2007年04月30日

ゆらぎの森のシエラ


ゆらぎの森のシエラ
著者名:菅浩江(著)
出版社:東京創元社
出版年:2007.03
ISBN :9784488724016


 かの名作SF『永遠の森 博物館惑星』の著者・菅浩江氏の処女長編の復刊。

 バイオSFの衣を纏ったファンタジー。あるいはファンタジーの衣を纏ったバイオSF。

 ま、どっちでもよい。

 理系人間でもなくても、すいすい読めるSFファンタジー。


塩の霧で立ち枯れした木々と、狂暴化した動植物に囲まれた地、キヌーヌ。創造主パナードの手で最強の異形へと変えられ、殺人を強制されていた青年・金目は、彼を騎士と呼び慕う少女シエラと出会ったことで自我を取り戻す。主への復讐のため、異形のものたちに戦いを挑む金目。しかしシエラに内在する、進化に繋がる世界の秘密が、二人を想像もし得ない運命に導こうとしていた。
(「BOOK」データベースより)


 この作品の壮大とも言えるキモの部分については、ネタバレになりそうなので説明を控えるが、解説でも触れられているとおり、1989年発表の作品でありながら、あの一世を風靡した『利己的な遺伝子』論の先駆けのようなヴィジョン。

 結末にはSFらしい論理的帰結は感じられないが、ファンタジーでもあると思えば何の問題もない。

 もの凄い作品!とは言わないが、なかなかの佳作である。


 次は、『水滸伝・七 烈火の章』(北方謙三・著/集英社文庫)。
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2007年04月29日

砂の城の殺人


砂の城の殺人
著者名:谷原秋桜子(著)
出版社:東京創元社
出版年:2007.03
ISBN :9784488466039


 休筆状態だったという谷原秋桜子氏の『天使が開けた密室』『龍の館の秘密』が創元推理文庫から復刊されて3ヵ月。復活の新作が『砂の城の殺人』。

 第2作の最初の発売が2001年だから、6年の歳月を越えてのシリーズ再開である。


行方不明の父親を探すため、倉西美波はアルバイトに励んでいる。冬休み目前、今度は廃墟専用カメラマンの撮影助手を務めることになった。しかし、向かった先でミイラ化した死体を発見!しかもそれが、長年行方が知れなかった雇い主の母親だというから…。この発見を契機に、崩れ落ちそうなその廃墟で、次々と人が死んでいく。著者渾身のシリーズ第三弾。
(「BOOK」データベースより)


 う〜ん。

 3作続けての密室モノ。しかも、今回は王道の嵐で孤立する山荘モノである。その意欲は買えるが・・・。

 前2作に比べるとちょっと楽しめなかった。

 頑張り屋だが弱虫・泣き虫の女子高校生・美波に、陸上部のエースで警視庁刑事の父を持つ江戸っ子気質の美少女・直海(美波の親友1号)、ありえないほどの大金持ちの娘で各界への人脈を持つ超お嬢様・かのこ(親友2号)、美波の隣に住む大学生で探偵役の修矢。

 この4人のそれぞれのキャラと絡みが面白いところだ思うのだが、今回はストーリー展開上、かのこと修矢の出番はほとんど無し。美波と直海だけではバランスが良くなかった。

 明かされる真相も現実味がないというか、それほど魅力的には思えなかった。

 残念。

 今作では、海外で行方不明・音信不通となったカメラマンの父の所在探求に具体的な光明が。次作以降では新たな展開もあるかも、である。


 次は『ゆらぎの森のシエラ』(菅浩江・著/創元SF文庫)。
posted by ふくちゃん at 21:02| Comment(0) | TrackBack(0) | ミステリ

2007年04月25日

猿曳遁兵衛 重蔵始末3


猿曳遁兵衛
著者名:逢坂剛(著)
出版社:講談社
出版年:2007.03
ISBN :9784062756679


 火付盗賊改方といえば、池波正太郎氏の『鬼平犯科帳』とその主役=火盗改長官・長谷川平蔵(実在の人物)が有名だが、この作品の主人公・近藤重蔵も火盗改の与力(そこそこ偉い人)。平蔵と同時代の実在の人物である。

