2007年05月28日

深追い


深追い
著者名:横山秀夫(著)
出版社:新潮社
出版年:2007.04
ISBN :9784101316710


 先日読んだ『笑う警官』では、「有給休暇」とすべきところが「有休休暇」になっていた。

 ・・・誤植である。

 僕も仕事柄、よく文章を書いたり校正したりするので(といっても出版・編集関係者じゃない)、ひとつの書物を完璧に仕上げる難しさは身に沁みている。だから、誤植を責めるというより、「見〜つけた♪」という感じで愉しんでいるのだが、最近文庫本で誤植に出会う回数が増えたように思う。

 頑張れ校正マン!(著者も!)

 ・・・閑話休題。


不慮の死を遂げた夫のポケットベルへ、ひたすらメッセージを送信し続ける女。交通課事故係の秋葉は妖しい匂いに惑い、職務を逸脱してゆく(表題作)。鑑識係、泥棒刑事、少年係、会計課長…。三ツ鐘署に勤務する七人の男たちが遭遇した、人生でたった一度の事件。その日、彼らの眼に映る風景は確かに色を変えた。骨太な人間ドラマと美しい謎が胸を揺さぶる、不朽の警察小説集―。
(「BOOK」データベースより)


 1つの警察署を舞台に描かれる、7人の警察官(1人は正確には警察官ではなく警察事務職)が主人公の、独立した7つの物語。「組織」と「個人」を描くにあたって、たまたまその舞台が「警察」であり、主人公が「警察官」であるという、著者お得意のパターンである。

 氏の長編も短編も読んでいる身としては、やはり短編にこそこの人の魅力があると再認識した次第。

 それぞれにほろ苦く、それでいてかすかに爽やかな読後感が残る。愚かで、愛すべき等身大の人間達が織り成す小さな、しかしながら決定的な瞬間を切り取った物語。

 この味は子供には分かるまい・・・(笑)。


 次は『イナイ×イナイ』(森博嗣・著/講談社ノベルズ)。
posted by ふくちゃん at 23:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 警察小説

2007年05月26日

笑う警官


笑う警官
著者名:佐々木譲(著)
出版社:角川春樹事務所
出版年:2007.05
ISBN :9784758432863


 佐々木譲氏は初読み。最近、『制服捜査』や『警察庁から来た男』など、警察小説の評判が良いようなので買ってみた。『笑う警官』といえば、海外モノに同名の有名先行作品があるが、読んだことはない。

 物語は、実際に数年前大騒ぎになった(はずなのにもう忘れている)北海道警察の不祥事 ― 現職警部による拳銃摘発実績の捏造と覚せい剤取締法違反容疑(使用と販売)での逮捕、自首して警部逮捕のきっかけをつくった情報屋の不可解な死、警部の上司の自殺、裏金疑惑など ― を下敷きにしたもの。


札幌市内のアパートで、女性の変死体が発見された。遺体の女性は北海道警察本部生活安全部の水村朝美巡査と判明。容疑者となった交際相手は、同じ本部に所属する津久井巡査部長だった。やがて津久井に対する射殺命令がでてしまう。捜査から外された所轄署の佐伯警部補は、かつて、おとり捜査で組んだことのある津久井の潔白を証明するために有志たちとともに、極秘裡に捜査を始めたのだったが…。北海道道警を舞台に描く警察小説の金字塔、「うたう警官」の文庫化。
(「BOOK」データベースより)


 警察上層部は、津久井が県議会で警察の不正(上司の警部あるいは組織による拳銃摘発実績捏造・覚せい剤の売買・裏金)を証言する=「うたう」ことを阻止するために、彼を水村巡査殺害の犯人に仕立て上げる。そして、拳銃所持および覚せい剤乱用により危険という理由で射殺命令を出すのだが、こんな恐ろしいことはフィクションだけの話にしておいてもらいたい。

 ・・・が、現実の不祥事でも、情報屋の不可解な死や上司の自殺には疑いの目が向けられているようだ。

 やれやれ。

 まあ、これが現実だと思うと胸糞悪いが、フィクションとしてのこの作品はなかなか楽しめる。

 翌朝の県議会での証言までの約半日、佐伯たちのチームは、県警組織を向こうに回して津久井を匿い通し、真犯人を割り出して射殺命令を撤回させることができるのか?チームに潜む正体不明の上層部のスパイを欺きつつ、津久井を無事に県議会まで送り届けられるのか?その虚々実々の頭脳戦。そして、佐伯や彼に協力する警察官たちの矜持。

