魚舟・獣舟 著者名:上田早夕里(著)
出版社:光文社
出版年:2009.01
ISBN :9784334745301
SF短編集。
SFとは、無論サイエンス・フィクションのことだが、むしろサイエンス・ファンタジーとでも呼びたい作品も多い。本格ハードSFは文系アタマには辛い部分もあるのだが、この手の作品ならそう苦労せずに読める。
で、この作品は書店で見かけたときに、どこかで(どこだ?)自分の頭に引っかかってた作品だな・・・と思い出したのと、帯に並ぶ称賛の言葉に惹かれて買った。
帯に称賛なり推薦なりの言葉が並ぶのは普通だが、曰く「年間ベスト級の傑作だ」「後半の中編は、人物造形において日本SF史上屈指の力技だ」「SF的なアイデアと作中のドラマが高いレベルで融合」などなど・・・。その言葉に偽りなし。
・内容
現代社会崩壊後、陸地の大半が水没した未来世界。そこに存在する魚舟、獣舟と呼ばれる異形の生物と人類との関わりを衝撃的に描き、各界で絶賛を浴びた表題作。寄生茸に体を食い尽くされる奇病が、日本全土を覆おうとしていた。しかも寄生された生物は、ただ死ぬだけではないのだ。戦慄の展開に息を呑む「くさびらの道」。書下ろし中編を含む全六編を収録する。
(「BOOK」データベースより)
とても面白いし、独創性に満ちた、レベルの高い作品集。これだけ「人間」を描いたSFはそう無いのでは。作品によっては、<幽霊>や<妖怪>が何の違和感もなく登場するし、ヴァリエーション豊かだ。
一篇一篇を紹介したいところだが、読んだ時の驚きと新鮮さを損なうと思うので、自粛。短編だと、紹介=ネタバレになりかねないし。
最後の書き下ろし中編『小鳥の墓』は、これだけで1冊の文庫本として売り出せる長さ。だから、この作品だけは設定を明かしておくと、火星の街で女性ばかりを対象に連続殺人を重ねて(一種の快楽殺人だ)、逃亡する男の少年時代の回想物語。
彼はかつて地球の<ダブルE地区>=<教育実験都市(=Educational Experiment City?)>に両親と共に住んでいた。それは、子供の健全な成長のために、数々の規制がかけれ−例えばネットでアクセスできる情報もフィルタリングされ、漂白されたものだけ−、周囲の普通の街からは隔絶された世界。高い競争率を突破した、模範的な親と模範的な子供だけが、安全快適な環境で生活する「小綺麗だが生気に乏しい都市」だ。彼は、ダブルE区の住人でありながら違法手段で<外>に抜け出して脱法行為を繰り返す非行少年・勝原と出会う。彼らの鬱屈、<ダブルE区>と<外>の実態、脱法行為の結末、そして主人公の殺人者への転向・・・読ませる。
解説によると、この『小鳥の墓』の主人公は、著者のデビュー作にして、第一長編『火星ダーク・バラード』(ハルキ文庫)の重要な脇役らしい。よし、『火星〜』も読むぞ。あと、第二長編『ゼウスの檻』(角川春樹事務所)ともリンクしているらしい。それも、文庫になったら買おう。
ついでに、表題作の超独創SF『魚舟・獣舟』と同じ世界を舞台にした別長編も2010年以降に予定されているらしい。そちらも愉しみだ。
著者の他の作品には、『ラ・パティスリー』『ショコラティエの勲章』といったお菓子小説(?)も(後者はミステリ)。これも気になる。
次は、『Story Seller』『Story Seller2』(新潮社ストーリーセラー編集部・編/新潮文庫)。