 しかし、平蔵とは違う組の人なので、当作品には平蔵は名前ぐらいしか登場しない。

 組が違うというのは、北町奉行とか南町奉行は各1名しかいないわけで、北町奉行が同時に2名、南町奉行が同時に2名存在するということはないのだが、火盗改は本役だけでなく加役(臨時職)というのがあって、長官を筆頭とする組織が同時に2つ、つまり長官も2人同時に別々の場所に存在したりするのである。


寛政の江戸を跋扈する悪党どもに立ち向かう、若き火盗改・近藤重蔵。猿遣い名人、お高祖頭巾の大年増、鍵言葉に突っ転がし、さらに、重蔵なじみの飯屋に因縁の謀が。世を騒がせる怪事件を、冴え渡る推理で解決する。そして、重蔵の身辺に忍び寄る女の影…。痛快無比、大評判の傑作時代小説シリーズ第三作。
<目次>
第1話 突っ転がし
第2話 鶴殺し
第3話 猿曳遁兵衛
第4話 盤石の無念
第5話 簪
(「BOOK」データベースより)


 でかい図体と優れた頭脳。武器とする鞭の腕の冴え。傲岸不遜とも言えるほど率直な物言いと強い押し出し。重蔵は、一歩間違えば嫌なキャラになりかねないが、そのギリギリ手前で踏み留まって、豪快な傑物という感じ。年齢が上というだけで年下より偉いと思っている人間、世渡り上手なだけの人間には、不倶戴天の敵キャラである。

 だが、表面的ではない、表面には出そうとしない優しさがあるからこそ、部下達は信頼して共に頑張るわけだし、馴染みの店<はりま>の夫婦も彼を慕う。

 いわゆる「捕物帳」と呼ばれる小説には、犯罪・犯人を暴く過程よりも、江戸の風情や人情を描くことに重点が置かれている作品が多いけど(それはそれで大好き)、このシリーズはミステリ要素が強くて、そこが魅力になっている。

 密室とかトリックとか、嵐の山荘とかは出てこないが・・・(笑)。筋運びは本当に上手い。

 この第3巻では、第2巻で取り逃がした美貌の女盗賊おりよが、チラホラ登場して事件を起こし、重蔵たちはあと一歩でいつも捕縛できない。そして、ラストはちょっと衝撃。ミステリとしての衝撃じゃなくて、重蔵の恋人が○○してしまうことが。重蔵、気の毒。だが、重蔵とおりよの対決が加速していくことになりそうで、続きが楽しみだ。


 次は、『砂の城の殺人』(谷原秋桜子・著/創元推理文庫)。
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2007年04月20日

バビロニア・ウェーブ


バビロニア・ウェーブ
著者名:堀晃(著)
出版社:東京創元社
出版年:2007.02
ISBN :9784488722012


 1989年の星雲賞受賞作の初文庫化。そいうや『銀英伝』も星雲賞。


太陽系から3光日の距離に発見された、銀河面を垂直に貫く直径1200キロ、全長5380光年に及ぶレーザー光束―バビロニア・ウェーブ。いつから、なぜ存在するのかはわからない。ただ、そこに反射鏡を45度角で差し入れれば人類は膨大なエネルギーを手中にできる。傍らに送電基地が建造されたが、そこでは極秘の計画が進行していた。日本ハードSFを代表する傑作。星雲賞受賞。
(「BOOK」データベースより)


 ・・・ド文系アタマでは付いていけんかった・・・。

 無念。

 ところで、先日新潮文庫の新刊『青雲はるかに』(宮城谷昌光・著)を上下巻セットで買ったら、昔読んだことある本だった。復刊というか、版元変更なのね・・・(元は集英社文庫)。時々こういうことがある。注意しないと(泣)。

 
 気を取り直して、『猿曳遁兵衛 重蔵始末3』(逢坂剛・著/講談社文庫)を読もう。
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2007年04月18日

村上かるた うさぎおいしーフランス人


村上かるたうさぎおいしーフランス人
著者名:村上春樹(著)
     安西水丸(画)
出版社:文藝春秋
出版年:2007.03
ISBN :9784163689401


