2007年11月29日

銀座開化おもかげ草紙


銀座開化おもかげ草紙
著者名:松井今朝子(著)
出版社:新潮社
出版年:2007.09
ISBN :9784101328713


 今、話題の直木賞作家・松井今朝子氏。何だかとっても面白そうな受賞作は文庫になるのを待つとして(セコい)、既刊文庫本の中から、初読み作品として何をセレクトするか・・・。

 ということで、「WEB本の雑誌」で書評員各氏の評価が高かった本作を購入。単行本時のタイトルは『銀座開化事件帖』。若干ネタバレ。

 激変の「御一新」からまだ間もない明治7年。かつては旗本=バリバリの幕臣の家の次男坊・久保田宗八郎、30歳。明治の御世に未だ馴染めず世捨て人のような自分とは対照的に、すっかり新しい時代に適応した兄の仲介により、易断が得意な大実業家・高島嘉右衛門の知己を得た彼は、高島と兄の依頼で銀座煉瓦街で暮らすことに。

 元は大垣藩の分家の若様で洋物を扱う九星堂の主人・戸田。耶蘇教(キリスト教)書店の十字屋を営む元与力の原。薩摩藩出身・警視庁二等巡査の市来。宗八郎は、自分よりもずっと若く、新時代を積極的に生きる個性的な隣人達に囲まれて、図らずも殺人などの事件解決に協力することになる。

 実は、宗八郎は維新後しばらく、ほとぼりが冷めるまで北海道に潜んでいた。何のほとぼりかというと、維新で勝利した薩摩藩の将校で石谷という男が、幕府側の彰義隊士の死体を切り刻んで面白おかしく蹂躙する様に行き会って、腕に覚えのある宗八郎が成敗したのだが(峰打ち)、なんとこの石谷が新政府で市政裁判所権判事に出世し、追われる立場になってしまったのだ(素性は割れてない)。で、東京に戻ってからも、内縁の妻とひっそり暮らしていたわけ。

 しかし、関わる事件の先々で石谷の影がチラつく。遂には義憤に駆られた宗八郎はかつての気概を取り戻し、新政府から死刑に処される覚悟で、石谷と対決する道を選ぶ。


 やっと、盛り上がってきたぁ〜!



 って、ここで終わりかい!

 ・・・みたいなラストを迎えるのだが、どうやら続きがあるらしいので、文庫になったらまた読もう。

 全体的に地味な作品だったが、宗八郎をなぜか敬慕する武骨な薩摩隼人・市来が彼の前で見せる態度、宗八郎と石谷(というか新政府)の間で苦慮する姿は誠実かつ滑稽で、実に宜しい。つい、吹き出すこと数度。あと、宗八郎よりほぼ一回り年下で、まさに新時代の令嬢として登場する女学生・綾との微妙な関係も、この先気になる。

 ま、とりあえず先行作品というか前日譚の『幕末あどれさん』を近々読もうっと。ちなみに「あどれさん」とは、フランス語のadolescente。「青年期」という意味らしい。

 高島、戸田、原は歴史上の実在人物だそうだ。高島は“アレ”を作った高島で(もう上に答あるけど)、戸田と原は十字屋をアノ十字屋にした人らしい。へぇ〜。


 次は、『The MANZAI 4』(あさのあつこ・著/ピュアフル文庫)。
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2007年11月24日

水滸伝・十四 爪牙の章


水滸伝 14
著者名:北方謙三(著)
出版社:集英社
出版年:2007.11
ISBN :9784087462296


「いい人生だったよ。ほんとうに。戦友と呼べる人間が何人もできた」

 宋は梁山泊の完全殲滅を決意。梁山泊の全ての拠点に、禁軍(中央軍)・地方軍・水軍合わせて20万もの兵力を投入する。梁山泊も各拠点の全軍が総力を挙げて迎撃するが、どの拠点でも数百〜数千で数万の宋軍と相対することに。

 いかに梁山泊に優れた将軍・将校・軍師、精強な歩兵、迅速果敢な騎馬隊が揃っているとはいえ、圧倒的な物量差の前には、真正面からの戦はできない。大軍の弱点は兵站の確保にあるが、今回の宋は約1年をかけて周到に準備し、巨大な兵力で守りながら、兵糧を運搬するので、梁山泊も相手の兵站を切ることができない。とにかく、それでも20万の兵を長く動かせば、宋という国が傾くほどの軍費を浪費することになるから、梁山泊としては勝てないまでも、智謀の限りを尽くして、相手に時間をかけさせるしか無いわけである。

