湊人(著)
出版社:新潮社
出版年:2008.01
ISBN :9784101337715


 朱川湊人氏、初読み。

 主に昭和40年代の東京の下町、アカシア商店街を舞台にした7つの連作短篇集である。
 
 『シクラメンのかほり』(知ってる)、『アカシアの雨がやむとき』(知らん)、『愛と死を見つめて』(知らん)、『モナリザの微笑』(知らん)、『黒ネコのタンゴ』(知ってる)、『圭子の夢は夜ひらく』(知ってる)、『人間なんて』(知ってる)、『心の旅』(知ってる&好き!)など、当時のヒット曲の数々(「かたみ歌」?)がチラッと登場する。

 ホラー、怪談、心霊、都市伝説。

 怖い物語ではない。

 最初の1篇を読み終えた時は、下手ではないけど、短篇ならもっと上手い人いくらでもいるよなぁ・・・と思った。しかし、一篇、一篇と読み進むうちに、なぜだか心地よくなってきた。

 現世を生きる者とあの世にいる者との交わりは、恐ろしくもあり、哀しくもあり、優しくもある。その不思議な手触りが忘れ難い。


 次は、『「居眠り磐音 江戸双紙」読本』(佐伯泰英・著・監修/双葉文庫)。
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2008年02月17日

死神の精度


死神の精度
著者名:伊坂幸太郎(著)
出版社:文藝春秋
出版年:2008.02
ISBN :9784167745011



 千葉の職業は死神である。レトリックではなく、正真正銘、本物の死神である。

 彼ら死神=調査部スタッフは、情報部の指示に基づいて対象者となる人間に接触する。

 彼らの容姿・年齢は、対象者に合わせて、その度ごとに決定される。

 そして、7日間の調査の後、対象者を死なせるべきであれば「可」、そうでなければ「見送り」と情報部に報告する(大抵の場合「可」)。「可」と判定された人間は8日目に死ぬ。その死を見届けるまでが、死神の仕事である。

 彼らの姓は、自治体の名称から取られる。

 彼らは人間の作り出す「音楽」が好きで、仕事で派遣された7日間、暇さえあればCDショップの試聴コーナーに入り浸る。

 彼らの中には、あと7日間で(おそらく)死ぬ人間のために、サービスに励む者もいる(例えば恋人になるとか)。だが、千葉は人間そのものには全く興味がなく、至ってクール。ハードボイルドな趣きさえある。それでいて妙なオカシミもある。それは彼ら死神が人間の姿・形をして、人間の言葉を話してはいても、人間ではないゆえに生ずる、対象者との会話のギャップのためである。

 仕事をするときはなぜかいつも雨に降られる千葉が、接触・調査する6人の老若男女の人生。

 冒頭の表題作を除き、千葉は対象者全てに関して「可」と報告する。表題作はもちろん、決して幸福なストーリーではない他の5篇も、なぜか爽やかな読後感だ。

 意外な着地点に辿り着く『死神の精度』。閉ざされた雪の山荘での連続殺人ミステリ・・・風の『吹雪に死神』。『死神の精度』、『恋愛で死神』と鮮やかに繋がる最終篇『死神対老女』が特にお気に入り。

 金城武主演の映画(3/22公開)も楽しみだ。


 次は、『かたみ歌』(朱川湊人・著/新潮文庫)。
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2008年02月16日

タカイ×タカイ


タカイ×タカイ
著者名:森博嗣(著)
出版社:講談社
出版年:2008.01
ISBN :9784061825789


・内容
「あんな高いところに、どうやって死体を上げたのでしょう?」有名マジシャン・牧村亜佐美の自宅敷地内で発見された他殺死体は、奇妙なことに、地上約十五メートルのポールの上に掲げられていた。被害者は、前夜ファンと牧村の会食中に消えたマネージャだった。事件関係者の調査依頼を受けた“探偵”鷹知祐一朗は、複雑に絡み合う人間関係の糸を解きほぐし、犯人の意図と事件の意外な真相に迫る。ますます好調Xシリーズ第三弾。
(「BOOK」データベースより)