 「バカ本」とカテゴライズしようかと考えたけど、思いとどまった。

 好き嫌いは別として(僕は好きだ)、同時代を生きる世界的な日本人作家ということは誰もが認めるであろう村上春樹氏。

 そんな春樹氏のもうひとつの顔が「脱力企画系(?)作家」。

 今回も人生には全く役に立たない、人によっては金返せ!時間返せ!とマジで怒っちゃいそうな『脳減る賞』(copyright by Haruki Murakami)モノのおバカ作品集(僕は好きだ)。

 意味のないフレーズ満載の「村上かるた」。


私、フランス人。日本のことよくわかりませんが、村上かるたは山猫ルンバですよ。はい、うさぎ丼におしんこつけてください。
(「BOOK」データベースより)


 ほら、内容紹介からして無意味(笑)。

 登場するかるたフレーズは、例えば

あ:あしか、浜辺をさまよえば
お:大タコに道を教えられてしまった
ち:知恵の輪ブラジャーにはお手上げ
ち:チルチルミチルは見る見る散った
に:ニラレバの世界にタラレバはない
ね:猫にジェームズコバーン、豚に牧伸二
ま:まったく不幸中のわいわいだった
り:理由なきはんこは押すな
れ:レノンに腕押し、ラブ・アンド・ピース

などなど。

 ・・・・。

 で、全てのかるたには、春樹氏による短い物語(というか散文)と安西水丸画伯によるヘタウマなイラストやら4コマ漫画がついている。

 読んでいると、なんだか色々真剣に悩んでいる行為そのものがちっぽけに思えてきたりして・・・。


 今は『バビロニア・ウェーブ』(堀晃・著/創元SF文庫)を読んでいる最中。
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2007年04月16日

男は旗


男は旗
著者名:稲見一良(著)
出版社:光文社
出版年:2007.03
ISBN :9784334742188


 「海洋冒険小説」ではあるが、リアリズム小説ではないので、「ファンタジー」にカテゴライズした。これは「大人のための童話」である。

 「童話」ではあるが、「寓意」や「教訓」はない。荒唐無稽ともいえる活劇をただ理屈抜きで愉しめば良いのだ。


かつて“七つの海の白い女王”と歌われたシリウス号。客船としての使命を終え、今は船上ホテルとして第二の人生を送っていた。ところが経営難から悪徳企業に買収される羽目に。しかしひと癖もふた癖もあるクルーたちが納得するはずがない。やがて謎の古地図に示された黄金のありかを捜し求めて、ふたたび大海原へと出航。爽快かつファンタジックな冒険譚。
(「BOOK」データベースより)


 あの知る人ぞ知る名作『ダック・コール』(91年:山本周五郎賞/92年:このミステリーがすごい国内編第3位)の稲見氏の復刊作品。

 一読して「こんな小説も書くんだぁ」という意外感、「らしいなぁ」という納得感、相反する印象を同時に得た。いずれにせよ、この人の作品は、お洒落で夢があって、ちょっとハードボイルド・タッチで、ユーモアと品がある。


 稲見氏のデビュー作は、89年の『ダブルオー・バック』(絶版/『男は旗』巻末の解説によると、原型となる作品は68年に小説誌に掲載されたそうだ)。

 その後、

90年…『ソー・ザップ!』(絶版)
91年…『ダックコール』(94年にハヤカワ文庫で復刊)
93年…『セント・メリーのリボン』(06年に光文社文庫で復刊)
94年…『男は旗』、『猟犬探偵』(06年に光文社文庫で復刊)、『花見川のハック』(絶版)

を上梓するが、94年に病気で他界。誠に惜しまれる。


 『ダック・コール』は今でも時々読み返すほど気に入ってるが、その後復刊される度に読んだ『セント・メリーのリボン』、『猟犬探偵』も良かったので、そろそろハズレが来るのでは・・・と思いながら『男は旗』を読んだが(←根拠なし)、杞憂だった。

 ま、正直先に読んだ3作品に比べると多少落ちると思うが、それは3作品のレベルが高すぎるということ。

 『男は旗』を批判する人は、「人物が描けてない」なんて言うんだろうな。

 今の小説は人物のディテールをやたらに書き込むことを良しとする風潮があるように思うが、本当にそれがリアリティというものなのか?