 十四巻では、まだ総力戦・乱戦・激戦前の小競り合いといか中競り合い(?)だが、既に梁山泊側は相当苦しい。秦明を総隊長とする二竜山・桃花山・清風山では、北京大名軍の董万による防御を一枚一枚剥がしていくような慎重かつ粘り強い攻撃により、清風山が奪取されかねない事態に。三山のトライアングルの一角を奪われたら、残りの二山への攻撃も容易になってしまう。秦明の軍師・解珍と清風山の戦闘部隊長・燕順は、あえて清風山を捨てることで他の二山を守るという戦術を取るのだが・・・。

 十九巻もあると思っていた北方水滸伝もあと5巻を残すのみ。十五巻はきっと凄まじい戦いになるのだろう。読み続けるのが辛い展開になっていくんだろうなぁ。だって、原典でも最後は・・・(北方水滸伝は原典を大幅に換骨奪胎してるけど)。

 でも、待ち遠しい。

水滸伝・一 曙光の章
水滸伝・二 替天の章
水滸伝・三 輪舞の章
水滸伝・四 道蛇の章
水滸伝・五 玄武の章
水滸伝・六 風塵の章
水滸伝・七 烈火の章
水滸伝・八 青龍の章
水滸伝・九 嵐翠の章
水滸伝・十 濁流の章
水滸伝・十一 天地の章
水滸伝・十二 炳乎の章
水滸伝・十三 白虎の章


 次は『銀座開花おもかげ草紙』(松井今朝子・著/新潮文庫)。
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2007年11月22日

居眠り磐音 江戸双紙 龍天ノ門/雨降ノ山


居眠り磐音 江戸双紙 龍天ノ門
著者名:佐伯泰英(著)
出版社:双葉社
出版年:2003.05
ISBN :9784575661460


 またまた2冊連続で読んでしまった。ついつい、刊行済みの23巻まで一気に行きたくなるな。困ったもんだ。著者は、このシリーズ50巻まで書くつもりらしいけど。ゆっくり読もう、ゆっくり。

『龍天ノ門』
かつての許婚・奈緒は吉原随一の花魁・白鶴となる。1000両の値が付いては、磐音のごとき素浪人に身請けは不可能。懇意の両替商・今津屋は金子(きんす)を用立ててくれようとするが、返す当てのない借金で奈緒を取り戻しても幸せにはなれないと考える磐音は断る。私事で今津屋の善意に甘えることはできないと。そして、一生妻を娶らず、吉原の外から奈緒の息災を祈り見守りながら生きていこうと決意する。一方で、磐音はかつて自分が仕えていた豊後関前藩とその国家老となった父のため、逼迫した藩財政を立て直すため、今津屋の協力を仰ぎつつ、国元の物産の江戸での販路を開拓しようと奔走する。

『雨降(あふり)ノ山』
今津屋のお内儀・お艶の体調が思わしくなく、しばらく実家に戻って療養することに。今津屋主人で夫の吉右衛門、奥向きを取り仕切る女中・おこん(磐音にホの字・・・死語か)、小僧の宮松、そしてこのために職場である鰻の宮戸川から休みを貰った磐音が付き添う。しかし、お艶の本当の病状は・・・。


 正月早々、初湯に誘われた磐音と幸吉の会話。

幸吉「浪人さん、お捻り(おひねり)を用意したかい」
磐音「お捻りとはなにかな」
幸吉「まだ深川暮らしが半端だな。(中略)十二文を半紙に包んで番台に積み上げるのが習わしだ」

幸吉「浪人さん、今年の願いはなんだい」
磐音「息災に過ごせればそれでよい」
幸吉「息災ってのは、元気に暮らすということかい。夢がねえな」
磐音「幸吉どのの願いはなんだな」

 幸吉はまだ少年である(笑)。だが、江戸暮らしの先輩であり、先生でもあるから、磐音の接し方はどこか低姿勢。こういうところに気さくで偉ぶらない彼の性質が出ている。長屋の女房連には「子供に江戸暮らしを教わっているようじゃ。今年も前途多難だねぇ」などと言われるが、それもまた愛嬌なのである。

 剣の腕前は超一流、人品は卑しからず。ついでに男前。そんな御武家が訳あって、貧乏長屋でその日暮らしの浪人暮らしで、用心棒稼業に精を出す・・・のは「藤沢周平」風。

 江戸庶民の日々の暮らしが活写される中、主人公が町民や町方、他の貧乏侍に慕われながら、メインのストーリーとは平行して大小様々な事件を解決していく・・・のは「池波正太郎」風。盗賊稼業を表す池波正太郎氏の造語“おつとめ”という言葉も出てくるし。

