2007年03月29日

水滸伝・六 風塵の章


水滸伝 6
著者名:北方謙三(著)
出版社:集英社
出版年:2007.03
ISBN :9784087461336


 今回も一気読みだった。面白かった。

 しかし、こういうシリーズものって、だんだんレビューしづらくなる。

 例えば、この第6巻をしっかりレビューしようと思うと、過去のストーリーのかなりの部分をちゃんと説明しないといけない。第5巻までを読んでいない方にとっては、ネタバレになってしまう・・・。

 とりあえず、この巻では新たに梁山泊に強力なメンバーが加わる。有能かつ剛直ゆえに疎んじられ、地方の一将軍に押し込められていながら、大部分が腐りきった官軍の中で、自らの軍を精強に保ち続けていた生粋の軍人・秦明である。

 だが、オルガナイザー・魯達(あることがきっかけで魯智深より改名)の説得により、副官・花栄(実は元々梁山泊メンバー)と共に、叛乱軍の将となる。

 今や数少ない優秀な武将をまた失い、秦明率いる叛乱軍との戦では大敗を喫した官軍。

 しかし、腐ってもまだまだモノも人も豊かな国・宋。

 オモテを牛耳る宰相・蔡京(さいけい)とウラを牛耳る青蓮寺のリーダー・袁明が新たに迎え入れた聞煥章(ぶんかんしょう)という男は、恐るべき異才で全国放浪中の梁山泊の頭領・宋江を文字通り追い詰める。

 梁山泊との通信網を遮断され、暗殺部隊である王和の闇の軍に完全包囲された宋江と従者の4人(計5人ね。念のため)。第5巻に続く絶対絶命のピンチ。

 いつでも落ち着き払っている宋江はさすが。だが、従者の中でも長い間、宋江と共に旅してきた武松(ぶしょう)と李逵(りき)はひょっとしてここで消えてしまうのか?哀しすぎる過去を持つ武松、愛嬌溢れる子供のような李逵。どちらも優れた武人で、魅力的なキャラ。生き残って欲しいなぁ・・・。

 男が惚れる男が沢山出てくる北方水滸伝。敵キャラでさえ、なかなかのもの。三国志でもそうだったけど、これだけ数多い登場人物を、誰一人として手を抜かず描き切ろうとする熱さはスゴイ。

 帯に使われている秦明のセリフもいい。

 「人は誇りに生き、死するものだ。私の誇りは誰にも踏み躙ることはできん」

水滸伝・一 曙光の章
水滸伝・二 替天の章
水滸伝・三 輪舞の章
水滸伝・四 道蛇の章
水滸伝・五 玄武の章


 え〜、次は『山ん中の獅見朋成雄』(舞城王太郎・著/講談社文庫)。しかし、読んでも読んでも、読みたい本が減らない。嬉しいことなんだが、なんか気が焦る。
posted by ふくちゃん at 00:04| Comment(0) | TrackBack(1) | 歴史・時代小説

2007年03月26日

水に描かれた館


水に描かれた館
著者名:佐々木丸美(著)
出版社:東京創元社
出版年:2007.03
ISBN :9784488467029


 佐々木丸美さん(故人)の<館>三部作、復刊第2弾。

 三部作とは言っても、それぞれ独立した話なのかと思っていたら ― 前作『崖の館』はそれ単体で完結していたので ― 完全に続編だった。

いとこ三人の死の秘密をいだく“崖の館”。財産目録作成のため再び集った涼子たちだが、招聘した鑑定家は予定より一人多く来た。招かれざる客の目的とは。奇妙な緊張を孕んだまま迎えた一日目の夜、聖書を携えた少女が館に保護された。以降、人知を超えた出来事が館で立て続く。幻視的世界の神秘を纏い繰り広げられる密室劇は終局に至って驚くべき展開を遂げる。
(「BOOK」データベースより)

 前作では鼻に付いた(あくまで僕にとってはということだが)ペダンチックな会話の数々。今回は芸術に関する話ではなく、超常現象とでもいうべき不可解な出来事に関する考察が主で、単純にこういう不思議な話は好きである。

 そして、あたかも超常現象のごとき魅力的な謎と犯罪が、完全な密室あるいは密室的状況の下で、これでもかと言わんばかりに次々と発生する。

 最終的にどう合理的な解決に導くのか、わくわくどきどき。読んでいる間、とても面白かった。

 しかし、謎解きは微妙・・・。

 涼子の一人称視点による物語は、甘酸っぱい少女趣味的な愛の独白がひとつの伏線になっており、その真相は独創的と言えなくもないが・・・。しかし、これが真相であれば何でもありじゃないか、とも思える。これを合理的な解決と言えるのだろうか?放ったらかし同然の謎もあるがな。あの聖書を抱えた少女は結局、どこへ消えたのか?