 ・・・どうやら、映画化されるみたい。

 それにしても、くだらないダジャレばかり云うという設定の植村刑事のダジャレが本当にくだらなくて寒い・・・。

 あとがきによると、単行本の『うたう警官』から文庫本の『笑う警官』への改題は、『うたう警官』というタイトルが分かりにくいという評判があったのと、角川春樹氏のアドバイスによるものらしいが、読んだ感想としては『うたう警官』の方が絶対しっくりくるな。


 続いても警察小説で、『深追い』(横山秀夫・著/新潮文庫)。
posted by ふくちゃん at 23:53| Comment(2) | TrackBack(3) | 警察小説

2007年05月22日

水滸伝・八 青龍の章


水滸伝 8
著者名:北方謙三(著)
出版社:集英社
出版年:2007.05
ISBN :9784087461558


 梁山泊の三大拠点=梁山泊・双頭山・二竜山(桃花山・清風山含む)のド真ん中に位置する大きな村・祝家荘の中には、李富が選び抜いた精鋭1万の軍。村の内外には幾重もの罠と迷路。さらには両隣の村(李家荘・扈家荘)とあわせて1万5千の民兵。

 青蓮寺の聞煥章自らが陣頭指揮にあたり、裏切り(=梁山泊側に付く)の可能性のある李家荘の長・李応の監視役には暗殺部隊の長・王和。そして、双頭山と二竜山を攻囲する数万の地方軍。

 これまでとは全くレベルの違う用意周到な戦略・戦術と大規模な軍の動員(それでもまだ中央軍はほとんど動いていない)で、一気に梁山泊を押し潰そうとする官軍。

 いよいよ初めての総力戦が、ほぼ一巻丸ごと使って描かれる。

 梁山泊側では新しい仲間が加わると同時に、またまた何人かの人物が死を遂げるわけだが、今回は青蓮寺側でも当初からの登場人物が死ぬことになる。

 そのひとりが ― 主要人物ではないのでバラしてしまうが ― 馬桂。元は梁山泊側の間諜でありながら、青蓮寺の策略により宋江を逆恨みし、青蓮寺側の間諜に。李富と深い仲になり、梁山泊の武将△△の暗殺にも功を立てた女。

 その馬桂が、梁山泊対策で疲れ切って眠る李富の隣で惨殺される。馬桂の死の衝撃に心身とも極限まで追い詰められ、這い上がってきた李富はその憎悪の力により、一層研ぎ澄まされた状態で、梁山泊主要メンバーの暗殺に執念を燃やす。

 馬桂の死は、△△暗殺に対する梁山泊の報復行為と信じて疑わない李富だが、実は・・・。ああ、こわ!。

 で、李富がすぐにでも暗殺してみせると豪語したのが、梁山泊最大の騎馬隊を率いる林冲。

 梁山泊合流前の林冲が官軍に捕らえられていた時期に、官軍に慰み者にされて自殺したはずの妻。それが実は生きているという情報を梁山泊はキャッチ。

 真実なのか、罠なのか?梁山泊の間諜組織が調べを進めるが、遂には待ち切れず、妻がいるという場所へ単身向かう林冲。

 ・・・やばそう。

 気になる〜!!

 それはそうと、この巻の攻防の大詰めはスカッとすること間違いなし!

水滸伝・一 曙光の章
水滸伝・二 替天の章
水滸伝・三 輪舞の章
水滸伝・四 道蛇の章
水滸伝・五 玄武の章
水滸伝・六 風塵の章
水滸伝・七 烈火の章


 次は、『笑う警官』(佐々木譲・著/ハルキ文庫)。
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2007年05月21日

ブラフマンの埋葬


ブラフマンの埋葬
著者名:小川洋子(著)
出版社:講談社
出版年:2007.04
ISBN :9784062756938


ある出版社の社長の遺言によって、あらゆる種類の創作活動に励む芸術家に仕事場を提供している“創作者の家”。その家の世話をする僕の元にブラフマンはやってきた―。サンスクリット語で「謎」を意味する名前を与えられた、愛すべき生き物と触れ合い、見守りつづけたひと夏の物語。第32回泉鏡花賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)