 「パクリだ!」

 ・・・と言いたいのではなく、偉大な先達が築いた良き伝統を受け継いでいると言いたいのだ。池波正太郎氏「剣客商売」、藤沢周平氏「用心棒日月抄」「よろずや平四郎活人剣」が好きななら、ぜひこのシリーズも!その逆もまたしかり。

 なにせ、剣客モノでは、諸先輩の作品と比較しても、主人公の造型はピカイチだと思うな、個人的には。『雨降ノ山』で、用心棒稼業で睡眠不足に陥り、鰻の宮戸川の仕事を寝坊してしまったりするのは人間味あるし、お艶を思って、磐音が旅先で取るある行動には素直に感動する。こんなイイ男、なかなかおらんで。

 んで、いろんな強敵との剣戟シーンも、(磐音が勝つと分かっていても)なかなか良い(多少、パターン化されてる部分もあるけど)。大体が悪逆非道な相手が多いが、『雨降ノ山』では、下士の身分ながら強すぎて、家老の息子(これも相当の剣客)を試合で殺してしまい(ただ真面目に闘っただけ)、藩にいられなくなった男・釜崎の挑戦を受ける。この場合は、磐音の強さを認め、尊敬するからこそ尋常な勝負を挑まれるわけだ。この釜崎、いつかまた出てきそうだな。

 とりとめない話になってしまった。

居眠り磐音 江戸双紙 陽炎ノ辻/寒雷ノ坂
居眠り磐音 江戸双紙 花芒ノ海/雪華ノ里

「居眠り磐音 江戸双紙」公式サイト
http://inemuriiwane.jp/


 次は『水滸伝・十四 爪牙の章』(北方謙三・著/集英社文庫)。
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2007年11月19日

のだめカンタービレ#19


のだめカンタービレ #19
著者名:二ノ宮知子(著)
出版社:講談社
出版年:2007.11
ISBN :9784063406733


気がつくと、このブログも1年を過ぎていた。。。

【もっと高くもっと遠くまで―。舞台はパリ、コンクール開幕!!】
おじゃま虫カップル付きでウィーンを訪れたのだめと千秋は、留学中の清良と再会。コンクール出場を決めていた清良の迷いとは…?パリでも、ターニャとユンロンがコンクールに向けて猛練習中。それぞれが希望と迷いの中で揺れながら未来へと走り始める。そして、一番星を背負って、あの男がパリの地に立つ!!
(講談社公式サイトより)

 巻頭こそ、前巻の流れで不穏なムードも、千秋とのだめは概ねいいムード。そして、三木清良や峰龍太郎など、懐かしの日本編主要キャラも再登場で嬉し。

 この巻は、重たい話も少なく、わりとさらさら楽しく流れる、若者達の青春群像劇。まぁ、ユンロンはちょっと気の毒。でも、これが才能と実力が頼りの厳しい芸術の世界。彼のリベンジはあるのかな。それとも、このまま中国へ帰っちゃうのか?

 それはさておき、新春スぺシャルドラマも楽しみやなぁ。

 あ。

 今回はこんだけね。

 
 次は、『居眠り磐音 江戸双紙 龍天の門』(佐伯泰英・著/双葉文庫)。
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2007年11月17日

風の歌、星の口笛


風の歌、星の口笛
著者名:村崎友(著)
出版社:角川書店
出版年:2007.10
ISBN :9784043864010


 SF3連発の最後は『風の歌、星の口笛』。“タイトル買い”である。

 ミステリにカテゴライズしたのは、この作品が2004年の横溝正史ミステリ大賞受賞作だから。

 とあるミステリ・ファン・サイトではミステリとしてもSFとしても、ぼろくその評価。確かに突き詰めていくと、どちらのジャンル作品としも粗いところはある。SFやミステリとしての論理性・整合性に厳密な人にとっては腹の立つ作品なのかも。 

 けど、僕は嫌いじゃないなぁ・・・。

 物語は、次の3つのパートが交互に進んでいく。

1)暇で金のない私立探偵トッド・マルーンに久々の依頼が来た。同じマンションに住む少女ビビが飼っている、死なないはずのロボット・ペット=ロペットが動かないというのだ。この世界では、「神」とも同等の存在であるコンピュータ“マム”によって、全てが完全・安全・快適に保たれている。そのマムが創り給うたロペットが動かないなんてことがあるわけがない。だが、同様のロペットが続出、街には停電区域が広がり、かつてない異常気象が続く。いったい、何が起っているのか?