 例えば、僕は宮部みゆき氏が好きなのだが、『理由』や『模倣犯』はそういう意味でもうひとつ感心できなかった。冗長に過ぎると思うのだ。どれだけ書き込んでも複数の人物の人となりや、人生の全てを書き尽くすことはできない。ストーリーに直接関係しない情報は刈り込んで、それでもキャラクターが浮かび上がってくる、読者の想像に委ねる・・・というのが小説ではないか?

 ・・・なんて偉そうなことは、この辺で。

 話が逸れた。

 この作品の中に、「わたしが書きたいと思うのは、ハルヲ・サトーのいう“根も葉もない嘘八百”だ。物語の中の男や女と一緒になって、ワクワクドキドキする小説だ」というセリフがある。稲見氏ご本人の小説観なんだろう。

 次は『村上かるた うさぎおいしーフランス人』(村上春樹+安西水丸・著/文藝春秋)。
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2007年04月14日

十三歳の仲人 御宿かわせみ32


十三歳の仲人
著者名:平岩弓枝(著)
出版社:文藝春秋
出版年:2007.04
ISBN :9784167710057


 江戸の人情捕物帖、人気シリーズの文庫最新刊(連載は、もう明治時代編)。


 亡くなった同心の父と共にかつては八丁堀に住んでいたが、今は大川端の旅籠「かわせみ」の女主人、『るい』。

 るいの八丁堀時代の幼馴染であり、シリーズ途中までは恋人で、今は結婚して旦那となった、吟味方与力の家系の次男坊で軍艦操練所勤務、二枚目で、剣の達人で、優しくさわやかで、老若男女にモテモテの『神林東吾』。

 るいの父の元部下で「かわせみ」の番頭、目だった活躍はないけど、いぶし銀の『嘉助』。

 やはり八丁堀時代からのるいの家の奉公人、おしゃべりで、噂好きで、世話焼きで、よくも悪くも典型的オバハン・キャラ、(でも憎めない)「かわせみ」の女中頭『お吉』。

 るいと東吾の幼馴染、実直で有能な八丁堀の同心『畝源三郎』。その忠実な手下で、東吾に心酔している、岡っ引きの『長助』や『仙五郎』。

 東吾と並ぶ2枚目レギュラー・キャラ、医師の『麻生宗太郎』。

 そのほか、長寿シリーズなので、とにかくレギュラー多数。

 詳しくは、こちらのファンサイト『御宿かわせみの世界』をご参照あれ。


 登場人物は多いのに、それぞれのキャラがよく書き分けられている。第1巻からずっと読んでいる身にとっては、最新刊を読むたびに懐かしい旧友たちに出会うようなもの。再会すると、なんだか嬉しくなる。

 基本は一話完結の連作短編ではあるが、今回の巻は、第25巻から「かわせみ」の女中として登場した『お石』 ― 最初は力だけはあるが「山出しのエテ公」扱いされるほど、ありとあらゆる面で田舎モノ。今では美しい都会の女性になり、仕事もできて、人柄は初めの頃同様に実直 ― の縁談がらみの話が中心である。

 よかったね、お石ちゃん。

 しかし、江戸を舞台にした良い時代小説を読むと、江戸に住んでみたいと思っちゃうなぁ。うん。案外そんな気持ちから『金春屋ゴメス』という小説が生まれたのかも(文庫になったら読もう)。

 ところで、現実の世界にも『御宿かわせみ』が存在。

 ひとつは福島県の『御宿かわせみ』、もうひとつは北海道の『御宿かわせみ』


 はい、お次は『男は旗』(稲見一良・著/光文社文庫)。
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2007年04月11日

蹴りたい背中


蹴りたい背中
著者名:綿矢りさ(著)
出版社:河出書房新社
出版年:2007.04
ISBN :9784309408415


 楽しくて心温まる素敵な思い出はいっぱいあるし、「青春だったなぁ」だし、今でも仲良く酒を酌み交わす一生の友人も得たし、思春期ってのは本当に貴重な宝石のような時間だったと思う。