 ブラフマンという名は、入れ代わり立ち代わりやって来る様々なアーチスト ― 作家、詩人、翻訳家、哲学者、画家、デザイナー、指揮者、装丁家、カメラマン、歌手、染色家、映画監督、バイオリニスト、表具師、舞踏家、クラリネット奏者、レース編み作家、ホルン奏者など ― と違って、“創作者の家”で唯一住み込みのような状態で仕事をしている碑文彫刻家が付けた名前だ。

 「謎」という意味の名にふさわしい架空(だよな?)の小動物。水掻きのある短い四本の肢。フック状の爪。肉球。黒いボタンのような鼻。ひげ。首の付け根あたりに申し訳程度に存在する耳。胴体の1.2倍の長さの尻尾。

 姿形を表す言葉だけを並べても、可愛いとは思えないかもしれないが、「僕」との触れ合い・交情と仕草がなんとも愛らしいのだ。ペット好きな人も、そうでない人もきっと好きになると思う。

 ストーリー自体は、とりたてて何もない。作品のタイトルが示すとおり、愛すべきブラフマンとの出会いから「埋葬」までの、すなわち看取るまでの、ひと夏の短い物語だ。雑貨屋の娘に向ける「僕」の淡い恋情のようなものはあるが、それも作品の主題ではない。

 主題。

 いったいこの作品の主題はなんだろう。

 ・・・そんなことはどうでも良くなってしまう。この静かで、小さな、いとおしい世界。それだけを感じていれば幸せなのだ。


 次は『水滸伝・八 青龍の章』(北方謙三・著/集英社文庫)。
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2007年05月19日

葉桜の季節に君を想うということ

葉桜の季節に君を想うということ

著者名:歌野晶午(著)
出版社:文藝春秋
出版年:2007.05
ISBN :9784167733018


 歌野晶午氏は初読み。それが2004年『このミス』&『本格ミステリベスト10』の第1位作品となれば、いやがうえにも期待は高まる。

 まあ、アレだね。『慟哭』とか『アヒルと鴨とコインロッカー』とかと同じで、映像ではできない、小説ならでは騙しテク(しかし、『アヒルと鴨〜』はどうやって映画化したんだ?)。

 今回もすっかり騙された。


「何でもやってやろう屋」を自称する元私立探偵・成瀬将虎は、同じフィットネスクラブに通う愛子から悪質な霊感商法の調査を依頼された。そんな折、自殺を図ろうとしているところを救った麻宮さくらと運命の出会いを果たして―。あらゆるミステリーの賞を総なめにした本作は、必ず二度、三度と読みたくなる究極の徹夜本です。
(「BOOK」データベースより)


 麻宮さくらが何らかの形で霊感商法に絡んでいることは誰でも予感するはずだが、まさかこういうことだとはねぇ。

 しかも、成瀬のトラちゃんや妹の綾乃や成瀬の後輩キヨシが、「お○○」だったなんて・・・(おかまじゃないよ)。

 真相が分かった後はそこに少々違和感があったな。いや、こんな「お○○」がおるかいな?と感じるのは「お○○」差別で、それこそステレオタイプな「お○○」観を自分が抱えていることの証左に過ぎんのだが。

 帯には「あまり詳しくはストーリーを紹介できない作品です。とにかく読んで騙されてください。最後の一文に至るまで、あなたはただひたすら驚き続けることになるでしょう。」とある。

 最後の一文まで驚き続ける・・・てことはなかったが、真相が分かった一瞬、驚いたのは確か。まあまあ、面白かったかな。


 次は『ブラフマンの埋葬』(小川洋子・著/講談社文庫)。
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黄昏の百合の骨


黄昏の百合の骨
著者名:恩田陸(著)
出版社:講談社
出版年:2007.04
ISBN :9784062756945


 『麦の海に沈む果実』という作品がある。全寮制の学校を舞台にした幻想的で緊張感のあるミステリだ。

 恩田陸ファンなら先刻ご承知だが、『麦の海に沈む果実』は『三月は深き紅の淵を』、『黒と茶の幻想』と微妙にリンクしている。どれも独立した話ではあるが『三月』→『麦の海』→『黒と茶』と刊行順に読むのが良いだろう。3つとも好きな作品だ。