2)宇宙暦700年、地質学者のジョーと植物学者のクレインは25光年の距離と250年の時間をコールドスリープで超えて、かつて地球人が建造した人工惑星プシュケに到着する。繁栄しているはずのプシュケを、滅亡に向かう地球を救う参考にするために。ところが、辿り着いたプシュケは生命反応のない砂漠の星と化していた。そして、出入り口が存在しない建物の“天井”にはミイラと化した死体が張り付いていた。いったい、この星に何が起こったのか?

3)西暦2000年代の近未来、交通事故で入院していた僕・センマは、退院してすぐ恋人のスウに会いに行く。しかし、彼女の一家は不在で、転居先に住んでいたのはスウという名の赤ちゃんとその母親だった。母親は僕のことなんか知らないという。自宅に戻ってみると、スウとの思い出の痕跡は全て消去され、両親と妹からは、僕の恋人はベスという高校時代の同級生だと聞かされる。スウはどこへ消えたのか?僕の記憶がおかしいのか?

 1)と2)については、1)が滅亡する前のプシュケの話であることはすぐに分かる。しかし、ここに3)がどのように絡んでくるのか、というのが読みどころだ。

 これら3つの物語のリンクの全貌が明らかになり、センマとスウの数奇な運命が明らかになったときの、切なさはなかなかに良い。

 ただ、2)の密室トリック(?)は壮大といえば壮大、SF設定じゃなきゃできないが、この部分が無くても物語全体は成立するよなぁ・・・。同じようなトリックの先例があるのは、まあ良いとしても。あと、日本語は正しく使ってほしいと(自分を棚に上げつつ)思う箇所もあったな。


 次は、『のだめカンタービレ#19』(二ノ宮知子・著/講談社)。
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2007年11月13日

時砂の王


時砂の王
著者名:小川一水(著)
出版社:早川書房
出版年:2007.10
ISBN :9784150309046


“私は2300年後の世界から来た。だが、ここの未来からではない。多くの滅びた時間枝を渡ってきた。”

 西暦248年、宮を抜け出して散策する耶馬台国の女王・卑弥呼は、この世のものとは思えぬ強力な物の怪に襲われるが、間一髪のところを突然現われた男に救われる。

 卑弥呼は常人離れした力を持つその男を、この世界のあらゆる民族に伝わる書「使令(つかいのおきて)」を記した“使いの王”に違いないと確信する。「使令」には、世に必ず災いが襲いかかるが、人が力を合わせて戦えば、必ず強力な援軍が現われて、その災いを退けられると記されていたのだ。

 “使いの王”の正体は“メッセンジャー・O”、本名はオーヴィル。彼は26世紀の人類世界からやって来た精密・優秀・強靭な人型人工知性体である。26世紀の未来において、謎の増殖型戦闘機械群=ET(Enemy of Terra/the Evil Thing)により地球は壊滅。その後、人類の反撃によって劣勢となったETは、過去の時点での人類抹殺を狙って時間遡行を行い、メッセンジャー部隊もまたETを追って時間遡行を行う。

 地球上における様々な時代の様々な場所で、戦いを繰り広げてきたETと人類&メッセンジャーであるが、戦況はETの優勢。そこで、メッセンジャー側は一気に10万年前に飛ぶ。各時代の人類と協力してETを殲滅しながら未来へ時間を下るメッセンジャー、人類とメッセンジャーを殲滅しながら過去へ時代を上ってくるET。ちなみに、時間遡行戦により歴史が様々な時点で改変・分岐され、パラレルワールドが発生している。

 そして、3世紀の耶馬台国(時間遡行戦の影響で、我々読者が知る邪馬台国とはかなり異なる歴史を刻んでいる)こそが、全人類史の存亡を懸けた最終決戦地だったのだ。

 ・・・って、うまく説明できんぞ。

 ま、詳しくは読んでおくれ。面白いから。 

 26世紀におけるオーヴィルと人間の女性サヤカとの短い幸せな日々。しかし、この世界ではETの勝利と人類の滅亡が確定、またオーヴィル達メッセンジャーの戦いが過去の歴史を変えるため、オーヴィルが生まれた26世紀世界は消え、サヤカも生まれなかったことになってしまう。しかし、サヤカという女性の記憶は、オーヴィルの記憶媒体からは消えてくれない・・・という切ない要素もあり。

 ETの正体は何か?なぜ執拗に人類殲滅にこだわるのか?メッセンジャーと3世紀の人類は勝つことができるのか?