 でも、もう1回あの頃に戻りたいか?とか、永遠にその時間が続いて欲しかったか?と聞かれると、断然NO!である。

 自分や自分の日常を、退屈で平凡だなんて認めたくない時代。

 実は大して面白くもないことを大声で話し、笑い合い、はしゃいでいた時代。

 「あいつ、ノリわる〜」と除け者にされることを恐れていた時代。

 過剰な自意識と息苦しい同調圧力。

 この小説を読んでいたら、そんな思春期の負のイメージを思い出した。

 通り過ぎたからこその甘美な思い出。一度で十分だ。


“この、もの哀しく丸まった、無防備な背中を蹴りたい”長谷川初実は、陸上部の高校1年生。ある日、オリチャンというモデルの熱狂的ファンであるにな川から、彼の部屋に招待されるが…クラスの余り者同士の奇妙な関係を描き、文学史上の事件となった127万部のベストセラー。史上最年少19歳での芥川賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)


 思春期特有の人間関係に疲れて、高校入学以後、孤独に身を置く「私」こと長谷川初美。でも、内心は他のクラスメイトと仲良しグループを組んでしまった中学時代の親友にさえ距離を置かれてドキドキ。孤独を満喫するどころじゃない。

 同じくクラスで浮いている、ちょっと陰気な感じの男子、にな川。彼の生きる証はオリチャン(オリビアという名前のモデル)に熱中することだけで、自分が「余り者」であることなんか意に介さない。

 にな川が「私」に関心を持ったのも、たまたま「私」が中学時代に生のオリチャンと偶然出会い、言葉を交わしたことがあるから、というだけ。

 低体温の2人。およそ青春らしくない世界を呼吸する2人。恋愛でも友情でもない関係。でも、なぜか繋がる2人。なぜか「私」の中に度々沸き起こる、にな川の背中を蹴りたいという切なる衝動、というか欲望(欲情?)。


 しかし、この若さでなぁ・・・。

 『インストール』もそうだったけど、地味で爽やかともいえない小説なのに、なんだこの瑞々しさは?

 一見、今の若い人風の口調も交えた(←おっさんコメント)ライトな文章なのに、その実は選び抜かれた言葉たち(もし、これが無造作に書かれた文章だとしたら、それはそれで凄いこと)。

 ほとほと感心した。

 話題の新作『夢を与える』も早く文庫になってほしい。そして、ゆっくり着実に書き続けてほしいものだ。


 で、次は超ベテランの味『十三歳の仲人 御宿かわせみ32』(平岩弓枝・著/文春文庫)。
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2007年04月10日

バッテリー6


バッテリー 6
著者名:あさのあつこ(著)
出版社:角川書店
出版年:2007.04
ISBN :9784043721061


 単純に児童文学とは呼びたくないが、元々は児童文学として刊行された作品なので、その通りカテゴライズ。

 最近、続編にあたる『ラスト・イニング』(読まなくっちゃ)が出版されたが、一応シリーズ最終巻である。

 絶対的な剛速球。誰にも迎合しない心。己を信じ切る力。マウンドで投げるためだけに生まれてきたような天才ピッチャー・原田巧。

 巧のボールに惚れ込み、巧の凄さを誰よりも信じ、彼の信頼を勝ち取ったキャッチャー・永倉豪。

 「超中学級」の1年生バッテリーを擁する新田東中学だが、第3巻終わりから第4巻初めにかけて行われた、同じ県の代表で全国大会準優勝の強豪・横手第二中学との練習試合ではなぜか(その理由は自分で読んで!)自滅してしまう。しかも、天才4番打者の門脇を完璧に抑えたその直後に・・・。

 第4巻・第5巻では敗戦をきっかけに巧と豪のそれぞれの気持ちが揺らぎ、関係が揺らぎ、再試合までの時間の中で2人は変化していく(そう、「成長」というより「変化」という言葉がふさわしい)。