 そして『黄昏の百合の骨』である。

 これだけは先行3作品と異なり、完全に『麦の海』の続編。あの学校を出た後の水野理瀬の物語である。当然、期待に胸を膨らませて読んだ。ちなみに巻末の篠田真由美氏の解説通り、独立した作品として読めなくもないが、やはり『麦の海』を先に読んでおくべき。


強烈な百合の匂いに包まれた洋館で祖母が転落死した。奇妙な遺言に導かれてやってきた高校生の理瀬を迎えたのは、優雅に暮らす美貌の叔母二人。因縁に満ちた屋敷で何があったのか。「魔女の家」と呼ばれる由来を探るうち、周囲で毒殺や失踪など不吉な事件が起こる。将来への焦りを感じながら理瀬は―。
(「BOOK」データベースより)


 全編に流れる張り詰めた不穏な空気は、これこそまさに恩田陸氏の真骨頂。1章から4章までお見事。ところが、最終5章の取ってつけたようなエンディングには拍子抜け。

 続編がありそうな終り方だな。


 この後、さらに恩田陸文庫本最近刊・最新刊読破シリーズとして『禁じられた楽園』(徳間文庫)、『まひるの月を追いかけて』(文春文庫)と買い進めるつもりだったが、2作続けて裏切られたので休憩。『葉桜の季節に君を想うということ』(歌野晶午・著/文春文庫)を読む。
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2007年05月17日

Q&A


Q&A
著者名:恩田陸(著)
出版社:幻冬舎
出版年:2007.04
ISBN :9784344409361


 恩田陸は好きな作家の1人で、文庫本のほとんどを読んでいる。単行本が発売されると必ずチェックして、文庫本になるのを楽しみに待っているのだ。

 『Q&A』もしかり。


都下郊外の大型商業施設において重大死傷事故が発生した。死者69名、負傷者116名、未だ原因を特定できず―多数の被害者、目撃者が招喚されるが、ことごとく食い違う証言。防犯ビデオに写っていたのは何か?異臭は?ぬいぐるみを引きずりながら歩く少女の存在は?そもそも、本当に事故なのか?Q&Aだけで進行する著者の真骨頂。
(「BOOK」データベースより)


 ・・・ということだが、全く面白くなかった。初めの数章はどこに行くのか分からないドキドキ感があったのだが、結局どこにも行かなかった。

 今まで読んだ恩田陸作品の中で、最低。

 どころか、これまでの読書生活の中でもワーストを争う作品。

 ナンなのコレは・・・。


 次も恩田陸で『黄昏の百合の骨』(講談社文庫)。
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2007年05月16日

銀河英雄伝説2 野望篇


銀河英雄伝説 2 野望篇
著者名:田中芳樹(著)
出版社:東京創元社
出版年:2007.04
ISBN :9784488725020


 どうやら、正伝だけではなく、外伝もすべて刊行されるらしい。楽しみ。


 中央集権国家・銀河帝国。その宇宙艦隊司令長官・元帥まで上り詰めた「常勝の天才」ラインハルトは、腐敗した旧権力=貴族の実力による排除に乗り出す。

 一方、民主主義国家・自由惑星同盟では、反戦平和主義者や堕落した政治家の排除と秩序の回復、そして銀河帝国打倒のため、一部軍人による首都制圧=クーデターが勃発する。

 実は、このクーデター=内紛は、銀河帝国内の権力闘争に集中するべく、ラインハルトが巧妙に仕掛けたもの。そうとは気付かずに「自らの意思」「自らの崇高な愛国心」による行動だと思い込んでいる軍人たち。民主国家の専制国家への勝利のために民主主義を破壊し、軍事力による専制体制を敷く自己矛盾、その滑稽さ。

 以前から今回のクーデターを予測していた、自由惑星同盟が誇る「不敗の魔術師」ヤン・ウェンリーは、任地イゼルローン基地から首都星ハイネセンへ、自らの艦隊を率いて鎮圧へ向かう。

 最終的には銀河帝国内ではラインハルトが勝利して自らの権力を固め、自由惑星同盟内ではヤンが勝利して民主体制が復活するのだが・・・。

 ラインハルトは、貴族への平民の離反を決定的にするため自らの意に染まぬ作戦を決行したことにより、幼馴染+無二の親友+最高の腹心=キルヒアイスとの間に微妙な距離が生じ、遂には悔やんでも悔やみきれない後悔を背負うことになる。