 謎は魅力的だが、その真相は至って散文的。カタルシスが全くない(笑)。

 今作では、西之園萌絵もかなりの割合で登場。やっぱりGシリーズと絡んできそうである(自信なし)。

 ところで、森博嗣氏は人気作家ではあるが、ミステリ文壇?では無視されているような気がする。ご本人は全く気にされないだろうが(^^)。

 ・・・書くことねぇなぁ・・・。

 森氏の過去のシリーズを読まずに、今のXシリーズやGシリーズだけを読んでいる人って、どれくらいいるんだろうか?そして、XシリーズやGシリーズについて、どう感じているんだろうか?あまり面白くないな・・・と思った人、ぜひS&Mシリーズから読んでみて。そうすると、森ワールドの凄さにぶっとぶ(と思う)。

イナイ×イナイ
キラレ×キラレ


 次は、『死神の精度』(伊坂幸太郎・著/文春文庫)
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2008年02月10日

隠蔽捜査


隠蔽捜査
著者名:今野敏(著)
出版社:新潮社
出版年:2008.01
ISBN :9784101321530


 このブログを始める前も含めて、今までいろんな警察小説を読んできたが、この作品はこれまでの1である。

 主人公・竜崎伸也は、東大出身の国家公務員。いわゆるキャリアである。現在は警察庁長官官房の総務課課長として、雑多かつハードな仕事の中、マスコミ対策も担っている。

 竜崎はおよそ主人公らしくない。タフでハードボイルドじゃない。クールといえないこともないが、ヒロイックなカッコよさの漂うそれとは無縁。かといって、ヤクザ真っ青の悪徳警官でもない。見た目も冴えない中年である。


“東大以外は大学ではない。”

“竜崎は、規律と秩序を重んじる。組織のためには個人の思惑を犠牲にせざるを得ないこともあると考えている。”

“官僚の世界は常に四面楚歌だ。竜崎はそう信じているから、自然に疑り深くなり、行動も発言も慎重になる。”

“いいか。俺たちはキャリアの幹部だ。いちいち現場に行く必要はないんだ。”


 物語の序盤は、何でこんな人間が主人公なんだ?と訝しく思う。

 だが、読み進むに連れて、彼が自分の原理・原則=エリートは、警察官僚は、国家と国民を守るため、身を捧げ、時に命を捨てるべきだという考えに、徹底的に拘っていることが理解されてくる。

 例えば、深夜、殺人事件の一報が自宅の竜崎に入る。彼はすぐに警視庁に出向くが、自分の他に警察庁から誰も来ていないことに憤る。

「何やってるんだ・・・国家公務員ともあろうものが・・・」

 捜査本部長である小学校時代の友人で同期のキャリア、警視庁刑事部長の伊丹は言う。

「警察庁の課長職にある者が、夜中に電話一本で飛んでくる。そんなの、おまえくらいのものだ」

 竜崎は応える。

「私はすべきことをしているだけだ」

 “行動も発言も慎重になる”といっても、行動しない・発言しないということではない。自分の保身を図りながら、細心の注意を払いつつ、物事を解決するために最善手を探すのだ。保身を図るのは、上司に嫌われたり、左遷されたり、首になったりすれば、自分の仕事を追究できないからだ。決して理想主義者ではない、むしろ現実主義者だ。出世を望むのは、権限が大きくなることで、やれることが多くなるからである。

 警察組織を揺るがす連続殺人事件の雲行き。警察庁最上層部は、警察の威信低下を防ぐため、真相を揉み消そうとする。だが、完全な揉み消しなど不可能であり、わずかでも露呈すれば警察の一層の信用低下に繋がる。真犯人を逮捕・起訴し、真相を可能な限り早く正確に国民に明らかにすることこそが、組織が被るダメージを最小限に食い止める唯一の方策である。竜崎はそう信じ、上司や伊丹の説得にかかる。