 そして、第6巻では遂に試合に突入かと思いきや・・・。

 巧と豪を、その結び付きの強さゆえに心配する新田東の前キャプテン・海音寺。

 高校進学後のことより、巧との再対決にのめり込む門脇。

 門脇の幼馴染で横手二中のキープレーヤー、どこか軽薄にも見えるのに、巧たちと関わりあってからというもの、門脇や海音寺、自分への苛立ちを抱える瑞垣。

 予定調和な青春物語や成長物語とは全く無縁の、少年達の葛藤や焦燥や情熱がひたすら綴られる。

 そして、巻の終盤、ようやく舞台は再試合へ。

 う〜ん。やっぱり最終シーンはこんな感じかぁ・・・。これが野球小説(とか、漫画とか、映画とか)の難しいところで、最後はコレかアレしかないよなぁ・・・。

 でも、良い小説だった。

 児童文学だからって、甘く見てたらヤケドする。激しく、冷たく、熱く、ヒリヒリするような作品。


 お次は本日読了、『蹴りたい背中』(綿矢りさ・著/河出文庫)。
posted by ふくちゃん at 23:38| Comment(2) | TrackBack(1) | 児童文学

2007年04月09日

カラマーゾフの兄弟3


カラマーゾフの兄弟 3
著者名:ドストエフスキー(著)
     亀山郁夫(訳)
出版社:光文社
出版年:2007.02
ISBN :9784334751234


 今回も結構読むのに時間がかかった。北方水滸伝とほぼ同じ厚さで、向こうはあっという間に読めるのにな。

 面白くないわけじゃない。むしろ、ぐいぐい読ませる。なんだか得体のしれない異様な迫力がある。しかし、やはり一筋縄では理解できないところもあって・・・。


ゾシマの死に呆然とするアリョーシャ。しかし長老の遺体には、信じられない異変が起こる。いっぽう、第2巻で「消えて」いたミーチャは、そのころ自分の恥辱をそそぐための金策に走り回っていた。そして、ついに恐れていた事態が。父フョードルが殺された!犯人は誰なのか。
(「BOOK」データベースより)


 主要な登場人物たちはごく一部を除いて、やたらに多弁で饒舌で情熱的で、何かに取り憑かれたように常軌を逸した躁状態と鬱状態を行き来する。

 そして、この第3巻ではカラーマゾフ3兄弟の長兄ミーチャが、純粋で高潔ゆえに人生を狂わせていく、その様が滑稽でもあり、哀しくもある。

 しかし、ドストエフスキーって、重厚で難解で説教臭くて退屈で・・・と勝手にイメージしていたのだが(若い頃『罪と罰』も数ページで挫折したし)、こんなに(ある意味)パンクやったんやな。

 登場人物たちの思考や感情や妄想が暴走しとる。この迫力には、グロテスクなだけの通俗小説では勝てまい。

カラマーゾフの兄弟1
カラマーゾフの兄弟2


 次は『バッテリー6』(あさのあつこ・著/角川文庫)。これは昨日今日で読み終わったけど、『村上かるた うさぎおいしーフランス人』はまだ途中。
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2007年04月03日

あらしのよるに 2


あらしのよるに 2
著者名:きむらゆういち(著)
     あべ弘士(画)
出版社:講談社
出版年:2007.03
ISBN :9784062756709



 有名な絵本の文庫版。

 映画にもなったね。

 もともとの絵本版は、

第1巻 あらしのよるに
第2巻 あるはれたひに
第3巻 くものきれまに
第4巻 きりのなかで
第5巻 どしゃぶりのひに
第6巻 ふぶきのあした
第7巻 まんげつのよつに
特別編 しろいやみのはてで

の全8巻だが、文庫版の1は『あらしのよるに』『あるはれたひに』『くものきれまに』、文庫版の2は『きりのなかで』『どしゃぶりのなかで』が収録されている。

 絵本の中にも読みたいものはいろいろある。でも高いし、薄いし、コストパフォーマンス的に辛い。

 このシリーズも何年もの間、買うか買うまいか悩んでいたら、こうやって文庫化されたので、渡りに舟、勿怪の幸いである。

 なんと挿絵は書き下ろし。フルカラーではない。これはこれで味もあって嬉しいのだが、絵本版とは微妙に違うということで、やっぱりアチラも買うべきか、とまた悩む。

 しかし、面白いよ、コレ。

 狼のガブと山羊のメイ。

 本来なら、食べる方と食べられる方。

 ところが、お互いの姿が見えない状況で、つまり何の先入観も抱かない状況で、出会った2人はあろうことか、親友になってしまう。

 それ以来、もう自分は絶対に山羊は食べないと決めて、それを守り通しているガブがイジラシイやらオカシイやら。いいヤツだなぁ〜。

 2人の友情はいろんな形で試されるけど、本当にお互いを思いやる気持ちがあるから、最後には必ず乗り越えられるのだろう。


 今は、家では『村上かるた うさぎおいしーフランス人』(村上春樹+安西水丸・著/文藝春秋)、外では『カラマーゾフの兄弟3』(ドストフエスキー・著/光文社古典新訳文庫)を読書中。
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2007年04月01日