 そう長い作品でもないし、映画化したら相当イケると思うけどな。CGが大変だろうけど。

 小川一水氏は初読みだったが、こりゃ『老ヴォールの惑星』(ベストSF2005国内篇第1位/第37回星雲賞日本短編部門受賞作)も読まないと!


 次は、SFミステリ『風の歌、星の口笛』(村崎友・著/角川文庫)。
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2007年11月11日

銀河英雄伝説5風雲篇


銀河英雄伝説 5 風雲篇
著者名:田中芳樹(著)
出版社:東京創元社
出版年:2007.10
ISBN :9784488725051


“忠誠心というものは、いわば鏡に映った自己陶酔であるから、鏡の役目を果たす主君には、美しい像を映してだしてほしいというのが、宮仕えする人間の願望であろう。”

 物語も折り返し地点だ。

 銀河帝国軍最高司令官兼宰相ラインハルトは、占領地フェザーンから空前絶後の大艦隊を率いて、自由惑星同盟領内に乗り込む。

 現状では自由惑星同盟の敗北は必至と見たヤンは、眼前のロイエンタール軍との戦いを捨て、民間人を保護しつつ、配下の全艦隊を率いてイゼルローン要塞を離脱、同盟首都ハイネセンへ向かう。

 かくして、自由惑星同盟領内において、ヤンのいない同盟軍と銀河帝国軍との戦闘が開始される。ヤンの尊敬する宇宙艦隊司令官ビュコックの下、劣勢の中でも善戦する同盟軍だが、帝国軍の猛攻の前に、命脈は尽きようとしていた。

 しかし、イゼルローンから駆けつけたヤンが危機的状況を打開し、戦いは仕切り直しとなる。

 ヤンの考える同盟唯一の勝利法は、帝国軍の智将達を各個撃破、ラインハルト自らを引き摺り出して、正面決戦を挑み倒すこと。これによって、もはやラインハルト個人の卓越した能力とカリスマ性およびラインハルトへの忠誠心で成り立っている銀河帝国は一気に弱体化し、当分の間は戦争を回避できる。

 神出鬼没、その実、綱渡りの奇策によって、次々とラインハルト麾下の驍将を打ち破るヤン。そして、ヤンの狙いを分かっていながら、最高の好敵手を倒すために、遂に自ら戦いに臨むラインハルト。

 今回は巻のほとんどが戦闘場面で、中でも巻の4分の1を占めるヤンとラインハルトの戦いが最大の見せ場。「不敗」と「常勝」の対決に相応しい、一進一退、逆転また逆転、手に汗握る勝利と敗北紙一重の戦いである。

 だが、遂にヤンはラインハルトを追い詰める。

 しかし・・・。

 はい、後は自分の眼で!

銀河英雄伝説1黎明篇
銀河英雄伝説2野望篇
銀河英雄伝説3雌伏篇
銀河英雄伝説4策謀篇


 次は、『時砂の王』(小川一水・著/ハヤカワ文庫)。
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2007年11月09日

その名にちなんで


その名にちなんで
著者名:ジュンパ・ラヒリ(著)
     小川高義(訳)
出版社:新潮社
出版年:2007.10
ISBN :9784102142127


 彼の名は「ゴーゴリ」。

 父アショケと母アシマはインド出身、自身はアメリカ生まれのアメリカ育ち。なのに、与えられたのはロシア人のような名前。

 そもそも、インドでは家族や親戚の中だけの使用する愛称と対外的な正式名、2つの名前を持つのが普通なのだが、正式名をしたためたはずのインドの祖母からの手紙が届かず、アショケとアシマは「ゴーゴリ」という愛称を決めて、出生証明書に記入する名前=正式名としても便宜的に使用することに。

 幼稚園入園に際して、ようやく「ニキル」という正式名が用意されるが、幼いゴーゴリが親しんだ名前を変えられることに抵抗したこと、改名の事務手続が煩雑なことを理由に立ち消えになる。

 ところが、思春期に差し掛かった彼は、インドでもアメリカでも他に見かけないこの名前、周囲のアメリカ人(移民も含めて)とは趣きの異なるこの名前を恥じるようになる。インド人として、アメリカ国民としてのアイデンティティにも関わりかねない。