 上層部の指示に従おうとする伊丹と翻意を促す竜崎の、正義とは何かを巡る対話が熱い。 

 家庭内の不祥事にも、悩みぬいた末に真正面から対峙することを決めて、自らの左遷・降格・免職を覚悟しながら事に当たる竜崎と、そのことを知った直属の部下(課長補佐)・広報室室長の谷岡が終盤に交わす会話には、思わず目頭が・・・。

 結末も爽やか。竜崎がもの凄くカッコよく見えてくるから不思議だ。

 続編の文庫化が待ち遠しいで。


 次は、『タカイ×タカイ』(森博嗣・著/講談社ノベルズ)。
posted by ふくちゃん at 21:32| Comment(6) | TrackBack(2) | 警察小説

2008年02月08日

水滸伝・十六 馳驟の章


水滸伝 16
著者名:北方謙三(著)
出版社:集英社
出版年:2008.01
ISBN :9784087462517


 登場人物一覧の梁山泊戦死者リストも随分増えた第16巻。

 限界まで戦い抜いたあの戦から1年半。偽りの講和工作で時を稼ぎながら、順調かつ急速に態勢を回復しつつある梁山泊。

 武松(ぶしょう)と李逵(りき)は、隣国・遼の反政府勢力・女真族から武器などを購入するために、蔡福・蔡慶と共に潜入する。

 梁山泊が運営する街・済州では、肉屋と食堂を営みながら物流監視・情報収集に当たる孫二娘(そんじじょう)のもとに、段亭と名乗る男が現われる。元は、人身売買や闇の妓楼・金貸しの経営者であったが、それを承知の上で、今の段亭は信用できると認めた孫二娘は、彼が済州内で肉を卸すことを許可、梁山泊の主要メンバーの一部とも引き合わせる。だが、この男はあの暗殺者Sの完璧なる変装。そして、孫二娘の亭主で済州を仕切るH、兵站の総責任者Sが命を落とす。

 だが、暗殺者Sも、あの日以来、彼を探し続けてきた梁山泊飛竜軍の劉唐に倒される。Sの臨終間際の2人の会話が良い。もし、敵同士でなかったなら・・・。

 暗殺なら梁山泊も負けてはいない。公孫勝は遂に青蓮寺のE(隠したことにならんなコレ)を仕留める。そして、ほぼ同時、少し離れた他の場所での、燕青<梁山泊>と洪清<青蓮寺>、体術の達人同士の息詰まる勝負。

 公孫勝とE、燕青と洪清の遣り取りもまた良し。

 敵・味方を超えた「漢」と「漢」の心の・・・。

 一方、先の大戦で疲弊したのは宋も同じ。地方軍を適切な人員削減と綱紀粛正で建て直し、担当の各軍管区の守りを徹底させる。軍費の捻出にも余念がない。

 禁軍(中央軍)の元帥・童貫は、梁山泊が自ら屠るに相応しい強さを得るまで待ち続けていたが、遂に腰を上げる。わずか5千の軍で移動中、6千の梁山泊―史進率いる調練中の遊撃隊―を捕捉。一方、史進も童貫軍を一足先に捕捉(と思っていた)。まさか自分達の存在に気付いてはいないと踏んだ史進は、千載一遇のチャンスとばかりに襲撃するも完敗。

 童貫軍は宋軍最強と言われながら、君側の軍として、梁山泊との戦いの最前線には全く出てこなかった。そのため実際の強さは未知数、ひょっとしたら意外に大したことないのでは・・・との憶測もあったが、梁山泊の誇る精鋭が一敗地にまみれたのである。軽いぶつかり合いとはいえ・・・。落ち込む史進。しかし、童貫もまた彼の軍の強さを認めていたのだが。