 ・・・う〜ん。幻想的なミステリではある。

 第3弾の『夢館』は4月刊行とのこと。

 次は『水滸伝・六 風塵の章』(北方謙三・著/集英社文庫)。
posted by ふくちゃん at 22:57| Comment(2) | TrackBack(0) | ミステリ

2007年03月22日

ロング・グッドバイ


ロング・グッドバイ
著者名:レイモンド・チャンドラー(著)
     村上春樹(訳)
出版社:早川書房
出版年:2007.03
ISBN :9784152088000


 やっと読み終えた。とにかく分厚い単行本。5cmはある。

 ハードボイルド読みではなくとも、読書好き、特にミステリ好きなら、私立探偵フィリップ・マーロウとその創造主レイモンド・チャンドラーの名前を知らない人はいないだろう。

 ・・・とエラそうに言ってみたものの、僕も読んだのは初めて。

 なんせ、我がベスト・フェイバリットの村上春樹氏が世に問う、フィリップ・マーロウものの代表作『長いお別れ』の新訳。しかも、春樹氏本人が非常に影響を受けたという作家と作品である。

 読まないわけにはいかない。

 ひょっとしたら、「村上春樹」と「ハードボイルド」が結びつかないという方もいるかもしれない。しかし、ファンなら先刻ご承知の通り、春樹氏には『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』という作品(大好きだ!!)があり、ハードボイルド・タッチの語りが楽しめる。

 だが、今回『ロング・グッドバイ』を読んでみて、この作品がそんな表層的なレベルにとどまらない影響を春樹氏とその作品に与えていることを得心した。

 そして、春樹氏が本書の長い訳者あとがきで述べておられるように、フィッツジェラルドの『グレート・ギャッツビー』との相似性も確かに強く感じたし、『ロング・グッドバイ』がその後の純文学に大きな影響を与えたという考察にも納得である。

 一般的にイメージするところの(陳腐な意味合いでの)ハードボイルドとは全く違う。春樹氏がこの作品を一切「ハードボイルド」とは呼ばないのも頷ける。

 僕も今までいくつかのハードボイルドを読んできたし、好きな作品もあるけど、そのいずれともテイストが違う。

 純文学がハードボイルド・ミステリより上位の文学などと言うつもりは毛頭ないが、純文学のような味わいの小説である。

 それもくだらない純文学ではなく、優れた純文学の。


 で、次もミステリ。『水に描かれた館』(佐々木丸美・著/創元推理文庫)を読み始めたところ。
posted by ふくちゃん at 23:23| Comment(2) | TrackBack(0) | ハードボイルド

2007年03月14日

NO.6 #2


NO.6 #2
著者名:あさのあつこ(著)
出版社:講談社
出版年:2007.02
ISBN :9784062756358


 あさのあつこ氏のSF『NO.6』の第2巻。

 物語の導入部となる第1巻の内容は以前の記事を参照して頂こう。

 選ばれた者だけが住むことのできる清らかで快適な、しかし、どこか嘘の薫りプンプンの人工都市<NO.6>。

 そこを牛耳る人物2人が登場するが、その素性や何を目指しているのか(企んでいるのか)は、まったく不明。うち1人は、生物系の研究者で、<NO.6>を逐われた紫苑(しおん)の母・火藍(からん)とも、そして紫苑の相棒(?)で<NO.6>への復讐を誓うネズミ(←あだ名)とも、何か繋がりがあるらしい。

 第1巻で発生した<NO.6>の住民の奇怪な死(紫苑が殺人の容疑者とされた事件)は、この研究者の人体実験と関連があるようだ。実験の目的も内容も不明だが。

 そして、もう1人、紫苑とネズミが暮らす<NO.6>の排泄口のような街<西ブロック>で、<NO.6>の高官に売春を提供して儲けている、元新聞記者(かつては<NO.6>の仮面を暴こうとした)も、火藍とは知り合いらしい。