 ヤンは、大義名分のもと暴走する軍部というものに、自分も軍人であることに、そして美辞麗句を並べる政治家に、改めて辟易することになる。

 歴史小説スタイルで書かれたSF『銀英伝』。

 銀河帝国と自由惑星同盟、その両方に武器を供給して漁夫の利を得つつ、実質的に全宇宙を牛耳ろうとする経済国家フェザーンの三国志。さらに、かつての人類の故郷・地球を復興させて全宇宙の盟主たらんと画策する怪しげな宗教団体「地球教」。

 戦略・戦術。知略・謀略。理想・信念。組織と人間。戦争と平和。

 ラインハルトとヤン。2人の周囲に集まる優秀な人材。魅力的なキャラが多くて楽しいし、読み応えがある。

 あと、身に沁みる、身につまされる印象的なセリフや記述も実に多い。

 例えば“善行をする者はひとりでやりたがり、愚行をおこなう者は仲間をほしがる”とか。確かにそうかも・・・自戒、自戒。

銀河英雄伝説1黎明篇


 次は、『Q&A』(恩田陸・著/幻冬社文庫)。
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2007年05月12日

地球へ…(全3巻)


地球へ… 1
著者名:竹宮惠子(著)
出版社:スクウェア・エニックス
出版年:2007.04
ISBN :9784757520097


 1977年〜80年に連載され、劇場版アニメもヒットしたSF漫画の名作が、今回新たにTVアニメ化されたということで、新装版として登場。

 ちなみに、1980年公開の劇場版アニメも初DVD化(6月21日発売)されるそうだ。キャストは、井上純一、沖雅也、志垣太郎、岸田今日子、薬師丸ひろ子といった当時の人気俳優陣と、古谷徹(アムロ/星矢/星飛雄馬)、神谷明(ケンシロウ/筋肉マン/冴羽リョウ)、増山江威子(峰不仁子/バカボンのママ)、池田昌子(メーテル)、小山茉美(アラレちゃん)といった豪華声優陣。

 それはさておき、20年以上ぶりの再読。多分、前回は原作を最後まで読まなかったような気がする。劇場版アニメも観てない。


人口増加により疲弊した地球(テラ)。堕落した自分達の存在こそ地球環境悪化の元凶と判断した人類は全員他の星へ移住、人類の行く末をコンピュータ『マザー・イライザ』に委ねた。現在ではマザー・イライザの管理監督・教育指導の下、優秀な地球人類を新たに産み出すため、人工授精による生殖管理と血縁関係のない優秀な養父母による養育を行っている。

教育育成都市で育てられた子供達は、14歳でコンピュータによる「成人検査」を受け、それまでの記憶を消去される。その後、新たに大人として生きるための再教育を受け、能力・適性に応じてエリートから普通人まで振り分けられ、各自に相応しいとされる職業に就く。地球での居住・就職が認められるのは、一部の人間だけである。

ところが、「成人検査」=「コンピュータの思念波による洗脳」を受け付けない人間が時々現われる。自らの思念波でコンピュータに対抗し、洗脳を拒否する彼等は新人類『ミュウ』として差別され、その思念波エネルギー=『超能力』を恐れた「旧」人類とマザー・イライザは、「ESP検査」によりミュウとなる可能性のある子供を摘発・処分していた。

14歳の元気な少年ジョミーは成人検査の日、ミュウの長ソルジャー・ブルーの呼びかけにより洗脳を拒否。ブルー達の手引きにより、教育育成都市を脱出し、地下深く潜伏していたミュウたちに合流する。超能力と長寿と引き換えに、不完全な肉体と繊細すぎる心を持つミュウ。しかし、ジョミーこそは健康な肉体と心を兼ね備えた、新しいミュウだとブルーは言う。

旧人類でもなく、これまでのミュウとも違うジョミーは、旧人類から敵視され、ミュウの一部からも反発されながらも寿命の尽きたソルジャー・ブルーの後を継ぎ、ミュウの存在を旧人類に認めさせ、地球へ降り立つため闘いに挑む・・・。


 いわゆる完全懲悪のヒロイック・ファンタジーとは、趣を異にする作品。自分らしく・人間らしく生きるとは、異文化を受け入れるとはどういうことか、ということが描かれていると思う。

 1巻約330ページで通常のコミックスの2倍ぐらいの厚さだが、わずかに全3巻。それなのに普通の漫画と比べて読むのにかなり時間がかかった。1巻あたり2時間以上。とても濃密な作品なのだ。