 Eの遺志により、青蓮寺の総帥には李富が就き、帝とEの約束に基づき、帝の耳目として暗躍してきた李師師(りしし)という女が李富のパートナーとして下げ渡される。絶世の娼妓でもあるが・・・「青蓮寺の使命を李富殿と果たします」「(青蓮寺に)考える者はいない。私は、李富殿の共に考えます」「私が加わることで、青蓮寺は以前よりも厚みを増します」「梁山泊は、宋にとって憂慮すべき存在です。しかし、考え方を変えれば、国が再生するいい機会でもあります」「梁山泊を、この世から消しましょう」・・・得体の知れない女である。

 巻末の解説は、なんと吉川晃司氏。下手な文芸評論家よりずっと宜しい。報われる苦労なんて苦労じゃないんだと。いいこと言うやん。

水滸伝・一 曙光の章
水滸伝・二 替天の章
水滸伝・三 輪舞の章
水滸伝・四 道蛇の章
水滸伝・五 玄武の章
水滸伝・六 風塵の章
水滸伝・七 烈火の章
水滸伝・八 青龍の章
水滸伝・九 嵐翠の章
水滸伝・十 濁流の章
水滸伝・十一 天地の章
水滸伝・十二 炳乎の章
水滸伝・十三 白虎の章
水滸伝・十四 爪牙の章
水滸伝・十五 折戟の章

 次は、『隠蔽捜査』(今野敏・著/新潮文庫)。
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2008年02月06日

写楽・考 蓮丈那智フィールドファイル3


写楽・考
著者名:北森鴻(著)
出版社:新潮社
出版年:2008.01
ISBN :9784101207230


 いやぁ、この人の頭の構造はどうなっているのか。『瑠璃の契り 旗師・冬狐堂』でも書いたが、何でこんな話を考えられるのか。派手さはないけど、ホント端正、切れ味バツグン。

 冬狐堂シリーズでは古物商、こちらは民俗学。知らない世界を垣間見るのは、楽しい(このセリフも前に書いたな)。

 民俗学上の謎に対する考察・調査が、現実世界の殺人事件に対する推理にリンクする。その鮮やかな着地。

 旧態依然とした権威主義、主流派と目される通説を颯爽と蹴飛ばしながら、独り我が道を行く異端の民俗学者、有能かつクールビューティな助教授・蓮丈那智(♀/TVドラマでは木村多江氏が蓮杖那智を演じていたが、僕のイメージでは天海祐希)。彼女に振り回されて疲労困憊・右往左往しながらも(それが快感?)、心酔して付いていく助手・内藤三國(♂)。この2人をホームズとワトソンとして、シリーズ途中から割り込み、三國のポジションを脅かすもう1人の助手・佐江由美子。かつては、蓮丈那智同様に将来を嘱望されていた民俗学の学徒でありながら、とある事情により、今は同じ大学の事務方に回った狐目の教務主任・高杉(♂)。そして、冬狐堂こと宇佐見陶子らが協力して謎を解き明かす、連作短篇集。

 最後に収められている表題作のこれだけ中篇「写楽・考」。話のメインはフェルメールの絵画であり、どこで東洲斎写楽が関係してくるのか?と思いながら読んでいたら、最後の最後で・・・!。

 へぇ〜。

 門外漢の僕には、蓮丈や高杉の唱える説が民俗学上、どの程度のレベルなのか、信憑性は如何ほどか、全く分からない。分からないが、知的好奇心を激しく刺激されるのだ。大学時代、英文学じゃなくて、民俗学をやればよかったな(単純)。


 次は『水滸伝・十六 馳驟の章』(北方謙三・著/集英社文庫)。
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2008年02月04日

アラビアの夜の種族(全3巻)


アラビアの夜の種族 1
著者名:古川日出男(著)
出版社:角川書店
出版年:2006.07
ISBN :9784043636037


 『この文庫がすごい!2007年版』第4位である。読みたいと思っていたが、ようやく手に取った。文庫本の腰帯によると『月刊PLAYBOYが選ぶこの10年のベスト・ミステリー』第1位だそうだ。