 第2巻に入っても、物語はまだまだ導入部。謎は謎のまま、というか謎が増えていく。この後が気になるね。

 で、今は話題沸騰中の『ロング・グッドバイ』(レイモンド・チャンドラー著/村上春樹訳/早川書房)を読んどりま。通勤時読書には不向きな分厚さ・・・。
posted by ふくちゃん at 23:58| Comment(4) | TrackBack(0) | SF

2007年03月12日

影踏み


影踏み
著者名:横山秀夫(著)
出版社:祥伝社
出版年:2007.02
ISBN :9784396333294


深夜の稲村家。女は夫に火を放とうとしている。忍び込みのプロ・真壁修一は侵入した夫婦の寝室で殺意を感じた―。直後に逮捕された真壁は、二年後、刑務所を出所してすぐ、稲村家の秘密を調べ始めた。だが、夫婦は離婚、事件は何も起こっていなかった。思い過ごしだったのか?母に焼き殺された弟の無念を重ね、真壁は女の行方を執拗に追った…。(「消息」より)
(「BOOK」データベースより)

 空き巣とは違い、家人が夜寝ている間に家に忍び込み、気付かれぬまま盗みを行う「ノビ師」。その中でも一流の腕を持つ「ノビカベ」こと真壁修一を主人公とする連作短篇集。

 これがなんと、19の時に母による無理心中的放火で死んだ(修一は不在だった)一卵性双生児の弟・啓二の魂が修一の中に住み付いていて、2人が修一の中で会話するというブっ飛んだ設定。

 この設定を受け入れられるかどうかで、この作品に対する評価がかなり変わると思う。

 僕はダメ。

 しかし、どのジャンルの小説に限らず、同じように荒唐無稽な設定でもOKだったり、NGだったりするその線引きが自分の中でどうなっているのか、よく分からん・・・。

 帯の「かつてこれほど切ない犯罪小説があっただろうか」という惹句については、「あったでしょ」というのが、僕の回答。それにコレ、犯罪小説という印象はあまりないし。

 ま、最後の最後は、ブッ飛んだ設定が効いて、ちょっとジ〜ンと来る感も無きにしも非ず。東野圭吾氏の『秘密』を連想しちゃうけどね。

 次は、これももう読み終わった『6 #2』(あさのあつこ・著/講談社文庫)。
posted by ふくちゃん at 23:26| Comment(2) | TrackBack(1) | ミステリ

2007年03月10日

銀河英雄伝説1 黎明篇


銀河英雄伝説 1 黎明篇
著者名:田中芳樹(著)
出版社:東京創元社
出版年:2007.02
ISBN :9784488725013


銀河系に一大王朝を築きあげた帝国と、民主主義を掲げる自由惑星同盟が繰り広げる飽くなき闘争のなか、若き帝国の将“常勝の天才”ラインハルト・フォン・ローエングラムと、同盟が誇る不世出の軍略家“不敗の魔術師”ヤン・ウェンリーは相まみえた。この二人の智将の邂逅が、のちに銀河系の命運を大きく揺るがすことになる。日本SF史に名を刻む壮大な宇宙叙事詩、星雲賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)

 初めて『銀英伝』を知ったのは数年前。CATVのとあるアニメチャンネルでだ。本伝の(全110話)の途中からだったが、偶然見つけて何とはなしに見出したら面白くて、結局最終話まで見た。

 で、それから原作を読み始めた。そもそもは徳間ノベルズで1982年〜1989年に発刊されたそうだが、僕が手に取ったのは徳間文庫版。ところが、ある巻がどの書店に行っても見つからない。しばらくして、どうやら在庫は書店に並んでいる現品限りで、増刷していないらしいことに気付いた(1996年〜1998年の刊行であったよう)。

 そこで、とあるネット書店で検索してみたら、なんと徳間デュアル文庫版で全巻揃っているようではないか!装丁も巻数も全然違うので、再び第1巻から買おうと数冊発注したが、家に届いた現物を見てがっかり。どう見ても新品ではない。古本を購入したわけでもないのに!しかし、奥付を見て納得。これも現品限りで、もはや増刷はされていなかったのだ・・・。