 大学生となった彼は、遂に自分自身で手続きし、「ニキル」と改名する。

 「ゴーゴリ」という名は、父アショケの好きなロシアの作家ニコライ・ゴーゴリにちなんで付けたとだけ聞かされていたゴーゴリ/ニキルであったが、父の死後、実は若き日の父にとって絶対に忘れられない重大な出来事が関係していたことを知り、改名したことに少し罪悪感を覚えたりもする。

 インド人であることから遠ざかり、アメリカ人でありたいと思い、家族から離れ、両親とは違う生き方を志向する彼。その学業生活、仕事、恋愛、結婚・・・。

 ドラマチックたることを徹底して避ける淡々とした筆致。ほぼ全文が現在形の短いセンテンス。最初は退屈に感じられたこれらの特徴が、徐々に小気味よく響いてくる。名前の問題に象徴される彼の複雑な思いは、彼の人生をどのような場所へ運んでいくのか、気になって仕方がなくなり、先へ先へと読み進めていく。

 不幸な出来事、辛い出来事もあった。だけど、彼も、彼の両親も妹もきっと小説が終わる今=ゴーゴリ/ニキル32歳の時点ではどちらかといえば幸せなのだろう。この先の彼らの人生も読んでみたいと思わせる、静かな余韻漂うアンチ・クライマックスなラストがじわりと良い。彼らの人生はページの向こうでまだ続いている。


 ここからSF3連チャン、まずは『銀河英雄伝説5 風雲篇』(田中芳樹・著/創元SF文庫)。
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2007年11月05日

自虐の詩(上・下)


自虐の詩 上
著者名:業田良家(著)
出版社:竹書房
出版年:1996.06
ISBN :9784812401262


 映画がなかなか良かったので、原作を読むことにした。もちろん、有名な作品だから、その存在自体は以前から知っていたし、読みたいとも思っていたので。

 映画で主演した中谷美紀嬢が映画のパンフの中で正直かつ大胆?にも告白したのと同様、僕もどうも絵柄が好みでないので、最初はちょっとそこが気になった。

 しかし、これまた中谷嬢が仰せの通り、すぐにそんなことは気にならなくなり、それどころか、この絵柄が好ましく思えてくる。この物語には、この絵柄以外にはありえないという気さえしてくる。ついでに、イサオの顔が阿部ちゃんに見えて仕方がない。

 あっという間に一気読み。

 4コマギャグでこんなドラマが描けるなんて・・・。下手なストーリー漫画や小説が逃げ出すわ。

 「日本一泣ける4コマ」、ダテではない。

 僕は泣かんかったけど・・・。それはある意味、恵まれた人生を送ってきたということなんやろうな。


 次は、『その名にちなんで』(ジュンパ・ラヒリ・著/新潮文庫)
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2007年11月03日

生首に聞いてみろ


生首に聞いてみろ
著者名:法月綸太郎(著)
出版社:角川書店
出版年:2007.10
ISBN :9784043803026


 2005年の「このミス」1位作品。
 
 タイトルも良い。


首を切り取られた石膏像が、殺人を予告する ― 著名な彫刻家・川島伊作が病死した。彼が倒れる直前に完成させた、娘の江知佳をモデルにした石膏像の首が切り取られ、持ち去られてしまう。悪質ないたずらなのか、それとも江知佳への殺人予告か。三転四転する謎に迫る名探偵・法月綸太郎の推理の行方は―!?幾重にも絡んだ悲劇の幕が、いま、開く。
(「BOOK」データベースより)


 真相に触れるので書けないが、この作品には決定的に非現実的というか、無理な箇所がある。

 登場人物にも、いまひとつ生彩がない。

 まあ、本格ミステリにとっては、魅力的な謎と鮮やかな解決こそが大事であって、そのためには少々の無理があってもいいし、人物が書けていなくても良い(本当はイヤだけど)。

 が、しかし・・・。

 なるほど!こういうことだったのか!

 ・・・そういうカタルシスが全くないのだ。

 法月綸太郎(ミステリ作家で自分と同姓同名の探偵を書くの好きやね)の探偵ぶりには、キレがない。現実的といえば現実的、リアルといえばリアル(同じことか)だが、そんなところだけリアルでどーする。

 あーでもない、こーでもないでグダグダしてて、メリハリがないし、後味は良くないし(いや本来、後味の良い殺人なんてあるわけないが)、えーとこなし。

 
 次は『自虐の詩』(業田良家・著/竹書房文庫)。
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