 著者自身の言葉通り、もっと丁寧に説明しつつ進行すれば完結まで20巻は必要なドラマだろう。そのせいか最終の第3巻はちょっと急ぎ足で、分かりにくいという恨みは残る。

 でも、面白さと読み応えは太鼓判。


 で、次はSFつながり(?)で『銀河英雄伝説2』(田中芳樹・著/創元SF文庫)。
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2007年05月11日

飛ぶ教室


飛ぶ教室
著者名:ケストナー(著)
     丘沢静也(訳)
出版社:光文社
出版年:2006.09
ISBN :9784334751050


 『飛ぶ教室』といえば、児童文学。

 もっと(良くない意味で)子供向けの作品だと思っていた。幼い頃、読んだような気もするのだが記憶は曖昧である。

 とにかく、今回読んでみてこんなに素敵な小説だったのか!と目からウロコの大感銘。


孤独なジョニー、弱虫のウーリ、読書家ゼバスティアン、正義感の強いマルティン、いつも腹をすかせている腕っぷしの強いマティアス。同じ寄宿舎で生活する5人の少年が友情を育み、信頼を学び、大人たちに見守られながら成長していく感動的な物語。ドイツの国民作家ケストナーの代表作。
(「BOOK」データベースより)


 5人の少年達の個性豊かな腕白ぶりがキラキラで、愛おしい。そして、寄宿舎の舎監を務める「正義さん」ことベーク先生、列車の禁煙車両を自宅にしている「禁煙さん」といった大人たちも素敵だ。もし、子供の頃、こんな大人に接することができたら、その子供はとても幸運だし、素敵な大人になれるだろう。

 読んでいる間中、思わず吹き出しそうになったり、目が潤んだり。幸福な読書だった。1933年の作品だが、古典とは呼びたくないほどの瑞々しさ!


 次は『地球へ…』(竹宮恵子・著/スクウェア・エニックス)。
posted by ふくちゃん at 01:02| Comment(2) | TrackBack(2) | 古典的名作

2007年05月10日

静かな黄昏の国


静かな黄昏の国
著者名:篠田節子(著)
出版社:角川書店
出版年:2007.03
ISBN :9784041959053


 タイトルと裏表紙の内容紹介文(下記参照)に惹かれて購入。篠田節子氏は初読み。よく篠田真由美氏(まだ読んだことない)と混同してしまうのだが・・・。


環境破壊と貧窮のうちにゆっくりと滅びつつある近未来の日本。老夫婦が辿りついた理想の“終の棲家”とは(表題作)。現在・過去・未来にわたり、すべての生きとし生けるものに等しくやってくる終末の風景を、時に叙情的に、時に黒い笑いを交えて直木賞作家は描き出す。もしかしたらそれは、明日のあなたのことかもしれない ― 甘美な破滅と残酷な救済が織りなす、8つのものがたり。
(「BOOK」データベースより)


 で、最初の2編を読んだ時は、「こりゃ外したな」と思った。特に巻頭の『リトル・マーメイド』はその気持ち悪さに不愉快ですらあった(笑)。

 ま、その後は持ち直し、なかなか面白かった。

 ・・・でも。

 SFチックなもの、ホラーっぽいもの、幻想譚・・・どの作品にも既視感が付き纏う。無論のこと、完全にオリジナルな作品など滅多にあるものではないと思うのだが、それでも程度問題だ。

 残酷さも怖さも不気味さも不条理性も、例えば乙一氏や津原泰水氏などの方がはるかに上。そう思ってみると、ひたすら嫌悪感を催した『リトル・マーメイド』が最も強烈でマルかも(決して好きな作品ではないが)。


 続いて『飛ぶ教室』(ケストナー・著/光文社古典新訳文庫)。
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2007年05月06日