山ん中の獅見朋成雄


山ん中の獅見朋成雄
著者名:舞城王太郎(著)
出版社:講談社
出版年:2007.03
ISBN :9784062756839


 カテゴライズに迷ったけど、青春小説にしてみた。

 この作品も、舞台は福井県の西暁(にしあかつき)町(架空の町)。14歳の獅見朋成雄(しみともなるお)は、オリンピック候補の逸材と目されるほどの俊足ランナーかつ秀才。だが、祖父や父と同様に、背中にびっしり鬣(たてがみ)が生えている。祖父や父は背中だけだったが、成雄の場合は首周りから肩までも生えている。

 オリンピック代表選手の強化合宿に参加するよう誘われた成雄だが、有名になれば自分の鬣のことも広く知れ渡ってしまう。思春期の彼にとって、それは耐え難いこと。せっかくの誘いを断って陸上を捨て、書道の道に入る。というと、なんだか繊細なキャラのようだが、喧嘩も強いし、気風もいいし、舞城作品の主人公らしく、なかなかワイルドな14歳である。

 書道の師匠は、近所の山ん中に住む、有名な書家・杉美圃モヒ寛(すぎみほもひかん)。本当はモヒ寛ではなく大寛という名前だが、若い頃モヒカン刈りにしていたので、モヒ寛。相撲を取るのが趣味で、家には土俵があって成雄と稽古に励むし、茶を愉しむ風流人だが、茶室に続く路地の入り口の門には「猫騙し門」、待ち合い室には「がっぷり」、茶室には「うっちゃり堂」てな相撲由来の名前を付けている変人。でも、非常に可愛げのあるキャラで、成雄を「ナルちゃ〜ん」と呼び、成雄は「モヒ寛」と呼び捨て。

 で、ある日、モヒ寛が何者かに襲われて、瀕死の重傷を負い、警察から疑われた成雄が犯人探しに乗り出すが・・・。

 でも、ミステリじゃない。

 この後、展開はむちゃくちゃで、訳の分からない話になっていく。難解ではないし、そこに綴られている事象自体は理解できるけど、常軌を逸したストーリー。

 それが面白い。

 成雄がひょんなことから軽いノリで鬣を剃り落とすことに決め、いい考えだと思ったのに、実際に剃り落としたら、涙が出て体中の力が抜けて、少しの間寝込んでしまい、「もう自分は以前の自分ではない。自分は変わってしまった。元の自分には戻れない。再び鬣が生え揃っても、それは以前の鬣じゃないし、以前の自分に戻れるわけじゃない」と考えるところは、純文学的深さがある。

 ・・・無いかも。

 罪とは何か、カニバリズムは悪なのか、という問いかけも深い。

 ・・・浅いかも。

 荒唐無稽かつ楽しいエンタメ小説としても読めるし、爽やかな青春小説とも読めるし、純文学とも読める。ファンタジーと言えなくもない。

 ところで、舞城氏の文章は一文が長い。受験小論文やビジネス文書の世界では悪文もいいところ。でも、活きが良くてどんどん読める。そして、相変わらず多彩で独創的な擬音語の数々には感心するばかり。そうか、そう聴こえるよな、そう聴こえてもおかしくないよなと納得。

 グロい描写は控えめなので、そういうのが苦手(僕も好きではないが)な人にも比較的読みやすいかも。僕はわりと好きだな、この作品。

九十九十九(舞城王太郎)


 次は、あっという間に読み終わった『あらしのよるに 2』(きむらゆういち&あべ弘士・著/講談社文庫)。
posted by ふくちゃん at 15:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 青春小説