 そんなわけで、いつか増刷されるまで待とう・・・と思い至り、読書は中断と相成っった。

 ・・・念のために申し添えておくが、この作品が増刷されていないのは「面白くないから」「売れていないから」ではない。ノベルズ版は100刷を越えているそうだ。実際、アニメも原作も面白い。だからこそ、わざわざ文庫版の欠品らしき巻を探し回り、デュアル文庫版も頭から買い直そうとしたのである。

 ところが、先日書店に行って新刊コーナーの平積み台をチェックすると、『銀河英雄伝説1』とあるぢゃないか!心の中で「おお!」と叫び(きっと瞳孔が一瞬開いたと思う)、手に取った。装丁が違うぞ・・・と思ったら、徳間ではなく、創元SF文庫である。

 創元SF文庫は、これまで海外作品オンリーだったのだが、国内作品も刊行することになり、その第1回配本のひとつが『銀英伝』となったらしい。待った甲斐があった!エライゾ!東京創元社!隔月刊行らしいが、ぜひ外伝まで刊行してもらいたいものだ。

 やたら前置きが長くなったが、『銀英伝』はSFの衣を纏った「歴史大河小説」であり、そういうジャンルが好きな人はハマるだろう。自由民主主義的な国家「自由惑星同盟」と中央集権的・封建的な国家「銀河帝国」、2つの政治体制の衝突。だが、自由惑星同盟=善、銀河帝国=悪などという単純な二元論、勧善懲悪ではない。どちらの国家にも、方法論や考え方は違えど己の理想に忠実に生きようとする人間や、権力欲や保身に取り付かれた醜悪な人間がいる。それぞれの体制内での相克も描かれる。

 戦争シーンも互いの戦略・戦術がぶつかり合い、リアルだ。『宇宙戦艦ヤマト』のように、地球連邦艦隊を全滅させるような強大な敵が、たった1隻のヤマトに屠られる・・・みたいなことは起こらない(笑)。まあ、ヤマトは大好きだけど。

 その戦争において互いの中心にいるのが、全くタイプの異なる卓越した指揮官、自由惑星同盟のヤン・ウェンリーと銀河帝国のラインハルトである。

 そのタイプの違いは、次のようなセリフにも現われている。

「あいつらは今日の地位を自分自身の努力で獲得したのじゃない・・・権力と財産を、ただ血がつながっているというだけで親から相続して、それを恥じらいもしない恥知らずどもだ。あんな奴らに支配されるために、宇宙は存在するんじゃない」

 貧しい下等貴族の出ながら、燃えるようなハートに、類稀なる軍事的才能とリーダーシップを兼ね備え、銀河帝国皇帝はおろか全宇宙の支配者になってみせるという野心を、幼馴染の親友であり、腹心の部下でもあるキルヒアイスの前では隠さない、ラインハルト。彼は第1巻で早くも上級大将から帝国軍三長官のひとつ帝国宇宙艦隊司令長官へ、貴族としても「伯」から「候」へ昇進する。

「どいつもこいつも全然、わかっていやしないのさ」
「魔術だの奇術だの、人の苦労も知らないで言いたいことを言うんだからな。私は古代からの用兵術を応用したんだ。(中略)うっかりおだてにのったりしたら、今度は素手でたったひとり、帝国首都を占領してこい、なんて言われかねない」
「戦い続けていれば、いつかは負ける。そのとき掌が返るか、他人事ならおもしろいがね(後略)」

 歴史学者を志していたのに、食うために仕方なく軍人となり、できれば今も辞めたいと考えつつ戦功を立ててしまい、意に反して出世していくヤン・ウェンリー。彼もまた、准将から大将へと昇進する。

 第1巻では、この2人が初めて戦場で相まみえ、互いに優れた敵と認め合うことになるわけで、今後も彼等を中心に物語は動いて行く。

 組織の中に生きる人間としては、身につまされるシーンも多い。ビジネスマンにもオススメ。登場人物がいい男揃いなので(原作でもそう描かれているが、より具体的にはアニメ版を参照)、女性にもオススメ。

 ところで、僕はいまだにアニメの初めの数話と外伝(全52話)を見ていない。今WowWowで全162話を順次放送しているらしいが、加入してないしな。DVDを買うべきか?

