| 男は旗 |
 | 著者名:稲見一良(著) 出版社:光文社 出版年:2007.03 ISBN :9784334742188 |
「海洋冒険小説」ではあるが、リアリズム小説ではないので、「ファンタジー」にカテゴライズした。これは「大人のための童話」である。
「童話」ではあるが、「寓意」や「教訓」はない。荒唐無稽ともいえる活劇をただ理屈抜きで愉しめば良いのだ。
かつて“七つの海の白い女王”と歌われたシリウス号。客船としての使命を終え、今は船上ホテルとして第二の人生を送っていた。ところが経営難から悪徳企業に買収される羽目に。しかしひと癖もふた癖もあるクルーたちが納得するはずがない。やがて謎の古地図に示された黄金のありかを捜し求めて、ふたたび大海原へと出航。爽快かつファンタジックな冒険譚。
(「BOOK」データベースより)
あの知る人ぞ知る名作『ダック・コール』(91年:山本周五郎賞/92年:このミステリーがすごい国内編第3位)の稲見氏の復刊作品。
一読して「こんな小説も書くんだぁ」という意外感、「らしいなぁ」という納得感、相反する印象を同時に得た。いずれにせよ、この人の作品は、お洒落で夢があって、ちょっとハードボイルド・タッチで、ユーモアと品がある。
稲見氏のデビュー作は、89年の『ダブルオー・バック』(絶版/『男は旗』巻末の解説によると、原型となる作品は68年に小説誌に掲載されたそうだ)。
その後、
90年…『ソー・ザップ!』(絶版)
91年…『ダックコール』(94年にハヤカワ文庫で復刊)
93年…『セント・メリーのリボン』(06年に光文社文庫で復刊)
94年…『男は旗』、
『猟犬探偵』(06年に光文社文庫で復刊)、『花見川のハック』(絶版)
を上梓するが、94年に病気で他界。誠に惜しまれる。
『ダック・コール』は今でも時々読み返すほど気に入ってるが、その後復刊される度に読んだ『セント・メリーのリボン』、『猟犬探偵』も良かったので、そろそろハズレが来るのでは・・・と思いながら『男は旗』を読んだが(←根拠なし)、杞憂だった。
ま、正直先に読んだ3作品に比べると多少落ちると思うが、それは3作品のレベルが高すぎるということ。
『男は旗』を批判する人は、「人物が描けてない」なんて言うんだろうな。
今の小説は人物のディテールをやたらに書き込むことを良しとする風潮があるように思うが、本当にそれがリアリティというものなのか?
例えば、僕は宮部みゆき氏が好きなのだが、『理由』や『模倣犯』はそういう意味でもうひとつ感心できなかった。冗長に過ぎると思うのだ。どれだけ書き込んでも複数の人物の人となりや、人生の全てを書き尽くすことはできない。ストーリーに直接関係しない情報は刈り込んで、それでもキャラクターが浮かび上がってくる、読者の想像に委ねる・・・というのが小説ではないか?
・・・なんて偉そうなことは、この辺で。
話が逸れた。
この作品の中に、「わたしが書きたいと思うのは、ハルヲ・サトーのいう“根も葉もない嘘八百”だ。物語の中の男や女と一緒になって、ワクワクドキドキする小説だ」というセリフがある。稲見氏ご本人の小説観なんだろう。
次は『村上かるた うさぎおいしーフランス人』(村上春樹+安西水丸・著/文藝春秋)。