幻夜


幻夜
著者名:東野圭吾(著)
出版社:集英社
出版年:2004.01
ISBN :9784087746686


 続いて『幻夜』。

 「ストレートな続編を書いてもしゃーない」みたいなことを東野氏が言ってたような、言ってなかったような。

 確かに『白夜行』を読んでいなくても楽しめる作品になっている。だが、『白夜行』を読んでおく方がより楽しめる。

 どこにも明確に書かれていないが、ここに登場する新海美冬という女性は、明らかに『白夜行』の雪穂である(と思うことにする)。

 最初は亮司を失った雪穂=美冬が新たなパートナー水原雅也と組んだだけで、『白夜行』と同じ話やなぁと思いながら読んでいた。

 だが、『白夜行』では彼女よりも亮司の方が直接的に犯罪に手を染めるシーンが多く、雪穂=美冬はその向こうに隠れているようであったのに対して、『幻夜』では美冬=雪穂が完全に主導権を握って、周りの人間を踏み台にしながらのし上がっていく。その彼女の美しい顔に隠された「より完璧な人生」を生きようとする執念、常軌を逸した凄まじいまでの「渇き」に圧倒される。

 その凄みは、我々読者が『白夜行』において彼女の幼少期から大人になるまでを見てきたことによって倍加されるのだ。そして、不思議なことに、これほどの悪女に対して恐怖すると同時に哀感も禁じえないのである。

 世評では『幻夜』よりも『白夜行』の方が上みたいだけど、僕は『幻夜』の方が好きだ。でもそれも『白夜行』があったればこそなので、2つで1つの作品というべきか。

 さらに続編が書かれるという噂もあるようだが、美冬=雪穂がどこまで行き着くのか読んでみたい気がする。また、雪穂が亮司を失い、美冬となるまでの物語も読んでみたいものだ。
posted by ふくちゃん at 22:07| Comment(0) | TrackBack(1) | ミステリ

白夜行


白夜行
著者名:東野圭吾(著)
出版社:集英社
出版年:1999.08
ISBN :9784087744002


 『静かな黄昏の国』は途中でいったん脇に置いて、帰省した実家で『白夜行』とその続編『幻夜』を読んだ。

 まず、『白夜行』から。

 こちらは単行本が出たときに買って読んだので、今回は再読である。

 そもそも『幻夜』の文庫版が先日出版された際に、『白夜行』の文庫版と一緒に買って読もうと考えたのだが各1,000円と高いし、実家に両方とも単行本があったのを思い出したのだ。

 『白夜行』の単行本はさっきも書いたとおり、かつて自分が買ったもの。『幻夜』の単行本は妹が買ったものだ。

 『白夜行』は『このミス2000年版』の国内編第2位。しかし、読んだ後、自分の手元に置かずにいたこと、『幻夜』の単行本を自分で買わなかったことからすると、初読時の評価は「まあまあ」といったところだったのだろう。

 今回再読してみても、正直その印象は変わらなかった。

 よく書けてるとは思う。特に、主人公の雪穂と亮司の内面描写が全くないのに、2人の中にある魔性や虚無感のようなものがヒシヒシ伝わってくるのはさすが。

 だが、2人の恐ろしい共生関係 ― お互いだけを信じ、それ以外の人間は全て敵もしくは弱みを握って利用する道具でしかなく、お互いの繋がりを決して悟られないように影から助け合いながら、裏で罪を重ね、表では成功の階段を上って行く ― に、もうひとつリアリティを感じないというか、「出来すぎ」という感じがしてしまうのだ。

 技巧的に過ぎるかなぁ。
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2007年05月03日

精霊の守り人


精霊の守り人
著者名:上橋菜穂子(著)
出版社:新潮社
出版年:2007.03
ISBN :9784101302720


 今回の新潮文庫版は大人向けに漢字の量などを増やしてあるそうだが、元々は児童文学。上橋氏の作品は『狐笛のかなた』を単行本で読んだのが初めてで、他の作品も文庫になったら読みたいと思っていた。


 ゆえあって、亡き武術の師ジグロと幼い頃から放浪しつつ腕を磨き、今は用心棒としての稼ぎで生きる30歳の女性、バルサ。偶然、新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムが牛車から川に転落する場面に遭遇して助け出したことから、チャグムの母・ニノ妃から皇子を護って欲しいと懇願される。川に落ちたのは事故ではなく、これまでにも何度か危ない目にあっているというのだ。

 ニの妃の話によると、星の運行から全てを読み解く星読博士のガカイがチャグムの体に得体の知れないものが宿っていることに気付き、そのようなモノに宿られた人間が神の子たる帝の子孫であるはずがなく、威信を護るため帝自らが暗殺を命じているらしい。