アニメ公式サイト「銀河英雄伝説ON THE WEB」
銀河英雄伝説Wikipedia

 次は、もう読み終わった『影踏み』(横山秀夫・著/祥伝社文庫)を。
posted by ふくちゃん at 22:11| Comment(0) | TrackBack(0) | SF

2007年03月06日

水滸伝・五 玄武の章


水滸伝 5
著者名:北方謙三(著)
出版社:集英社
出版年:2007.02
ISBN :9784087461244


宋江の居場所が青蓮寺に発覚した。長江の中洲に築かれた砦に立て篭るが、官軍二万に包囲される。圧倒的な兵力に、宋江は追い詰められていく。魯智深は、遼を放浪して女真族に捕縛される。トウヒ(登におおざとへん+飛)ひとりが救出へ向かうが、幾多の危難がそこに待ち受けていた。そしてついに青蓮寺は、楊志暗殺の機をつかむ。妻子と共に闇の軍に囲まれ、楊志は静かに吹毛剣を抜いた。北方水滸、衝撃の第五巻。
(「BOOK」データベースより)

 ・・・というわけで。

 全国を流浪しながら志を説き、腐り切った宋を倒す同志を募る梁山泊のリーダー宋江。

 彼が動くまでその役割を担い続け、今また宋を挟撃するために外部の人間には極端な警戒心を抱く女真族と結ぼうと遼へ単身足を延ばした魯智深。

 もとは官軍トップクラスの武将で、今は梁山泊に連なる二竜山と桃花山のリーダー楊志。

 この3人にそれぞれ訪れる絶対絶命の危機とそれを潜り抜けるための闘い。

 まさに巻を置くを能わず。先が気になって、気になって一気読み。

 梁山泊vs官軍・青蓮寺の闘いは、ますますヒートアップ。男の生き様、死に様がカッコええ(好漢の死は残念+現実の戦争は嫌だけど)!

水滸伝・一 曙光の章
水滸伝・二 替天の章
水滸伝・三 輪舞の章
水滸伝・四 道蛇の章


 んで、次は『銀河英雄伝説1 黎明編』(田中芳樹・著/創元SF文庫)を。
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2007年03月04日

あなたに不利な証拠として


あなたに不利な証拠として
著者名:ローリー・リン・ドラモンド(著)
     駒月雅子(訳)
出版社:早川書房
出版年:2006.02
ISBN :9784150017835


 『このミス2007年版』と『週刊文春2006傑作ミステリーベスト10』の海外部門で第1位、アメリカ探偵作家賞受賞の逸品である。

 「ミステリ」という感じはあまりしない。謎はあっても謎解きそのものが主題ではないし、トリックやそれを打ち破る名推理があるわけでもない。

 舞台は全てルイジアナ州のバトンルージュ市警察。全体は5人の女性警察官を描いた5つの章から成る。各章につき1篇〜数編の物語(5人の人生)が綴られ、それぞれの章はかすかにリンクする。

 主人公の5人を始め、登場する警察官は皆何らかの問題を抱えている。彼女たちもまた我々と同じ生身の人間であり、完全無欠のヒロインではない。職務に忠実で、有能なプロではあるが、様々な死(自分の、同僚の、被害者の、犯人の)と隣り合わせの日常は、いろんな形で彼女たちを蝕んでいるようだ。

 考えてみれば、こういう環境の中で「普通」(の定義は難しいが)であり続けることは並大抵のことではないように思える。壊れた彼女たちの仕事ぶり、生活ぶりを肯定も否定もしない、どこか淡々とした描写がリアルで、不穏な緊張感を漂わせつつ、読ませる。

 著者は、実際にバトンルージュ市警で5年間女性警察官として勤め、交通事故がきっかけで30歳で退職。執筆にあたっては、古巣のバトンルージュ市警の第一線の警察官から本部長までが協力しているそうだ。

 これには驚いた。決して警察を美化した物語ではないからだ。かといって声高に批判する書でもないのだが、なんせ誤ってとはいえ、女性警察官が被疑者を撃ち殺し、それを隠蔽する物語まであるのだ。フィクションではあっても、こういう作品に日本の警察が協力することは絶対ないだろう。このあたり、アメリカも懐が深い、などと思う。

 本書は、12年の歳月をかけて編まれたデビュー作品集。じっくり熟成された優れた短編を読むのは至福のひと時であった。

 2作目は、やはりバトンルージュを舞台にした長編だそうだ。日本で刊行されるのは随分先になるだろうが、楽しみに待ちたい。


 現在は『水滸伝・五 玄武の章』を読んでいる。
posted by ふくちゃん at 18:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 警察小説