銀河英雄伝説 6 飛翔篇 著者名:田中芳樹(著)
出版社:東京創元社
出版年:2007.12
ISBN :9784488725068
ヤン・ウェンリーとの直接対決では敗北寸前にまで追い込まれたラインハルトであったが、優秀な部下たちの機転により、国と国の戦いには勝利。全宇宙は新銀河帝国として統一される。
新銀河帝国の皇帝となったラインハルトは内政改革に努め、その属国と化した自由惑星同盟ではヤンが念願叶ってようやく望み通り退役。元副官フレデリカとの優雅な年金&新婚生活を送っていた。
だが、新銀河帝国の全権代表として、自由惑星同盟首都ハイネセンに在るレンネンカンプ提督は、自身を含めてこれまで戦場で散々煮え湯を飲まされてきたヤンを警戒して監視を強化。将来の禍根とならぬようヤンの排除さえ画策する。
一方、そのヤンに何度も危急存亡の機を救われたはずの同盟首脳は、智略と人望あるヤンが単調な引退生活に耐えられず、いずれその才能にふさわしい野心(=同盟を掌中に納めて帝国と戦う)に突き動かされる時が来るのでは・・・と疑心暗鬼に駆られ、やはり監視を付ける。
確かにヤンは後日に備え(個人的野心のためではなく自由民主主義を回復するため)、密かに手を打っていたのだが・・・。
レンネンカンプの圧力に耐えかねた同盟政府により、遂に証拠もないままヤンは逮捕・監禁される。だが、まさに処刑前の間一髪、かつての部下達の実力行使により救出される。
ヤンは、同盟首脳には「私たちはレンネンカンプを人質として、惑星ハイネセンを離れます。同盟政府は、脅迫されたというかたちで、私たちを追わずにいただきたい。帝国にたいしては、私が争乱のすべての責任をおいます。同盟から帝国にたいして、どうかヤン・ウェンリーを討伐、逮捕してほしいと頭をさげれば、帝国にたいしても弁解が立つのではありませんか」と策を授け、その言葉通りにレンネンカンプを拘束、ハイネセンを脱出し、秘密裏に温存しておいた同盟軍艦隊に合流する・・・。
一連の事件について、帝国首都オーディーンに参集した帝国軍幹部たちが、ヤンや同盟政府よりもレンネンカンプに対して批判的であるところが面白い。わざわざ和平を打ち壊して、徒に争乱の火を付けたと酷評するわけである。
当シリーズにおいては、度々民主主義陣営の政治家たちの自己保身や権力に爛れた姿と、専制国家に生きる軍人たちの清新さが対比される。かと言って、専制体制を賛美するものではもちろんない。
この巻でも、ヤンの考えが、次のように書かれている。
新皇帝ラインハルトがその強力な政治力によって宇宙に平和と繁栄を招来し、維持させたとき、人々が政治を他人まかせにすることに慣れ、市民ではなく臣民となってしまうのが、ヤンにとってはたえられない気分なのだ。専制君主の善政というものは、人間の政治意識にとってもっとも甘美な麻薬ではないだろうか、と、ヤンは思う。参加もせず、発言もせず、思考することすらなく、政治が正しく運営され、人々が平和と繁栄を楽しめるとすれば、誰がめんどうな政治に参加するだろう。(略)だが、人々が政治をめんどうくさがるとすれば、専制君主もそうなのだ。彼が政治にあき、無制限の権力を、エゴイズムを満足させるために濫用しはじめたらどうなるか。権力は制限され、批判され、監視されるべきである。ゆえに専制政治より民主政治のほうが本質的に正しいのだ。
あ。
何だか、小難しい小説だと思った?
本質的にはエンタメ作品。
では、最後に、今回の印象的な場面。
「法にしたがうのは市民として当然のことだ。だが、国家がみずからさだめた法に背いて個人の権利を侵そうとしたとき、それに盲従するのは市民としてはむしろ罪悪だ。なぜなら民主国家の市民には、国家のおかす罪や誤謬にたいして異議を申したて、批判し、抵抗する権利と義務があるからだよ」そうユリアンにヤンは語ったことがあった。(略)不当な待遇や権力者の不正をうけいれ、それに抵抗しない者は、奴隷であって市民ではなかった。自分自身の正当な権利が侵害されたときにすら闘いえない者が、他人の権利のために闘いうるはずがない。
・・・あぁ、耳イタ。
でもエンタメ作品。
銀河英雄伝説1黎明篇
銀河英雄伝説2野望篇
銀河英雄伝説3雌伏篇
銀河英雄伝説4策謀篇
銀河英雄伝説5風雲篇
次は、『少女には向かない職業』(桜庭一樹・著/創元推理文庫)。
年内の投稿はこれにて終了。
皆さん、良いお年を!