 チャグムを連れて逃げるバルサ。秘密を知ったバルサを殺し、皇子を奪い返すために放たれた追手「狩人」たち。

 チャグムの体に産み付けられたものは、かつて新ヨゴ皇国の開祖トルガル帝が倒したはずの水妖なのか?その正体と意味するところを探る薬草師のタンダ(バルサの幼馴染)と師匠の呪術師トロガイ、そして星読博士のシュガ。

 どうやら、新ヨゴ皇国創世の神話とこの地の先住民ヤクーの伝承にカギがあり、事はチャグムの命はもちろん、新ヨゴ皇国全体の危機にも繋がっている。

 やがて辿り着く真実。バルサ、タンダ、トロガイ、シュガ、狩人たちは、チャグムと新ヨゴ皇国を救えるか ― 。


 エンデの『モモ』や『ネバー・エンディング・ストーリー』、ル・グウィンの『ゲド戦記』のような深遠な哲学や思想ではなく、エンタテインメント寄りの作品。チャグムという少年と成長物語(としては弱いか)としても読める。

 なかなか面白かった。日本ならではの世界観・舞台設定の異世界ファンタジー。『ハリポタ』よりはよっぽど優れてる。

“なぜ、と問うてもわからないなにかが、突然、自分をとりまく世界を変えてしまう。それでも、その変わってしまった世界の中で、もがきながら、必死に生きていくしかないのだ。だれしもが、自分らしい、もがき方で生きぬいていく。まったく後悔のない生き方など、きっと、ありはしないのだ。”


 次は『静かな黄昏の国』(篠田節子・著/角川文庫)。
posted by ふくちゃん at 14:59| Comment(0) | TrackBack(3) | 児童文学

2007年05月02日

水滸伝・七 烈火の章


水滸伝 7
著者名:北方謙三(著)
出版社:集英社
出版年:2007.04
ISBN :9784087461442


 北方水滸伝の第7巻。

 先が気になって気になって、これまた1日で読み終わった。

 聞煥章(ぶんかんしょう)の登場によって、更に強力になった宋国のウラの支配組織・青蓮寺。惰眠を貪っていたオモテの組織=官軍さえも大量かつ迅速に動かす体制を整えつつ、宋江と従者の計5人を大軍で包囲。

 ところが、宋江たちはこれを知略で凌ぎ切る。物語だから・・・って、それを言っちゃあオシマイ。どんな時でも泰然自若とした宋江。それぞれの優れた能力や武術を活かして彼を守り抜く武松(ぶしょう)、李逵(りき)、陶宗旺(とうそうおう)、欧鵬(おうほう)の天晴れな闘い振り。

 そして、ようやく救援に駆けつけた雷横(らいおう)と朱仝(しゅどう)の軍、林冲(りんちゅう)の騎馬隊、ゲリラ戦部隊の飛竜軍。

 武松や李逵が死なずに済んだのは良かったが、○○が命を落とす。ここまで際立った活躍の無かったキャラだから、正直それほど思い入れのある存在でもなく、受ける衝撃は△△(マメリさんに配慮してまだ伏せ字)の死ほど大きくはないのだが、この鮮やかな散り際。「漢(おとこ)」だねぇ。

 虎口を逃れた宋江は、ついに梁山泊に入った。

 また、魯達の謀(はかりごと)により、新たに宋の有能な(それゆえ中央からは疎まれている)地方軍の将軍や将校が梁山泊の仲間に加わりそうである。魯達と彼等の腹の探り合いが面白い。腹の探り合いといっても、その「駆け引き」は爽やかですらある。

 一方、青蓮寺の聞煥章と李富は、梁山泊陣営(梁山泊・双頭山・二竜山・清風山・桃花山)の中心地=要衝ともいえる位置にある3つの荘(大きな村)に2万5千人の兵を埋伏させ、梁山泊本隊を壊滅させるべく罠を張る。

 青蓮寺+官軍と梁山泊の智謀の限りを尽くした新たな戦が次巻は見られそうである。

 待ち遠しいなぁ〜。

水滸伝・一 曙光の章
水滸伝・二 替天の章
水滸伝・三 輪舞の章
水滸伝・四 道蛇の章
水滸伝・五 玄武の章
水滸伝・六 風塵の章


 次は『精霊の守り人』(上橋菜穂子・著/新潮文庫)。
posted by ふくちゃん at 00:24| Comment(4) | TrackBack(2) | 歴史・時代小説