 だが、僕は『ファンタジー・幻想文学』にカテゴライズしてみた。


 時は18世紀。処はエジプト、首都カイロのマムルーク王朝(正確には今は王朝ではない)。マムルークとは“奴隷”である。しかし、一般的にイメージされる奴隷とは全く異なる。被支配階級ではなく、支配階級なのである。差別され、酷使され、虐げられる存在ではない。幼い頃に、人身売買で購入され、文武両面において、徹底的なエリート教育、競争教育を受ける。脱落者は命を奪われ、一握りの卓越して優秀な人材だけが生き残り、権力者となるのだ。

 今、そのエジプトを平らげんと迫り来るのは、将軍ナポレオン率いるフランス軍。一方のマムルーク軍団は、古典的スタイルの騎馬軍と歩兵。その伝統的スタイルによる戦闘ならば世界最強であり、かつては十字軍を始め、数々の外敵を屠ってきたわけだが、近代的軍隊と化したフランス軍相手に勝ち目は無い。例えて言えば、織田信長や武田信玄の軍勢が、自衛隊と戦うようなものである。

 しかし、近代軍の何たるかを未だ知らぬマムルーク内閣の第1位、勇猛な武人でもあるムラード・ベイは、自らを総大将として迎撃に向かう。内閣第2位、文官タイプのイブラーヒーム・ベイはカイロに残り、自らが第1位に躍り出るチャンスを窺いながら、後方を纏める(“ベイ”は“知事”という意味)。

 そして、近代軍の強さを知る内閣第3位のイスマーイール・ベイ。この国家的危機に頭を痛める彼に、文武に優れた若い執事(もちろん奴隷)アイユーブは献策する。

 すなわち、少しでも触れたならば、読む者を強大な吸引力によって引き摺り込み、決して離さず、最後は破滅に追い込む禁断の物語=『災厄の書』をアラビア語からフランス語に翻訳して、ナポレオンに読ませるというのである。

 実は『災厄の書』なるものは、アイユーブの創作であって、まだこの世には存在しない。しかし、アイユーブは数奇な物語を密かに語り伝える美しい“夜の語り部”ズームルッドを探し出し、最高峰の書家の協力を得て、『災厄の書』づくりを始める。夜な夜な奇想天外な物語が譚られ、書き綴られる・・・。


 アラビア民間伝承の奇想の物語、その英語版を日本語に翻訳した・・・というスタイルで執筆された、まさに奇想の書。

 古川日出男氏が綴る(翻訳する)ナポレオンのエジプト侵攻とそれに対抗するアイユーブの物語の中で、『災厄の書』の物語が語られる。

 まずは、古い古い時代、蛇神の魔女ジンニーアと契りを結んだ人間=魔王(妖術師・魔術師)アーダムの物語。そこから1000年後の白い魔術師・ファラーと勇士サフィアーンの物語。そして、永い時を越えて復活したジンニーアとアーダム、ファラー、サフィアーンの物語。

 地の物語よりも、この『災厄の書』の物語が非常に面白い。ファンタジーとして深みはないけど、エンタメとしてはなかなか。アーダム、ジンニーア、ファラー、サフィアーンの物語が大団円を迎えたときは、「あぁ〜、“物語”を読んだなぁ〜」という充実感とある種の癒し、物語が終わってしまうことへの一抹の寂しさを感じた。

 果たして、『災厄の書』はナポレオンの手に渡り、彼とフランス軍を破滅させ、エジプトを守ることができるのか?

 想像力と妄想力が爆発し、奔流のように飛び交う物語。

 まあ、ちょっと冗長に感じる部分もないでもなかったけどね。でも、ページを繰る手が止まらない。その意味では、この本が『災厄の書』かも。

 ちなみに、古川日出男氏については、昔『2002年のスロウ・ボート』を立ち読みして、「なんじゃい!村上春樹の劣悪なコピーかよ!」と思って(全文読んだわけじゃないので、本当にちゃんと読んだらどういう評価になるかは分からない)敬遠してきたのだが、まあ、この作品は楽しかった。


 次は、『写楽・考 蓮丈那智フィールドファイル3』(北森鴻・著/新潮文庫)。
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